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♯.1 ヒーロー達の日常と世界大改編

「えーっと……おい、コレで配信って奴が始まるのか?」


 20XX年現在、前世紀には有り得なかったであろう職業が色々と発生し、ソレが一般的に認められ社会的地位を獲得するに至っている、例えば今俺達が行おうとしているコレも高度に発達したネット社会の恩恵が有ってこそ成り立つ稼ぎ方だと言えるだろう。


「先輩、もう始まってますから……皆さん今晩は! 今夜は先日の配信でも予告して居た通り千薔薇木県に有る千戸玉(せとたま)北ダンジョン第四層を攻略して行きます! 今日は何時ものメンツに加えて更なる戦力強化の為に此方のオッサンにも参加して貰う事に成りました」


 今回の配信は……と言うか俺達のチャンネルは録画後に編集して配信するのでは無く、リアルタイムノーカットで映像をお届けする所謂生配信と言う奴だ。


 言いながら撮影用のドローンを操作して俺を一度アップで撮った後、残りのメンバーを舐める様に移してから、先輩&オッサンと呼んだ袈裟を着て錫杖を手にした四十絡みの福々しい顔付きの人物を長めに映す。


「御存知の方は御存知かと思いますがこの狸見たいなオッサン、大改編前からこの千薔薇木県一体を守っていたと言う、所謂『ノンチューナー』の古強者(ふるつわもの)なんですよね! 今夜はそんなベテランの腕前を皆様にもじっくり御覧頂きたいと思います!」


 しかしこれから行われる配信の内容は、前世紀では考えられなかった……なんてそんな簡単な物じゃぁ無い、ほんの半年前まで極々一部の関係者以外には想像すら出来なかった物の筈だ。


 そう……俺達はこれから通称『ダンジョン』と呼ばれる場所へと潜り、モンスターと言われる存在と戦う姿を専用ドローンを使って配信すると言う、それこそ漫画やゲームの様な真似をしようとしているので有る。


 今日は今まで俺達が潜って居た第三層よりも一段深い所を目的地にして居ると言う事も有り、世界中にダンジョンが作られる事に成った『大改編』以前から人知れずモンスターと戦ってきたと言う人物に助っ人として参加して貰っているのだが……


「どうも、拙僧、狢小路(むじなこうじ) 本吉(ほんぜん)と申します。千薔薇木県微香部(かすかべ)町の「ちょ!? (ぼー)さん! ネットで個人情報丸出しは不味いっす! と言う訳でこの人ネット弱者なんで戦う姿だけ見て下さい! では突入しまーす!」


 初っ端から配信事故スレスレの発言をブチかましそうに成ったのを慌ててインターセプトしつつ、俺はこんな仕事に就く事に成った今迄の半年間を思い返すのだった。




『日本は……地球は……この世界は狙われている!』


 そんな言葉から始まった中泉なかいずみ 洋一郎新総理の所信表明演説は恐らく未来さきの時代には教科書にも乗る事に成る物だったのだろう。


 普通に考えて一国の総理が……それも憲法九条で戦力の放棄を謳っている国の国家元首と一般的に見做されているであろう人物が口にするべき言葉では無い、その発言を聞いた多くの者がそう考えるのが当然と言える言葉だった。


 なにせソレは東アジアの日本と言う国に敵対的な態度を見せている多くの国を挑発していると取られても不思議は無い発言とも取れるのだ。


 しかし本来ならば其れに対して即座に罵詈雑言にしか聞こえない様な野次を飛ばす立場で有る筈の野党大物議員達は、皆沈黙を持ってその言葉の続きを促した。


 一部、議員一年生の『事前に何も知らされて居なかった』者が総理の言葉を遮ろうと声を上げたりもしたが、それを鎮めたのは議長では無く普段なら同様に野次を飛ばしているであろう某国のスパイ等と揶揄される事の多い議員だったのは皮肉としか言えない話だ。


 兎角そんな過激な言葉から始まった総理の言葉を纏めると、今まで一般には秘されて居たが地球以外の異世界が観測されて居る事は、国際社会の為政者達には既に共有されて居る事実で、そうした別の世界からの侵略者とでも言うべき者が居ると言う事だった。


 今まではそんな侵略者との戦いは、各国の秘匿部隊や一部の力有る有志が担って来たのだが、大凡半年後にはそうした『隠せる程度の戦力』では手に余る状況に成る程の大攻勢が始まるのが予測されたのだと言う。


 その言葉『だけ』ならば、恐らくは誰も彼の言葉を信用する事は無かっただろう、けれども総理の身体が一瞬光りに包まれた直後、その場に居たその姿を目にした一定年齢よりも上の者はソレが事実で有ると言う事に強い確信を持つ事に成った。


 前世紀最後の年に東京都内で発生した原因不明かつ犯人不明の大量殺人事件、その際に幾度もニュースに取り上げられていた一体のUMA(未確認生命体)が其処に居たのだ。


 俺自身は当時未だ産まれてすら居なかったので、ソレを知ったのはその演説を解説する動画で取り上げられていた当時のニュースの切り抜き画像が有ったからだが、リアルタイムでその事件に接していた世代にとっては当に彼こそが英雄(ヒーロー)だったのだろう。


『しかし希望は有る! 私が現役だった二十年前には才能の有る者が命懸けの……其れこそ血の小便を出す程の努力してやっと手にした戦う為の能力(ちから)が、今は科学技術の進化によって簡単な調整(チューニング)を受けるだけで得られる様になったので有る!』


 人は太古の昔から稀に現れる異世界の存在と戦う戦士を育て、ソレが人知れず勝利を重ねる事でこの世界はずっと守られて来たのだと言う。


 総理が戦ったと言う二十余年前の『事件』は、そうした異世界の存在が組織立って行動した事とマスメディアが発達して居た事で、完全に隠蔽する事が出来ず表沙汰に成った稀有な例の一つだったが……此れからはソレが無数に発生するのだそうだ。


 けれども彼の言葉の通り、何の希望も無く只々襲い来る化け物達に怯えて居ろと言う訳では無いらしい。


 調整と言うのがどれほど危険でどんな副作用が有るのかは、その言葉だけでは分からなかったが、少なくともその技術を用いる事で『防衛戦力』を用意する事は不可能と言う訳では無いのだと言う。


『異世界の存在は必ずしも物理法則に従う訳では無く銃器や爆弾と言った兵器を用いての対処が難しい事が多い、その為に調整を受けた戦士が必要に成る。幸い調整に必要と成る機材は精密機器だが、それを作る為に必要な技術の多くを日本は保有して居る』


 そんな言葉で説明された通り日本は『調整』に必要な技術の大部分を保有しているそうで、この技術を巡って外国からの圧力を受ける様な事は無いらしい。


 逆に此れからの時代、調整技術は国土防衛の為に必ず必要と成るそうで、ソレを持つ日本の外交的アドバンテージは計り知れないそうだ。


『だからと言って日本に対して敵対的な国家に技術を渡さない等と言う真似はしないとここに明言します。しかし調整に依って得た能力者を国家間の争いに用いる事は禁止し、万が一にもソレを行う様な事が有ればその国には経済制裁以上の制裁が課されるでしょう』


 だが総理は最初からこの技術の出す出さないを外交上のカードにはしないと言う、それは日本に友好的では無い国だからと技術を出し渋る事で、その国が陥落してしまえば異世界からの侵略者に対して橋頭堡を与える事に成るだと言う。


『我が国では先ず自衛隊員や警察官の中から希望者を募り調整を受けて貰う事に成るが、残念ながら調整を受けた者が全て確実に戦える様に成る訳では無い。その場合どうしても足りない人員に関しては民間人の中から更に希望者を募る事になる事をご承知願いたい』


 そんな言葉で締めくくられた彼の演説を裏付ける様に、同日中に世界中の多くの国々の元首が同様の内容を演説し、会見を開き追従して見せた。


 日本に対して普段から敵対的で挑発的な行動を見せる大国二つと、その取り巻きとでも言うべき小国すらもがソレをした事で、ソレが一国家の問題では無く地球と言う惑星の危機で有ると嫌でも知らされる事に成ったのだった。

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