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♯.5 調整者の生活と戦いの危険

 ダンジョンと呼ばれる地球防衛施設の建設が世界中で行われ、無事完成してから更に半年が経ち、結局ウチの兄貴は調整(チューニング)を受ける第一陣として選抜され、地元千薔薇木(ちばらき)微香部(かすかべ)町郊外に掘られたダンジョンを新たな職場として生活する様になっていた。


 兄貴達の様な調整を受けた地球防衛の為に戦う者達を世間は調整者(チューナー)と呼び、ダンジョン内に出現する異世界からの侵略者……通称『モンスター』と戦う以外にも、TVなどのメディアに引っ張りダコだ。


 ウチの兄貴も都内キー局に呼ばれる事は流石に無いが、出勤シフトが入って居ない時には地元テレビ局の薔薇テレのワイドショーやバラエティ番組なんかに顔を出す事も有る。


 そうしたメディア露出に伴う出演料や、防衛戦を専用ドローンで録画した映像を調整者専門動画配信サイト『You Tuner』に流す事で、事前に聞いていた通り県警機動隊に居た頃の4倍近い月収を得る様に成っていた。


 とは言え以前の収入は保険金やら年金やら税金やら様々な物が引かれた上での手取りだったのに対して、今の収入はそうした『源泉徴収』とやらが入らない生の収入なので、後から確定申告をして税金を払わなけりゃ成らないらしいので丸っと使えないそうだ。


 一応、俺も学業に影響が出ない範囲でバイトはして居るが、電車一本で都内に出られるベットタウンとは言え、この街自体は割と田舎に区分される地域なので、最低賃金は900円に届かない。


 なので余程無理をしてシフトを入れない限りは、俺自身のバイト代から税金が引かれる様な事は無い、それでも一応給与明細は兄貴が調整者として収入を得る様に成った際に契約した税理士さんに提出する様には言われているけどね。


 と、何故こんな初っ端から金の話なんかして居るかと言えば、今日は俺のバイト代が出る日……要は給料日だからだ。


 基本的に俺のバイト代は全額自分の小遣いにして良い……とは兄貴に言われているが、特に部活動もせず金の掛かる趣味も無いので、大きな支払いが有るのは毎月の携帯(スマホ)代くらいな物で有る。


 だからと言って全額丸っと貯金するだけと言う訳でも無く、欲しい本が有れば買うし、やりたいゲームが出れば買う位の遊び金は使うし、学校の友人(ダチ)と飯行ったりカラオケ行ったりと遊びに行くにも金は掛かるのだ。


 とは言え自分の為だけに稼いだ金を使うのでは、亡き両親に代わって生活の面倒を見てくれる兄貴に申し訳が無いとも思うので、俺の給料日前後に兄貴の都合が付く日を見計らい全額こっち持ちで外食をするのが恒例に成っている。


 まぁ俺の奢りとは言っても所詮は高校生のバイト代で、高級料理を食べに行くと言う様な事は無く、もしそんな事を言っても兄貴から拳骨をご馳走して貰う事に成るのが目に見えて居るので、行くのは比較的リーズナブルな食べ放題系の店だ。


 今日は兄貴のシフトも早い時間に終わる筈なので、久しぶりに県庁所在地の千戸玉(せとたま)市まで出かけて、普段よりちょっと高い焼肉食べ放題へと行く予定で有る。


 基本、家の事は俺も兄貴も気が付いた方がやると言う事には成っているが、学生の俺と社会人の兄貴では自由に成る時間が圧倒的に違ったので、警察官時代には俺が家事の大半を担っていた。


 けれども兄貴が警察官から調整者へと転職……正確に言うと所属自体は警察官のままで、新規に立ち上げられた『防衛隊』と言う組織に出向して居ると言う建前らしい……以降は、以前より楽なシフトに成っているので俺もバイトを増やせる様になったのだ。


 機動隊時代は24時間勤務が有って翌日は非番で更にその翌日は9時18時勤務と言うのがワンセットで、その他に事件やら何やらが有れば非番でも緊急出動が掛かったり、有給を取ったとしてもやっぱり何か有れば呼び出される……と言うのが普通だった。


 対して防衛隊での仕事は1日24時間の内で4~8時間を目安に自己申告でシフトを組んで、1回出勤したら翌日は必ず防衛隊は(・・・・)休みと言う、世間一般から見ればかなり緩い勤務時間なのである。


 それで警察時代よりも多くの給料が貰えるのは何故かと言えば……副業に当たる物に依る収入も多いが、それ以上に日常的に発生する『戦闘』に対する危険手当が圧倒的に多いのだ。


 ちなみに戦闘と呼べる様な行動の映像を配信する事に問題は無いのかと言えば『全く無い訳では無いが、現実として新規に調整者を募集する為の広報として必要』なんて理由で、映画で言う所の『PG12』区分と言う事で一応の年齢認証が必要と成っている。


 異世界の存在とは言え生き物との殺し合いを映しているのに、その区分で済むのはモンスターと呼ばれる存在はどんな派手な怪我をしても血を流す事が無いからだろう。


『燃え上がれ俺の(ソウル)! ブチ抜け! ムラサマブレェェエエドォォオオ雄々!』


 丁度今、先日兄貴が撮ってきた映像がアップロードされた物を見ていたのだが、兄貴の手にしたムラサマブレードと名付けられた刀で『鵺』と呼称されるモンスタがぶった斬られて居た。


 しかしその傷口からは赤い物や臓物が溢れる様な、いわゆる『グロ画像』に成る事は無く、切り裂かれた部分から銀色に輝く光の粉とでも言うべき物が湯気の様に沸き立ち蒸発する様に消えていく。


 これは別にトリックだったり編集なんかが入っている訳では無く、異世界から来たモンスターは本来この世界に居るべき者では無い為に、この世界の生き物なんかをある程度の量捕食し『縁』が出来ない限り打ち倒されると消滅する事に成るのだそうだ。


 逆に言えば調整者を返り討ちにして、その血肉を大量に食らったモンスターは消滅する事は無く成り、その討伐映像は某大手イラスト投稿サイトの基準で言う所の『R18G』の区分と言う事に成りそうだが、今の所そこまで『育った』モンスターは居ないらしい。


 つーか、そうした育ったモンスターを出さない為に兄貴達は身体を張って戦って居る訳なのだがね。


『ラスカル君突っ込みすぎ! ラブリーヒール!』


 なおこちら側の人間がモンスターの攻撃でダメージを受けると、そりゃ当然の如く怪我をする事に成るのだが……ラスカル君と呼ばれた兄貴の同僚で、日曜日の朝に活躍してそうなフリフリのミニドレスを纏った魔法少女? さんの能力(ちから)で綺麗に傷が消えていく。


 なおラスカルと言うのは兄貴の『調整者名(チューニングネーム)』と呼ばれる物で、荒居(あらい) 拓馬(たくま)と言う本名から『た』を抜けばアライグマと言う所から来ている学生時代を通してずっと言われているあだ名で、今は『示現流ラスカル』の名で活動して居る。


 んで兄貴の怪我を回復させた女性は『回復天使(ヒーリングエンジェル)魔法使い(マジカル)らぶリン』さんじゅうにさい……で、前職は自衛官看護師らしい。


 兄貴が参加して居るチームは、他に『狙撃手スナイパーピノキ王』と言う女性と、『派遣戦士(セント)シャイン』と言う男性の4人で、前者はその名の通り銃使いで後者は名前に反して黒い闇の様な物を纏い格闘戦も出来るし遠距離戦も出来るスーパー格闘家だ。


 チームを組んでからは兄貴は私的にも彼等と交友を深める為に食事に行ったりもしており、その場に俺も連れて行ってくれる事も有るので全員と面識を持つ事が出来ているので、前職の様なプロフィールまで知っている訳である。


 なおピノキ王さんの前職は兄貴と同じく警察官で、ライフル射撃でオリンピック候補に成った事も有る腕前らしい。


 そして聖シャインさんは、なんと自衛隊や警察官なんかの『優先的に選抜される職業』の人では無く、派遣社員として生計を立てつつ裏では秘密裏にモンスターと戦って居た歴戦の格闘家だそうだ。


 ……と、そろそろ動画が終わりそうになったその時だ、唐突に家の固定電話がけたたましい呼び出し音を響かせた。


 ? 兄貴や友人なら携帯の方に掛けて来るだろうし、なんかの勧誘電話か?


「はいもしもし、荒居です」


 そう思いつつも、兄貴の前職絡みの連絡やメディアから来る取材の申込みなんかは家電に来る様にして居るので無視する訳にも行かず受話器を取り応対する。


「和馬君か?! 落ち着いて聞いてくれ!」


 電話の向こうから聞こえて来たのは、兄貴とチームを組む仲間では最年長の聖シャインさんの声だ。


「どうしたんですかシャインさん、そんなに慌てて……」


 嫌な予感が脳裏を過ぎる……警察官をやっていた時だってこうした連絡の度に殉職と言う言葉が頭を掠める事は有ったのだ、より危険度の高い職場に移ったのだから、何時そう言う話が来ても不思議は無い。


「ラスカル君が……作戦行動中行方不明(MIA)に成った……」


 俺はその言葉を聞き何も考える事が出来なくなり……ただ黙ってその後に続く言葉を理解する事も出来ずに聞いて居たのだった。

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