拍子抜け
穴の中に入るとやはり入り口と同じように周りが木の骨組みで補強されていて、約2メートル置きに松明が設置されていた。(ずっと火が消えないのは恐らくそういう魔法を使っているのだろう)
「どうだ?なにかあったか?」
俺は前を歩くセリヤに向かってそう言う。
「いや、ずっと同じような通路が続いてるわね……」
対してセリヤは、明らかにテンション下がり気味の声でそう言った。
こいつここに入るまでは「ダンジョンみたい!」なんてはしゃいでたから予想を裏切られて萎えてるんだな?
まず、こんな狭い穴に期待する方が野暮ってもんだよ。
まだ明るいから良かったが、これで暗かったら今頃叫んでるぞ?全く……
それから俺とセリヤは、5分程全く変わらない石の無機質なトンネルを歩き続けた。
すると突然、
「テツヤ、ちょっと止まって。」
ずっと無言で歩いていたセリヤが足を止め、俺にそう言ってきた。
「な、なんだ?」
対して俺はいきなり止まれなんて言われたから超ビビっている。まさかオバケがいるんじゃないんだろうな!?正直モンスターなんかよりもオバケの方が怖いんだよ!
しかし、セリヤは俺の思っていた様なオバケ報告では無く、
「ここから先、一つ大きな円形の空洞があるわ」
この無機質なトンネルが終わるという報告だった。
「空洞?」
なんで空洞なんてあるんだよ?鉄を掘る時ってそんな大胆にいくのか?
「多分、オーガが開けた穴よ。恐らく居るならここね。」
「あ、そっか」
狭い通路やオバケに気を取られて忘れていたが、ここにはオーガを討伐しに来てたんだったな。
俺は杖を力強く握ると、
「よし、行くぞ……!」
覚悟を決め、セリヤにそう言った。
「えぇ……!」
セリヤも俺のセリフにそう返す。
こうして俺たちは突然目の前に現れた空洞へと足を踏み入れた。
「すごい場所ね……」
「そうだな……」
トンネルを抜けると、俺たちはそう言葉を漏らす。
そこはさっきの様にたいまつは置いていない為、完全に見えるという訳では無いが、半径10メートルはありそうな巨大な空洞だった。
すると、
「ウォォ……」
突如、空洞の向こう側からそうドスの効いた唸り声が聞こえてきた。
「……ッ!」
遂にお出ましって訳か……!
俺はすぐに声のした方へ杖を向けると、
「光を放て、シャイニングボールッ!!」
上の方へシャイニングボールを放つ。
するとそのシャイニングボールはこの空洞の天井付近まで飛び、爆発。巨大な円形な空洞の全貌を光で照らした。
そしてその瞬間、そいつは姿を現した。
「ウォォォォ!!」
シャイニングボールの光を浴びた巨人の様なモンスターはそう叫び声を上げる。
コイツこそが、俺たちが討伐しに来たモンスター、オーガだった。
「……ッ!」
遂に現れやがったな、オーガ!
俺は上を向いて咆哮し、今にもこっちへ突進してきそうな化け物に杖を向けると、
「草木を燃やせ、ファイアボールッ!!」
レベル1だった頃からは想像も出来ない、爆裂魔法かと言わんばかりの巨大な火の玉を杖から放つ。
そのファイアーボールは、シャイニングボールの爆発で光を浴びた壁を更に照らしながらオーガの方に飛んで行った。
まぁだが、正直この一撃は当たるとは思ってはいない。単純な攻撃だしな。
俺は勢い良く飛んでいくファイアボールに視線を合わせる。
するとなんと、そのファイアボールはそのままオーガに直撃した。
「ウォォォ!?!?」
先程の咆哮を超える声をだすオーガ。
そして次の瞬間、その声をかき消すファイアボールの爆発音が聞こえ、凄まじい爆風がこちらへ吹いた。
「嘘だろ!?」
俺は爆発先を見ながらそう驚きの声を上げる。
その言葉は相手があまりにも強い時に使う戦慄の意味では無い。あっさり攻撃が当たった事に対する驚きだった。
だって報酬ゴールド額が百ゴールドなんだぜ?
確かに俺の放つ最弱魔法はユニークスキル[レベルアップ]の力によって信じられないくらい強化されている。
威力だけで見れば上級魔法とも良い勝負をするかもしれないくらいにはな。それでも、こんなに呆気なく攻撃が入るとは思っていなかった。
......まぁ流石にファイアーボール一発で死ぬ程ヤワではないだろうが。
俺は未だに土煙で見えない正面を、警戒しながら見る。
いつ、さっきのオーガが立ち上がって来て俺たちに飛びついてくるか分からないからな。
そして、横に立っているセリヤも同じ事を考えているんだろう。背中から剣を抜き、何時でも戦えるように構えている。
「……」
しかし、いつまでたってもオーガが襲って来ることは無かった。
「まさか本当にこの一撃で倒しちまったのか?」
遂にそんなセリフを口からこぼす俺。そんなことは無いだろうが、そう思っても仕方のない時間が過ぎていた。
すると次の瞬間、俺の目の前に今まで何度も現れてきた文章が表示された。
[レベルアップ!貴方はレベル21になりました。更に、サブスキル[身体能力強化]を獲得しました。]
その文章は俺がファイアーボール一撃でオーガを倒したという事の、決定的な証拠だった。
その後、この目でちゃんとオーガが死んだ事を確認した俺は、その証拠としてオーガの頭に生えていたツノを取り、それを担ぎながらグーネウム鉱山から出た。
「楽な仕事だったな。」
「全く、手応えの無さすぎるやつだったわ。」
俺とセリヤがそう会話を交わしながら穴から出ると、
そこには俺たちをここまで案内してくれた冒険者、ラークが居て、
「お、お前ら!まさかもう倒したのか!?」
そう驚きの声を上げていた。
「お、ラーク。待っててくれたのか。あぁ、オーガってのは思ったよりも手応えの無いやつだな。」
「全くよ、私なんてまず攻撃もしてないわよ。」
口々にそうオーガをバカにする俺たち。
それを見てラークは、
「お前ら、バケモンじゃねぇか……」
そう言った。
その後、俺とセリヤ。そしてグーネウム鉱山まで案内してくれたラークの三人で冒険者ギルドに帰っていた。
「冒険者ギルドで初めて会った時、ミリゴをバカにするような発言をして悪かった。」
ラークは俺とセリヤに頭を下げながらそう言う。
いや、別にこいつからは悪意は感じられなかったから謝る必要なんてないんだがな。
「別に怒って無いからいいって。」
「えぇ、貴方はミリゴをバカにしてるようには見えなかったわ。」
俺とセリヤは頭を下げて謝ってきたラークにそう言う。
そんな事より、俺は気になっている事があった。
それはなぜ、ラークがミリゴを下に見るような発言をしたのかって事だ。
ん?それはグーネウム帝国内ににミリゴに対する偏見があるからだって?いや、そんな事分かってるさ。
俺が知りたいのはなんでこんなに優しいラークまでもがミリゴを下に見てるのかって事だ。
だって赤の他人に対して普通グーネウム鉱山まで案内して、更に終わるまで待ってるなんてやつ。普通居ねぇじゃん?だからそんな優しい冒険者が悪口じみた事を言うなんて考えられなかった。
「でもなんで、こんなに優しいお前までミリゴの悪口を言うんだ?」
頭を上げたラークに俺はそう聞く。するとラークは、
「それは......この街で壮絶な権力を持っている幻影の騎士団がそう言ってるからだ。俺たちがその意見に反対すれば、幻影の騎士団の非行が自分に行われるかもしれないだろ?」
そう言った。
「そういうことか」
なるほどな。このセリフのおかげでやっと分かった気がするぜ。
要するにこの街の奴らはそれが悪い事だとしても、権力が強いやつがそうと言えばそうなる。
だからメアリーに対する幻影の騎士団の行動に誰も何も言わないんだ。見て見ぬふりって訳だな。
そこで俺たちは更にこの国、グーネウム帝国の闇深さを知ったのだった。
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