最弱スキル56〜61話
今日は初めて実技の授業の日だ。
いや、正確にいえば今までも何度かあったのだが、そのほとんどが筋トレと素振りという、とても名門とは思えない指導方針だった。
だが、今日初めて実践形式で戦う事になる。
「今日の授業だが、校舎内の敷地内にそこそこの規模の森があるだろう?あそこで4人パーティーを組んで、戦ってもらう。パーティー対パーティーだ。この授業は、森の中で野党や知恵のある魔物との集団戦を想定している。だから勝手な行動で迷惑をかけるんじゃ無いぞ」
先生の説明が終わると、一気に皆んなでパーティーを組み始めた。
僕も誰か組んでくれそうな人を探すか……
ガルドが1人寂しそうにしていたので声をかけた。
「ありがとうございやす。俺1人で戦う事になるかと思ってました」
「いや、その場合は余った奴と組むだろ……」
さて、あとはエルナも誘おうか……
そう思ってエルナの方を見ると、見事に人溜まりだった。
「エルナさん!俺たちと組みましょうよ。風魔法なら俺たちですぜ!」
「いや、私達の方がいいですよ!私の方が強力な風魔法を使えますから、エルナさんを軸に作戦を……」
「それよりも僕達の風魔法の方がエルナさんを美しくできます!どうかこの手に口づけを……」
皆んな何故こんなに風魔法を使いたがるのだろうか……
と、突っ込みたくなるが、風魔法は全属性の中でもトップクラスに強い。
というのも、属性には属性ごとに弱点がある。
同じ威力の魔法を撃っても、火属性魔法と水属性魔法では、ぶつかり合った際に水属性の方が有利だ。
関係は
木→水→火→木
闇→光→空間→闇
になっている。
しかし、例外として、風属性や氷属性、雷属性なんかの派生属性は弱点が無い。
そのかわりに強い属性も無いのだが、風魔法は素の威力で強い魔法が多い。
だから、風属性は多くの魔法使いに使われる。
一流の魔法使いになると色々な属性の技を極めたりもするそうだが………
普通は1つの属性に打ち込んだ方が威力が高い魔法が使えるようになるので1人一属性だ。
だから、昔から風魔法を使う人が多い。
おっと、エルナは沢山勧誘が来ているようだから、うちには来ないだろう……
仕方がない、他の誰かにするか………
と、思っているとエルナがみんなに頭を下げた後、こちらに来た。
「ねぇ、私も入れてくれないですか?まだ2人しかいないんでしょう?」
「あれっ?沢山組みたがってた人がいたはずだけど……」
「私は貴方達と組みたいんですよ。前回貴方と戦って自分の未熟さを知りましたから、貴方の横でまた学びたいのです」
そんな大層なもんでもないのだが……
だが丁度いい
「是非よろしく頼む」
エルナとはもっと仲良くなっておきたい。
いずれ魔王討伐の旅に連れて行ってもらうためにも……
「それで、後1人ははどうしましょう?」
「うーん……特に仲良い奴もいないしなぁ」
「俺はこの2人が揃っちゃえばどのグループにも勝ち目なそうに思いますけどね……」
「あっ!あそこにまだ1人の方がいらっしゃっいます」
「じゃああの子にしよう。名前は……クリスだったけ?」
僕達はその余っていた子の近くに歩み寄る。
金髪の可愛い顔をしていて、一見すると女の子の様に見える男の子だった。
「ねぇ、もしまだパーティー決まってなかったら良ければ僕達と組んでくれない?」
「えっ!い、良いんですか!?もちろん喜んで!僕の名前はクリフです」
気を利かせて名前言ってくれた。危うくクリスと呼んでしまう所だった。
パーティーの戦略は主にこうだ。
僕は投石と剣で近接、中衛を一気にこなす。
エルナが剣で近接を受け付ける。
ガルドは魔法使い、闇魔法の使い手だった。
というわけで闇魔法で遠距離援護をしてもらう。
こんな風にパーティーを決めてから戦略を立てていく所はそんなにいないだろうが……
「それで、クリフさんはどういった戦い方を?」
「僕はオリジナルスキルの『空気操作』を使います」
「?……空気操作って、それは風属性の魔法と似たことが出来るの?」
「まぁ、風属性の魔法なら同じ様なことは出来ますよ。僕の場合はもう少し細かく行けますけど……」
「と言うとどんな感じ?」
「たとえば、自分の周りの空気を消して、酸素のみ摂取出来るようにさらに外から口周辺にチューブ状に空気を送ればその空間では火が起きません。逆に空気の量を調整して雷も通りにくくしたり出来ます」
「……つまり?」
「要は火属性の魔法はほぼ効きません。雷属性も当てるのが難しくなるといった感じ……でしょうか」
「素晴らしいよ!」
とんでもない子を捕まえてしまったかもしれない……
「他には何が出来る?」
クリフのスキルは応用の幅が効きすぎる。
きっとさっき言っただけでは無いはずだ。
「他にはそんな大した事は出来ないよ……例えば空気を固めて武器や防具代わりにしたり、酸素の量を増やす事で火属性の魔法の威力を高めたり、空気の魂を放ったり……あとは射程距離が5メートルしか無いけど、相手の周りの空気を全て二酸化炭素にしたり。そのくらいだよ?」
そのくらいだよ?じゃねぇ
めちゃくちゃ強いじゃん。
「いや、それほとんど無敵だろ……」
僕でも縮地で一瞬で近づいて倒すくらいしか考えられない。
普通の人は縮地を使えないから、近接専門の人は近づいて倒すしか無いが、近づいたら息が出来なくなり最悪死亡。
遠距離は空気弾で牽制出来るし、ある程度の攻撃なら空気の塊を自分の周辺に置いて防御できる。
まさに万能。
そんな事を思っているとクリフが申し訳なさそうに話し始めた。
「で、でも僕のスキルは戦闘系のオリジナルスキルじゃ無いし……」
「いやいや、僕もオリジナルスキルは戦闘系じゃないよ」
その言葉にクリフどころか、ガルドとエルナまで驚いていた。
「ち、違ったんすか?てっきり戦闘系スキルだと……」
「私もてっきり何らかのステータス強化があるのでは……と思っていました」
2人とも知らなかったのか……
別にこの2人には僕のオリジナルスキルについて教えちゃっても良いかな……
初めはスキルの効果が貴族にバレたら用心棒として利用しようと囲われたりするかも……と思って黙っていたが、ガルド曰くもう並の貴族じゃ手を出せないくらいには権力があるらしいし……
別にバレても構わないかな
「うん、違うよ。僕のオリジナルスキルは『スキル重複』同じスキルを幾つでも習得出来て、同系統の効果も重複するんだ」
「恐ろしい程に強いスキルっすね。そんなの今まで聞いたこと無かったっすよ」
「………前にケインが自分の適性値がGだと言っていました。実は今でも疑っていたんですが、これで納得しました」
まぁ、僕のスキルも大概壊れてるからな……
雷神や勇者も恐ろしいけど。
そんなわけでみんなのオリジナルスキルを紹介していくこととなった。
「私は……ご存知の通り『勇者』です。効果は幸運を除いた全ステータスが+10000。追加で全てのステータスが、レベルアップ時に+400されます」
出た、1番の壊れスキル。
ちょっとこれは勇者1人で魔王討伐出来そうなんだが……
「えっと……俺のオリジナルスキルは『剛運』です。効果は幸運のステータスが+5000。レベルアップ時に幸運が+100されます」
ガルドのスキルは戦闘系ではあったが、ぶっちゃけ……あまり……うん…
「強くないっすよね……」
その言葉にどうフォローすれば良いのか分からずみんな黙ってしまった。
「す、スキル適性値は高いんでしょ!ならこれから色々スキルを手に入れれば……」
「俺のステータス……幸運以外の伸びが2なんで素のステータスが絶望的っすけどね……」
「………………」
………………………………………
…………………
………
「……勇者様の情報を知ろうと思って聞いていたが……これは中々悪くないぞ。まさか僕と同じ、『スキル重複』を持つやつがいたとはな……」
物陰に隠れてひとりごとを呟く。
彼は嬉しそうな顔をしていた。
「炎鳥の舞!」
剣に炎を宿し、エルナが剣を振るう。
相手は必死に防御使用していたが、その速度に追いつけず真面にくらう。
「グハッ!」
「ふぅ………これで3パーティー目ですね」
エルナはなんでもなかったように言っているが、斬られた奴、結構血が出てるんですけど……
幸いすぐに先生が保健室に運んでいってくれた。
回復ポーションも使われていたし、致命傷では無かったからまぁ、大丈夫だろうけどね。
僕達は続く4パーティー目を探したが、誰も戦おうとしてくれない。
「いや、誰か来てくれないと訓練にならないんだが……」
今まで戦った相手が皆そこそこ怪我していたから怖がって近づかなくなったのだ。
1番酷いのはクリフの空気操作による呼吸困難だったな。
加減していたらしいが、顔色が悪くなっていてちょっと見てられなかった。
「しばらくは誰も戦ってくれなさそうですね」
「だな」
そう思って1度休憩しようとした時、
「なら僕と戦ってくれないかな?」
と声をかけてきた男が1人。
「え、良いんだけど、そっちのパーティーメンバーは?」
「いないよ。僕1人で戦ってる」
可哀想に……余ってしまったのか。
「あんな雑魚共と組む意味なんて無いししね」
違った。厨二病をこじらせた奴だった。
「じゃあ1対4で戦うのはフェアじゃ無いし、誰か1人と……」
「それじゃ戦いにならないでしょ。せめて4人はいないと」
……コイツ、挑発してんのか?それとも本当に1対4でも勝てる自信があると、
「別にこっちは困らないけど、本当にそれで後悔しないんだな?」
「もちろん。神に誓うよ」
なら良いか。
「なぁ、皆んな。彼が4対1で戦いたいってさ」
「……本気ですか?流石に勝負にならないかと」
「さっきまででも結構圧倒してたのに……」
「俺は良いっすよ」
皆んなやはり、それは流石に勝つだろうという反応だった。
僕も戦うまではそう思っていた。
「それでは、失礼します!」
エルナが縮地を使って距離を一気に詰める。
大体はこれだけで終わる。
あれだけ大口叩いたのだから、もう少し粘るだろう……
その瞬間、アイツは一瞬で僕の前に来た。
そして重い一撃を放つ。
なんとか受け止めたが、筋力値に特化した僕でも危なかった。
これは至近距離で他の人が食らったら、ひとたまりも無い。
「アイツ……今のは縮地か?」
「そんなはず……縮地は選ばれた人間しか教えられません。私はとケインさんは都合により習いましたが、騎士団の人間以外で使える者など……」
そうだった。
という事はアイツの今の移動は別のスキルか、素の速度。もしくは偶然縮地を手に入れたというところか。
するとアイツは嬉しそうにしていた。
「あははは。まさか今のが受けられるとは……流石だね『スキル重複』のケインちゃん」
「!何でそれを……」
「さっきこっそり聞かせてもらったんだよ。スキル、聞き耳でね」
聞き耳スキルとは、少し遠めの音を聞くことができるスキルだ。
射程範囲は凡そ10メートルしか無いが……
「そんなわけないよな?聞き耳では明らかに射程外の位置にお前はいた」
そう、こいつは
先生と何かを話していた。
それを見ている。
先生とはどう見ても30メートルは離れていたので聞き耳スキルの意味はないはずだ。
「フッ、まだ分からない?君と同じだよ」
「……!まさかっ」
「僕のオリジナルスキルも『スキル重複』だ。ただしスキルの適性値はF。完全に君の上位互換って事」
やはりそうか……
「お前は何者だ?」
「あ、そうだったね。まだ名乗りを上げてなかったよ。僕の名前はクレト。貴族の三男だったけど、苗字は捨てたんだ」
「……捨てた?」
「言ったろ?スキル適性値がFだったって。それで両親に失望されてね、追い出されたんだ。元々両親なんて死んでも構わない程度にしか思っていなかったが、まさか僕の方が屈辱的な目に合わされるとは…思い出してもはらわた煮えくりかえるよ」
「それで、見返そうと思って強くなろうとしたんだな?」
「?違う違う。殺したんだよ」
「は?何でそこまで」
「だって子供を大切にしない親なんて死んでも良くない?というか、この国の貴族全員死んでも良いと思うんだ。スキル適性値で全てを判断するこの国の人間なんて」
なんて極端な思考だ……
「でも今のままじゃ雷神と炎帝には勝てない。だから、そのための踏み台にさせてもらうよ。僕はこの国の貴族全員殺すと決めたん…」
その時、クリフが空気操作でクレトの周りの空気を奪った。
……が、
「死ね!雑魚が」
クレトの高速移動によって、クリフの空気防御壁もろとも攻撃された。
「クリフ!」
クリフは斬られて悶えていた。
幸い命に別状はなさそうだが、早くポーションをかけないとまずい。
「ハァッハァッ……こ、コイツ落ちる寸前まで僕の空気を奪いやがって…」
と、クレトが言った。
クリフが僕達に望みを託してくれた。
今なら酸素不足で動きも鈍い筈だ!
僕とエレナはすかさず前に出て、剣を上げた。
縮地で最短距離に近づき最速で剣を振るう。
エルナの攻撃は完全に避けられたが、僕の攻撃はかすったようだ。
「クッ!」
今の僕の攻撃は、筋力値のせいでまともに食らったらオルトさんでもダメージがある。
かすっただけとはいえ、クレト相手にはまずまずダメージがあったようだ。
しかし、奴も『スキル重複』を持っているなら回復速度も相当に早いはず……
呼吸困難と切り傷によってふらついているクレトにたたみかける。
何発かくらわしたところで引かれてしまった。
「……チッ、うざいな」
だが、回復速度は僕と同じか少し遅い程度。
どういう事だ?
Dランクにも回復スキルはあるから、アイツがその気になればもっと早く回復していてもおかしくない。
「お前……スキルはいくつ習得できるのか知ってるのか?」
「ん?そんなの無限に決まってるだろう?『スキル重複』なんだからね」
!コイツ間違いない。まだスキルを9999個集めていないんだ。
見た感じ、速度は明らかに向こうが上だが、こちらの方が筋力値は上回っている。
投石をしているが、向こうも同じ様に石を投げ、石は相殺されるかこちらの石の破片がそのままクレトを追っていくからだ。
投石を続けけつつ、クリフを起こしに行く。
「クリフ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。でも起きて戦うのは……」
「……こんなことを頼むのは申し訳ないのだが、今、クレトとエルナが戦っている。だが、この状態は長く続かない。すぐにエルナはやられてしまう。もし出来るのなら、クレトの周りの空気を水素に変えてくれないか?」
「水素に?」
「ああ、酸素を奪ったり、二酸化炭素だらけにするよりかは警戒されない」
「で、出来るけど……」
「ガルドにも頼みたい事がある」
「なんですか?」
「アイツの周りが水素だらけになったら、石を投げてくれ」
「ええ!でもケインさんみたいな威力もコントロールも無理ですよ!」
「大丈夫、そこはなんとかなるから……」
「……わかりました。やるだけやってみます」
「じゃあ2人とも頼んだ!」
2人に指示を伝え、エレナの方を見るともう少しでやられそうになっていた。
「エレナ!僕が石を投げたら縮地で下がれ!」
「!?分かりました」
それを聞いていたクレトが笑い出した。
「何を考えてるのかと思えば今更投石かよ。巻き込まないようにしようとしてるって事はお前の投擲はホーミングは出来ないんだな?」
「………」
作戦を悟られてはいけない。
僕はクレトの反対方向に縮地で飛ぶと、思いっきり投石をした。
それと同時にガルドも石を投げる。
それを見たエレナが縮地の準備を始める。
クレトは仕方なく僕の投石を落とそうとしたが、投石はクレトを大きく外れていく。
「ふっ、やっぱりホーミングも出来ないんだ。じゃあコイツ殺すね」
その言葉でエレナを斬ろうとしたが、一歩遅かった。
縮地で遥か後方に下がられたのだ。
クレトが追いかけようとしたその瞬間、
先程軌道を外れた僕の投石がガルドの投石とぶつかり大爆発が起きた。
「なっ!」
クレト以外の全員が爆発の被害を受けるギリギリ範囲外にいた。
しかし、クレトはまともに食らったようだ。
「水素爆発って知ってるか?水素の多い空間で火がつくと爆発が起きるんだ。僕の投石は初めからお前を狙ってたわけじゃない。ガルドの投石とぶつかる事で生じる火花を狙ってたんだ!」
クレトはボロボロながらも反論する。
「そ、そんな運まかせな……」
「ああ、だけどガルドの運のステータスはこの場にいる誰よりも高い。勝算あっての賭けだったんだよ」
「チッ……そういうことかよ」
動けないクレトを気絶させた。
危ない相手だったな……
僕も、道を間違えばこうなっていたのだろうか……
もし貴族家の生まれでGランクスキルだと発覚した時に捨てられたら、こうなっていたのだろうか……
その時、大爆発を見た先生が駆け寄ってきた。
「おい、大丈夫か!?」
ボロボロのクレトを見て勘違いしたようだ。
保健室に運び出した。
「……第六騎士団を呼んでください」
「は?何故……」
「クレトには殺人の容疑があります。コイツは強いです。全回復されたらまた暴れられるかもしれません……」
先生は少し考えたようだが、騎士団を要請してくれたようだ。
「何があったか詳しく聞くからな」
「はい」
騎士団が来るまでの10分程の間僕達は事情を説明した。
「…………というわけです」
「うむ……元々クレトの両親は何者かに殺されたとは聞いていたのだ。クレトにはその時アリバイがあった。それに外部犯なら貴族家の魔法阻害結界を突破したのだから余程の手だれでも無い限りそんな事はないと思われていた。結果当時1番怪しかったクレトの兄が捕まったのだ」
「どうしてですか?」
「彼の部屋から血が付着したナイフが出てきたんだ。といっても、両親の遺体の横には凶器らしき物があったんだ。だから兄の部屋から出てきたナイフは犯行のものとは関係ないのではないか?と言われていたようだが、他に容疑者もおらず、騎士団に連行されていったそうだ」
「………それで、お兄さんは今どうしているんですか?」
「一応獄中にいる。脱獄も図らず刑務作業も真面目にこなしているらしい」
「失礼するよ」
「お久しぶりです、クウガさん」
「ああ、久しぶりケイン」
そこで、騎士団の人達がやってきたので、もう1度同じ説明をした
「そうか……分かった。とりあえず本人からも話を聞いてみようかな。ケインがそこまで手こずる相手となると第六騎士団だけでは不安だ。オルトさんにも来てもらうとしよう」
僕達が騎士団の話を一通り聞き終わった頃、
「さ、君たちはもう授業に戻りなさい。クリフ君もポーションで傷は治りましたね?」
先生の言葉にクリフは頷くと、保健室から追い出された。
「オルト様が来てくれるのなら大丈夫ですね」
「俺1度本当のの雷神を見てみたかったすよ」
「僕も話してみたかった……」
三者三様な反応を見せているが、僕はそれ以上に気になる事がある。
「ていうか、クレトは自分で両親を殺したって言ってたよな、どうやったんだ?」
「……転移でしょうか?」
エレナが言った。
「それは無理だろう。転移はCランクスキルだからな」
「足が早かったから両親を刺して急いで帰ったとか」
ガルドが言った。
「いくらなんでもそこまで速くは無いし、体力も持たない。犯行はクレトが隣町に起きたって話だ。クレトの足でも往復2時間以上かかる」
「それなら……共犯者がいた?」
クリフが言った。
「……可能性としてはそれが1番高いよな。でもクレトってプライド高そうだし、自分で殺したがりそうなんだよかなぁ」
全員の考察を否定すると、今度はつっこまれた。
「「「じゃあなんなんですか」」」
「…ご、ごめんって、それはよく分からないけど……いや、待てよ……もしかしたら!」
一つだけあった。
アリバイを持ちがなら1人で両親を殺す方法が………
「「「投擲で殺す!?」」」
「ああ、僕の投擲と同じく、あいつなら1度視認していれば投擲によるホーミングで何処にいても確実に当てれる」
「ま、待ってください、その……そんなに重複した投擲は有能なのですか?1度見た相手ならどこからでも攻撃できるなんて……」
「いや、そこまでは万能じゃないよ。1度視認して、敵として捉え続ける必要がある。それさえしていればどこにいても当たるけど、戦闘から脱退して数時間経った後とかだと、もう自分は相手と戦っているなんて意識はないだろ?投擲のホーミング能力を得るまでにも時間がかかるし、アイツは数ヶ月もの間自分では両親と戦っている感覚だったって事だ……」
「そんな……」
「俺なら気がめいっちゃうっすよ」
「とんでもない執念だな」
「では、この事を騎士団の人たちに伝えに行きましょう」
「ああ、そうだな」
騎士団の元へ僕達が向かおうとすると、クリフがそれを止めた。
「あの、それってケインさんのオリジナルスキルについても話すって事ですよね?」
「?そうなるけど」
「それじゃあ、今後同じような事件が起きたら、毎回ケインさんに疑いがかかるんじゃないですか?」
「あ、たしかに……」
「となると話さない方がいいでしょうか?」
「……いや、やっぱり言おう。ここで言っておかないと証拠不足でクレトが捕まらないかもしれない。リスクがあっても話すべきだ」
「そうですね。私としたことが私情で犯罪を隠蔽するのに加担してしまうところでした」
僕達は騎士団に全てを伝えた。
「そんな強力なスキルが……ケインも持っているんだよね?……これを言ってはなんだが……」
「分かってますよ。疑われるんですよね。僕はかまいませんから」
「そうか、でもこのままだと危ないからクレトは王城に連れて行くことにするよ」
騎士団は、まだ起きないクレトを拘束すると王城に連れて行った。