ピエロの究極ダイエット
これは、「乗物から乗物に飛び移る描写を書け」というお題をいただいたときに、作成したものです。
「さぁ、みなさん!お待ちかね、太っちょピエロの玉乗り芸です!」
司会の男が叫ぶと、テント内は歓声で大いに盛り上がった。
ドラムロールが鳴り響き、舞台中央の赤い幕が開く。
今日は、休日ということもあって、扇形の客席は家族連れで超満員だ。期待に胸を膨らませた子供たちの顔が、そこかしこで見られる。
ピエロは、堂々と玉に乗って登場した。両手を高々と上げて、一メートルくらいあるカラフルなストライプ模様の球体を絶妙なバランスで転がしていく。玉の回転と逆方向に足を動かして、まるで玉の上を走るように。回転が速くなればなるほど、ピエロの出っ張ったお腹が上下に揺れた。
会場は、爆笑の渦に巻き込まれた。お腹が揺れるたびに、子供たちは大口を開けてげらげら笑った。大人たちも、体裁を気にせず大声で笑った。
「みなさん、大いに笑っていただけましたか?でも、まだまだこれで終わりません」
司会の男の言葉に、観客は興味深そうに身を乗り出した。
「なんと今から、太っちょピエロが、玉から玉へと飛び移ります!」
その言葉に、観客がどよめいた。
「成功するかは、見てのお楽しみ!大丈夫、失敗しても脂肪がエアバッグ代わりになって、怪我ひとつしませんから」
と、司会の男が冗談交じりに言うと、会場から笑いが起こった。
そこで、テント内が暗転した。
観客のざわめきとともに、スポットライトが玉乗りピエロに当たる。そして、もう一角にスポットが向けられる。用意された同じ形の玉に。
ピエロは、足を細かく動かしながら、正面に見える玉を見据えた。タイミングを見計らって、右足で踏み込む。飛んだ。乗っていた玉は、後ろに蹴られて、ころころと転がってやがて止まった。それと同じ頃、ピエロは次の玉へと着地した。腹から。出っ張ったお腹が、玉に沈んだ。と、思ったら……。
パァァンッ
と、けたたましい音が客席に響いた。何かが破裂した音だった。
観客たちは、とっさに太っちょピエロがその体重で玉を割ってしまったと思った。しかし、玉は無傷のまま依然とスポットライトを浴びている。横たわったピエロを乗せて。
少しの間があって、ピエロは玉の輪郭に沿ってずるずると落ちた。出っ張ったお腹は、ものの見事に引っ込んでいた。
「みなさん、なんということでしょう!」
司会の男が慌てて出てきた。そして、お腹の破裂したピエロを指さして言った。
「太っちょピエロは、実は、ガリガリピエロだったようです!」
笑ってもらえましたか?