まだ見ぬ強敵
それからしばらく歩くと、冒険者ギルドが見えてきた。
「やっと見えてきたぜ……結構遠かったな……」
俺は歩きながらそう声を漏らした。
たく……武器屋と冒険者ギルドが離れてるのは不便すぎるって。もっと近くに作れないもんなのかね……。
しかしセリヤは、
「そんなに遠いかしら?私は全然余裕だけど。」
涼しい顔でそう言う。
お前は剣使いでいつも暴れてるから体力あるかもしんねぇけど、こっちは杖使いだから普段そんなに動かねぇんだよ。
と、そこで俺はいつもより冒険者ギルドが騒がしい事に気付いた。
そんな様子にセリヤも気付いたらしい。
「なんか騒がしいわね、何かあったのかしら?」
俺の方を向き、そう言った。
しかし、冒険者ギルドが騒がしい理由を俺が知ってる訳が無い。だから俺は、
「さぁな、俺にもよく分からん。とりあえず行ってみようぜ。」
そう言った。
冒険者ギルドに着き、扉を開けると、いきなり冒険者ギルド内に居た全ての冒険者達が俺とセリヤの方を向き、顔を確認してからなぜか悔しそうな顔をして視線を外した。
なんだよいきなり顔を見やがって。
セリヤ以外の冒険者とは全く繋がりが無かった俺は、急に全員に見られた時、その異様な光景に恐怖を感じた。
……やっぱりいつもとは違う。
あの建物全体がガヤガヤしている感じは無く、冒険者ギルド全体が重い空気に包まれていたのだ。
こんなの絶対におかしい。
そこで俺は、この意味のわからない状況の理由を知る為に、受け付けのお姉さんに何故こんな雰囲気なのかを聞く事にした。
一言も話さず、暗い表情をしている冒険者達をかき分け、受け付けまで行くと、案の定暗い表情を受け付けのお姉さんがそこには居た。
「何かあったのか?」
俺が暗い表情をしている受け付けのお姉さんにそう聞くと、
お姉さんは、もうどうしようもないという表情で、俺と横に着いてきていたセリヤにこう言った。
「西の洞窟内に、突如、サラマンダーが出没したんです。」
そのセリフを聞いた瞬間、冒険者ギルドに入ってからこの重苦しい空気に押されたのか、一言も喋っていなかったセリヤが突然声を上げ、
「サラマンダーですって!?」
そう言った。
……ん?ちょっと待て。サラマンダーが西の洞窟に現れたのは分かったが……なんでセリヤはそんなに驚いてるんだ?
サラマンダーってトカゲの事じゃないのか?
小さい頃からこの世界で育って来た訳では無い俺はもちろん、この世界でのサラマンダーはどんな生き物なのか、知らなかった。
「なんなんだそのサラマンダーって」
さっきから明らかに顔に焦りを浮かべているセリヤにそう聞く俺、するとセリヤは、俺のこの問いに対して、恐ろしい答えを返した。
「簡単に言うと、ドラゴンの下位互換の様な生き物よ……」
恐ろしい物を語るかのようにセリヤはそう言った。
「ドラゴンの……下位互換!?」
セリヤのセリフを聞いた俺は、口からそう言葉が漏れた。
だってドラゴンってあれだろ?ラノベとかの物語終盤で、主人公が仲間と力を合わせて倒すモンスターだろ?それの下位互換!?
「それやばいんじゃないか?」
俺が頬から汗を流しながらそう言うと、セリヤは俺のセリフに同調する様に、
「えぇ、やばいわ」
そう言った。
だよなぁ?そりゃやばいよな?
これは俺達みたいな冒険者が触れていい、モンスターではないな。よし、違うクエストを……
俺がそう、クエストボードに行こうとした時、なんと受け付けのお姉さんは、俺とセリヤにとんでもないセリフを投げかけた。
「もし大丈夫でしたら、討伐してくれないでしょうか......?」
は……?いやいやいやいや!何言ってんだよこの人!?いくらおっぱいがでかいからって、言って良い事と悪い事があるぞ!
「絶対無理でしょ!ていうかなんでまだ中級冒険者の俺達に言うんだよ!」
受け付けのお姉さんの意見にとっさにそう反対する俺。っていうかこんなの当たり前だ。ドラゴンの下位互換を俺達が倒せる訳が無い。
しかし、俺が明らかに反対しているにも関わらず、受け付けのお姉さんはしつこく、
「討伐しないとサラマンダーが街を襲いに来る可能性があるんです!お願いします!報酬は何でも大丈夫ですから!」
そう、頭を下げて頼み込んできた。
いやいや、だから報酬とかじゃなくてさ、なんでわざわざそこまでして俺達に頼み込むんだよ。
「もっと他に頼める冒険者が、」
ここまで口に出した所でやっと気づいた。
なぜいつもの様なガヤガヤとした雰囲気が無いのか。
なぜここに居る全員が冒険者ギルドに入って来た人間を確認するのか。
誰も勝てないんだ......
ここにいる全員サラマンダーには勝てないから、戦うのが怖いから、だから強い冒険者が来る事を祈るしか出来ないんだ。
この時、俺はセリヤと冒険者になった理由を話していた時に彼女が言っていたセリフを思い出した。
「ミリゴの冒険者が弱いっていうのも理由の一つだけれど。」
この街に強い冒険者は居ない。
誰もサラマンダーには勝てない。
じゃあもうどうしようも、
「じゃあ私たちが行くわ」
そこで、今まで黙って会話を聞いていたセリヤが口を開き、よく通る声でそう言った。
「なんだと...?」「アイツら、確かまだ組んでまもない二人組だろ?」
セリヤのそのセリフを耳にした冒険者達が一斉にザワつき始めた。
……まぁ、コイツならこう言うと思ってたけどな。
俺は「はぁ……」と、一度ため息をついた後、
セリヤを一直線に見つめて、
「本気なんだな?」
そう聞いた。
するとセリヤは、クスッと子供らしく笑った後、直ぐに表情を真剣にして、
「戦いに関して、私が嘘をついた事、あった?」
逆に俺に尋ねるように、そう言う。
その瞳には炎が静かに燃え上がっていた。
......たく、仕方ねぇな。
「分かったよ」
俺は呆れた様に、そう呟く。
そのセリフを聞いた受け付けのお姉さんは、
「本当ですか!?」
目に、涙を浮かべてそう言う。
「あぁ、この街には世話になってるしな」
俺がそう返すと、
「ありがとうございます!!どうかお気おつけて」
願う様な声で、俺たちの武運を祈った。
そして、今まで全く元気が無かった冒険者達は、すっかりいつもの元気を取り戻し、
「頼むぞ新人!」「危なくなったら帰って来いよ!」
そう、俺たちにエールを送った。
はぁ……たく、コイツらも俺とセリヤを見習って、自分で何とかしようとしろよな?
まぁセリヤがいなかったら俺も絶対あの中に混じってるけどさ……
「じゃあ行くか。」「えぇ」
こうして俺とセリヤは冒険者ギルドにいる全員からの応援に背中を押されながら、サラマンダーのいる洞窟、西の洞窟へと向かった。
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