見捨てられた人間
「身体が霧?それってどういうことだ?」
「俺にも分からない……」
俺とラークがそう漆黒龍に関する信じ難い情報に頭を悩ませていると、
「あ、今思い出したわ。この話どこかで聞いたことがあると思ってたけど、昔お父さんから話してもらった事があるわ。」
セリヤが昔の記憶を掘り起こしたかのようにそう声を上げた。
ん?セリヤのお父さんって確か死の道で死んだミリゴの冒険者だった様な……なんでそんなグーネウム帝国と関係無さそうな人が知ってるんだ……?
いや、今はそんな事を言ってる場合じゃない。
俺はセリヤの方を向くと、
「セリヤのお父さんはなんて言ってたんだ?」
そう聞く。
するとセリヤは腕を組みながらこう言った。
「私もよく覚えてはいないんだけど……グーネウム帝国で身体に攻撃が通らないモンスターが現れたとか言ってた気がするわ。」
「攻撃が通らない?それってこのノートに書いてある身体が霧と何か関係があるのか?」
ラークがそう言う。
「関係があるかどうかは分からないけど……関係無いとは言いきれなさそうね……」
「そうか……」
とにかく、世の中の事をあまり知らないセリヤが聞いたことのあるレベルなんだから、本当にやばいかもしれねぇな。――って、ん?
「ちょっと待ってくれ。」
そこで俺は、この街に住んでいる限り、切っても離せない存在を思い出した。
「どうした?」「何か思いついたの?」
俺のセリフにラークとセリヤがそう食らいついてくる。
いや、逆にこいつらはまだ忘れてるのか?アイツらの存在を。俺は今までこいつらの名前が会話に出なかった事が不思議で仕方ないんだが。
「でもよ?この街には幻影の騎士団が居るじゃねぇか。ファビラスだっけ?そいつなら倒せるんじゃねぇのか?」
俺は二人にそう言う。
だってよ?別にわざわざ俺たちがこうやって集まらなくても、この国の精鋭部隊である幻影の騎士団に任せておけばいい話じゃねぇか。
俺はそう思ったのだが、どうやら違ったらしい。セリヤは「確かに……!」そう言い、表情を明るくしたのだが……対してラークは、「アイツらな……」まるで敵を思い浮かべながら言葉を吐いている様な、そんな声でそう言った。
ん?冒険者と幻影の騎士団の間に何かあったのか?
「アイツらなってどういう事だ?何かあったのか?」
俺はラークにそう聞く。するとラークは、
「確かにここに居る冒険者全員最初はそう思ったさ、幻影の騎士団ならやってくれるって。でもよ、幻影の騎士団はいつまでたっても俺たちに連絡もしなければ冒険者ギルドに来ることも無かった。」
そう言った。
「……それってまさか……」
そう言うセリヤの顔が青紫色に変わって行く。
「そう、そのまさかだ。幻影の騎士団は俺たちを見捨てたんだよ。」
「な!?見捨てた!?」
俺は声を上げる。
いや、流石にそれは無いだろ!まだここまで来れてないとか……そ、そういう事じゃねぇのか!?
俺は冒険者ギルド内に居る冒険者たちを見る。するとその冒険者達は、唯一の頼み綱、唯一の希望を断ち切られた怒りと、悲しみの混ざった顔をしていた。そして、その光景を見ると、本当に見捨てられたという事を認めざるを得なかった。
「じゃ、じゃあ、ラークや他の冒険者はどうするつもりなんだよ?俺たちで食い止めるのか?」
俺はラークにそう聞く。するとラークは、
「食い止められる訳が無いだろ……俺たちはこれからグーネウム帝国から逃げるつもりだ。」
そう言った。
逃げるだと……?それじゃあこの街は?ノーマルゾーンはどうなるんだよ?
「それじゃあこの場所はどうなるんだよ」
「漆黒龍に全てを潰されるだろうな、ここだけじゃない、冒険者の居ないプアゾーンは一瞬で壊滅するだろうな。」
それを聞いた瞬間、俺は見たことの無い。それでもきっといつも優しく笑っているであろうメアリーの両親が頭に浮かんだ。
そんなのダメだ……!俺たちは冒険者だろ?
俺はそう思うが、それを口に出せる状況ではなかった。それはきっと、ここに居る全員が思っている事だからだ。ここに居る全員が、街の人間を守りたいと思っている。しかし、それが出来ない。そんな状況で、俺が自分勝手に叫ぶ事なんて出来なかった。すると、
「じゃあ、私が食い止めるわ」
今まで黙っていたセリヤが静かにそう呟いた。
その瞬間、冒険者ギルド内にいた全員の視線がセリヤの方へ向けられた。
「な!?ダメだ。そんなの無理に決まって――」
「じゃあ俺も行くぜ。」
俺がラークのセリフを遮るようにそう言う。まぁ、セリヤならそう言うと思ってたがな。
「テツヤも来てくれるの?初めて会った頃なら絶対逃げるって言ってるはずなのに、変わったわね。」
セリヤは俺にそう言う。
「確かに変わったかもな、俺。」
セリヤにそう返す。本当に、どうしちまったんだろうな俺。これじゃあモテモテになっちまうじゃねぇか。
「お、おい!仮にお前ら二人が行ったとしても止めれる保証なんて無いんだぞ!?」
しかし、俺とセリヤに対してラークはまだ反対的だった。でも頼むお前ら、ラークの事は責めないでやってくれ。こいつだって俺たちに腹が立って言ってる訳じゃない。俺たちの命を心配して言ってくれてるんだからな。
それに、ラークの言っている通り俺とセリヤ二人だけで底知れない実力を持つであろう漆黒龍を止められる保証など何処にも無いからな。
しかし、ラークのセリフに向かって、冒険者ギルドの酒場の方から一人の冒険者がこう言った。
「二人だけじゃないぜ。」
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