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第八話

「……姉様」


 意外なことに、最初の赤い箱から出てきたのは、幼いころに私が描いた文字の練習だった。


 私の最初の教師はベルグランデ姉様だった。汚い字。ところどころに、ベルグランデ姉様の直しの跡がある。もう捨てたものだと思っていたけど、こんなものも、ずっと持っていてくれたんだ。そう思うと、胸に暖かい想いがこみあげてくる。


「ねえ、リスティル」


「どうしました?バンディーラ様」


「様はいらないけど、これリスティル用じゃない?」


 バンディーラ様が、クローゼットから、ライフル銃を取り出す。制式銃器もよく似ているけど、細かいところが違っているような気がする。


「そんなものがクローゼットに入っていたのですか?」


「いや、クローゼットじゃなくてね、」


 バンディーラ様が、クローゼットを開かない反対方向から、力いっぱい、勢いよく、開ける。赤い光が溢れ、そこには大量の銃器と弾薬、炸薬が詰まっていた。


……潜入任務用の消音機能付き携行拳銃に、制式拳銃、突撃銃、ショットガン、グレネードピストル、スナイパーライフル……それぞれの各種弾薬。魔導銃を補佐する各種のアタッチメント、。おまけに、設置型の制圧射撃用シールド付ガトリングガン。対物用のロケット砲、携帯型小型榴弾砲に、各種手りゅう弾、室内突入用の高性能炸薬。


 銃士生活でも見たこともないような量、そして、質の高い銃器の数々。それも、外目から見ても、すぐに使えるように十分な整備がされているようだった。


「これピカピカね。ベルグランデが整備しているのかしら?」


「姉様が?」


 私は、驚いたけど、ベルグランデ姉様ならありうると思っていた。その間も、バンディーラ様は、その中から何かを探して部屋の中をうろうろとしていた。


「う~ん、ないな~」


「ええと、何か探しているのですか?」


「うん、私を撃とうとした銃があったでしょう?それがここにないかなって思って」


『対物大口径狙撃銃』そう、ベルグランデ姉様は言っていた。確か私の記憶でも、この屋敷の近くで試し打ちをしたことは憶えているけど、その後の記憶はあいまいで、どこにしまったのかも思い出すことができないでいた。


「あっと、でも、流石ベルグランデ」


 その代わりに、バンディーラ様は、部屋の中から、何かを見つけたらしい。何事かとそちらを見て見ると、本棚をずらした先に、赤いドアがあらわれていた。


「あの、バンディーラ様、これは?」


「うん?これは、セーフルームっていう、イベントリの強化版。まあ、倉庫みたいなものかな」


 何の躊躇もなく、扉に手をかけて、入ろうとするバンディーラ様に驚いたけど、私は、その後を追って、セーフルームに入った。


 ドアの先には、赤い部屋が作られていた。中央に置かれた様々な機材の置かれた机。そして、壁際に摘まれた木箱とその横にある大きな作業用の机。


 部屋の中からは、火薬と錆びのにおいが、漂ってくるように思えた。


「すごい……」


「ここがどうやら、ベルグランデの拠点みたいね」


 姉様はここで一体何をしていたのだろう?わたしは、そっと部屋の中をゆっくりと見回した。あたり一帯には、用途不明の工具も散在している、とてもじゃないけど、そういうものを触ろうとは思っていない。

 バンディーラ様は、楽しそうに、周りを見て回っていたけど、わたしは、それを見ないふりをして、作業台に足を運んだ。作業台は、少し傾いた板が立てかけられていたが、筆記道具はそのあたりには転がってはいなかった。

 その板に、そっと、手を乗せる。



 姉様は、一体何をここでしていたのですか?いま、何をしているのですか?教えてください。



 心の中に、あの笑顔を思い浮かべた。隠し事などしているようには見えなかった。



「あのね、アーサーと婚約が決まったの」


「姉様、アーサーってあの第三侯爵家の、エスペクタード家の?」


「ええ、リスティルには、すぐに教えておこうって思ってね」


 姉様が、国外に留学に出る前の他愛のない会話が思い出される。


「でも、お父様やお母様にもすぐに言うのですよね?」


「ええそうよ。でも、リスティルが、一番よ」



「そうか、婚約が決まったのか」


「まあ、ベルグランデ、良かったわね。でも、これから、あなたは、留学に出るのでしょう?」


「ええ、だから、留学が終わったら婚約を受け入れようって思っています。彼、とても、素敵な人だから」


「全く、ベルグランデならば大丈夫だろう。すぐにでも、飛び込んでいけばいいのに」


「やだ、お兄さまったら、まだ戦争が終わって半年しかたっていないのだから、アーサー様も忙しいわ。そんな中、お手を煩わせるわけにはいかないし、

 

 家族からの祝福。心配をしているのは、リディア母様だけ。わたしも、小さいながらも祝福をした。……あの時までは、家族はまともだった。




「なんでこんなことになってしまったんだろう?」


 そっと、作業台をなぞる。その作業台の端には指の形によく似た。窪みが2つある。そこに手が当たり、かすかに動いた。


 その机から、赤い光が溢れる。遥かに強いその光。



 そして、さっき見た光。



「やっぱり、そこに置いていたのね」


 バンディーラ様が、その異常に気が付いたみたいで、わたしのそばにすぐに寄ってきてくれる。


「バンディーラ様、これは?」


「聖域のターミナルね。これはベルグランデ個人のものだから、ベルグランデ以外は起動できないはずだけど」


「ええと、ところどころに、よくわからない言葉があるんですけど」


「ああ、そこは、気にしなくてもいいわ。」


 そう言われてしまえば、もう、返す言葉もなかった。わたしはじっと、それを見続ける。やがて、起動が完了したのか、さっきドアのところで見た、右手のマークが、そこに浮かび上がる。


「じゃ、リスティル。右手を置いて。」


「はい」


 そっと、枠の中に右手手のひらを置く。ほんのわずかな時間の後、机の板の表面に意外なものが、映し出された。


「なっ!?」


「へえ?かわいいじゃない」

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