唯一の条件
先程起こったパン事件(?)の後、俺は今度こそ明日リッチゾーンの城に攻めることを伝える事にした。
「じゃあ気を取り直して――メアリー。俺の話を聞いてくれないか?」
「はい、いいですよ?」
メアリーは、いつもあまり真面目な話をしない俺がこうやって真剣に話しているからか、少しこわばっていた。
……だが、ここで「そんな緊張しなくて大丈夫だ」なんて言っても、今からするのはメアリーからしたらなかなか衝撃的な内容だろうからな。
だから俺は、そのまま本題を出すことにした。
「明日な――俺たち、リッチゾーンを襲撃することにする。」
俺がそう言った瞬間――
「しゅ、襲撃!?!?」
メアリーは顔を真っ青にしてそう叫んだ。――って!?
俺今変なこと言ったか!?確かに驚かれるとは思ってたが、まさかここまでとは思って無かったぞ!?
しかし、今のメアリーの反応は通常で、おかしかったのは俺だったらしい。横に座っていたセリヤは、
「ば、バカテツヤ!言い方悪すぎでしょ!?」
俺に向かってそう叫ぶと、思いっきりビンタしてきやがった。――って!?
「痛ってぇ!?」
いきなりセリヤから飛んできたビンタを頬で受けた俺は、その衝撃で椅子から落ち、地面に倒れる。
しかし、セリヤは俺に謝るよりも先に、
「い、今のは違うの!私たちはただリッチゾーンの人たちを傷付けたい訳じゃなくて――」
メアリーの方を向き、必死にそう弁明していた。
「痛てぇ……」
その後、立ち上がった俺は、さっき座っていた椅子に座り直した。
メアリーはというと、俺が倒れている時、セリヤにされた説明のおかげで、何とか誤解を除くことは出来たそうだ。
――にしてもよぉ……
「おいセリヤ!さっきのは酷くないか!?」
俺はセリヤにそう言葉をぶつける。
まだ言い方が悪かったのに対して、言葉をぶつけてくるのは分かるよ、でも物理的にぶつけてくるのは違うだろ!
「さっきのは本当にごめん!いきなりの展開につい手が出ちゃったのよ!」
対してセリヤは、両手を合わせて必死に謝罪をしてきていた。
「はぁ……」
こんなに謝られたらこれ以上怒れないじゃねぇかよ……
「……もう良いから。もうこんな事すんじゃねぇぞ?」
「分かってる、本当にごめん!」
たくよ……これで許しちまう俺も俺だよな。
するとそこで、
「でもそれってやっぱり危なくないですか?」
誤解が解けた後、ずっと黙って考えていたメアリーがそう聞いてきた。
「まぁそりゃ危ないな。」
「危ないわね。」
それに対して俺とセリヤはそう返す。
多分「じゃあそんなことしないで下さい!」なんて言ってくるんだろうな。
しかし、メアリーは俺が思っていた様に止めようとはせず、
「……テツヤさんとセリヤさん以外にも、一緒にする人がいるんですよね?」
そう聞いてきた。
ん?これってどういう質問だ?
「あぁ、もちろんいるが?」
「……それは、みなさんで決めたことなんですよね?」
「あぁ、無理やりしても士気なんて絶対上がらないしな。」
さっきからなんなんだ?これ?
俺がそう淡々としてくる質問を不思議に思っていると、
「……分かりました。じゃあ私は止めません。それを止めようとする行為は、みなさんの考えを否定している様な気がしますから。」
メアリーは俺たちの目を見て、笑顔でそう言った。
「え?止めないの?」
メアリーのセリフに対して、セリヤがそう言う。しかし、
「はい、止めません。どうかプアゾーンの人たちを、私の両親を救って下さい。」
やはり、メアリーは先程と同じく、一切止めようとせずに、笑顔でそう言った。
あれ?結構止められると思ったんだがな。まぁ、止められないならそれで良いんだが。
「じゃあ――」
反対するメアリーを納得させるという必要が無くなったと分かった俺は、そう次に言うべきこと(明日実行する前に冒険者ギルドに避難してきてもらう)を伝えようとする。
すると、その言葉を遮るように、
「でも!ひとつ約束して下さい!」
メアリーはそう、俺たちが城を攻めることに対する唯一の条件を出てきた。その条件は、
「それは、絶対に生きて帰ってくることです!」
いつも通りの可愛い笑顔でそう言ったメアリー。
しかしその瞳は、微かに潤んでいるように見えた。
今思えば、あの時メアリーが全然反対せず、ずっと笑顔だったのは俺たちに心配を掛けない様にする為だったのかもな。
面白いと思ってくれた方は☆☆☆☆☆を押して下さると、嬉しいです!!そして是非ともブックマーク登録をして頂けるとありがたいです!凄く励みになります!




