決戦前のハグ
冒険者ギルドから出て、15分程歩くと、サラマンダーが今現在出没している、西の洞窟に着いた。
「意外と迫力がないもんだな。」
俺は西の洞窟に入る入り口を見ながらそう言う。
すると、セリヤは、
「普段は普通のモンスターが出現する洞窟だから当たり前よ。」
俺にそう返した。
確かにな、この洞窟は、今は「サラマンダーが出没している洞窟」となっているが、元々はごく一般的な普通の洞窟って訳だ。
あ、一応この洞窟の事を説明しておくと、西の洞窟はスライムの森の近くにある洞窟で、普段は中級レベルのモンスターがいる。
まぁ、俺達は来た事が無いんだがな、とまぁこの洞窟の説明はそんな感じだ――と、俺が頭の中でお前らに説明していると、セリヤが、
「じゃあ...入るわよ」
と、俺に言った。
まぁ、このままずっと突っ立っていても何も変わらないしな。
俺は、セリヤのセリフに、
「あ、あぁ」
と返し、入り口の方へと、歩いて行った。
入り口の目の前に来ると、洞窟内からの空気が流れて来ていて、その空気は俺にこれからドラゴンの下位互換とも言われているサラマンダーと戦う、という事を実感させた。
……やっぱりいざ行くとなると緊張するな。
正直俺はさっきから冷や汗が止まらん、今すぐにでもセリヤの家に帰りたいくらいだ。
セリヤはさっきの一言から何も言っていないが、怖くなったりしないのか?
俺はふとそう思い、俺の横に立って西の洞窟の入り口を見据えるセリヤの方を見る。するとそこには――
「……!」
顔からは汗がダラダラと流れ、身体を小刻みにプルプルと震わせているセリヤの姿があった。
なんだ、てっきりどんな相手に対してもビビらない奴なのかと思っていたが、めちゃくちゃビビってるじゃねぇか。
俺は、そんなセリヤを見て、コイツも俺と同じなんだという気持ちと共に、助けてやらねぇとな。という感情が芽生えた。よし――
「おい、」
俺はビビり散らかしているセリヤにそう声を掛ける。
するとセリヤは、ビビっている事を必死に隠そうとしているのか、急に表情を明るくして、
「え、えぇそうね」
そう言った。
おい、返事がバグってるぞ。たく……どんだけ緊張してんだよ。
「大丈夫か?」
「え、えぇ大丈夫よ。」
はぁ……全然大丈夫じゃねぇだろ。
「おい、ちょっと来てみろ。」
俺はセリヤにそう言う。
すると、セリヤは不思議そうな顔で俺の方に近寄って来た。
よし……!もうここまで来たらやるしかねぇ!!
「ふぅ〜」俺はそう息を吐くと、頬が赤くなるのを我慢して、
「ちょ、ちょっと!」
セリヤを抱きしめた。
セリヤは初めこそ抵抗をしていたが、俺が優しく抱き締め続けている内に、抵抗を止めた。
それに合わせて俺は、背中を優しく擦りながらセリヤに声を掛けた。
「セリヤは正義感が強過ぎるんだ。それに何でも一人で背負おうとする。
俺はパーティーメンバーなんだから頼ってくれて良いんだぞ?」
「おとう、さん」
「ん?」
「な、なんでもないわ!ありがと!」
俺が言ったセリフの直後、セリヤが何か言っていた気がするが、まぁ言い。
だって、もうセリヤの身体から震えは消えていたからな。
俺がセリヤの身体から離れるとセリヤは、
「じゃあ、行きましょうか!」
いつも通りの、あのセリヤに戻っていた。
そうそう、コイツはこのテンションじゃないとな。
俺は、セリヤのテンションが元に戻った事を確認すると、
「あぁ!サラマンダーなんてぶっ飛ばしてやろうぜ!」
セリヤと同様、いつも通りのテンションでそう言う。
気付けば俺の身体からも、緊張は消えていた。
俺とセリヤは、満を持して西の洞窟へと入って行く。
サラマンダーとの決戦は、もうすぐそこにまで迫っていた。
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