序
短い間ですがお付き合いくださいませ。
殺してやると、毎日思っていた。
朝方、いつもの通り自分の前を歩いている。こいつはいつも自分が先導しなきゃ気が済まない。同じ歳というのに勝手に兄と弟を決めて、いつもいつも人が好い笑みを浮かべて、気持ちが悪いったらありゃしない。
村の人もそうだ。皆騙されてる。あいつは二人の時はこんな“良い子”じゃない。何もかもこっちに押し付けてくる。
これから行う日課の山菜採りだってそうだ。あいつは一人切株に腰掛け、自分だけが汗を流しながら必死に食を繋ぐものを採っている。取り分が少なければお前のせいだと酷く打つ。質が悪いことに皆からは見えない着物の内に傷を残してくる。一度抵抗してやり返してみたが、自分だけが悪者だ。
踏みしめる草の音が嫌に耳に響く。思えば、こいつは最初からこうじゃなかったな。いつからだ。ああ、父と母が死んでからか。あの二人は頭が良く社交的なあいつを可愛がってた。それが羨ましくて、必死に追い着こうとした。けれど全部空回りして、結局は両親から疎まれただけだったな。手も出されたっけ。
まあ、その後ちゃんと自分で厄介払いしたんだけど。
さて、いつもの場所に着いた。
後ろを向いたままのあいつに静かに近寄り、両手で首を掴む。ああ、いつも優位なこいつが慌ててる姿は面白いな。
力任せに押し倒し、首に掛けたままの両手に渾身の力を込める。ジタバタと手足を動かしながら必死に抵抗している。けど段々とそれは静まっていき、ついには動かなくなった。死んだことを用心深く確認すると、亡骸を雑草の影に隠れている崖下に落とした。
落ちた衝撃であらぬ方向に曲がったあいつを見て、ようやく気が付いた。