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第七話

 手に支えられたまま、ドアを抜ける。赤い光が広がっていると思った部屋の中は、何の光も入り込まない暗闇が広がっていた。


 あの手は、わたしを部屋に放り込むと、役目を終えたように、消えていき、わたしは、その闇の中にポツンと取り残された。


「ええと、ええ?」


 あまりに多い情報に混乱する頭をなんとか、落ち着かせながら、そっと、周りを見回す。わたしは夜目が効く方だけど、完全な暗闇には効果があるわけもなく、ただ、見通しもつかない闇が広がっているだけだった。


「何だったんだろう?あれ?」


 怖さよりも、怒りよりも、呆れたような声がわたしの喉から絞り出された。あの手の正体を考えても仕方がないことは十分にわかっていたけど……


「姉さまはいつもあんなふうに入室していたのかな?」


 うん、それならば、大きくなったらという言葉の意味もよくわかる。もし、小さい頃にあんな悪戯をされたら、すぐに、泣きながらお父様に言いつけるだろう。

 今ならばわかる。



「そんなわけないか」



 姉さまは何を考えていたのだろう。しかし、今は自分のことが心配だった。


「明日の朝、この部屋からちゃんと出られるかな?これでドアが開かなかったら……どうしよう」


 まさかの姉さまの罠。ロンディスやロアが助けに来てくれるかな?それとも、オリビアやマリベルが、鍵の開け方を見つけてくれるかな?ラーズは……うん、まだ知り合ったばかりだから、わたしがいないことにも気が付かないかも。


「でも、……きっとあの人なら」


 わたしに導を与えてくれた人。わたしに今生きていることを与えてくれた人。


「……バンディーラ様」


 不意に不安と寂しさが襲ってきて、口の中で、今日はついぞ会えなかったご主人様の名前を呟く。今頃何をしているのだろうか?そう思うと……不意に会いたいという気持ちがこみあげてきた。



「様はいらないわ」


 闇の中から、凛とした懐かしい声が聞こえた。


「リスティル!」


 暗闇に閉ざされていた部屋の中に、光が灯った。小さな光。それが、どんどん増えて。部屋の中を埋め尽くしていく。


「さっきぶりね。リスティル」


 会いたいと思ったその顔がそこにあった。


「バンディーラ様!?どうやって?」


 どうやって来たのかと、問おうと思った。


「ラーズが言っていたでしょう?集合場所に現れるって。リスティルとの集合場所はここだよ。」


 そうだった。集合場所に来るって言ってたから、てっきりみんなのいるところに来るものだとばかり思っていた。そうじゃなかったんだ。


「バンディーラ様……あの」


「ベルグランデ姉様のことでしょう?リスティルを大事に思って、何よりも最優先にしている」


 その言葉に、あいまいに首を縦に振った。


「そう思っていたの。あのね、リスティル。ベルグランデ姉さまのこと好き?」


 バンディーラ様から出た、その言葉に、わたしは驚いた。


「……姉様を嫌う理由なんてないです。姉様は、好きです」


「そうなんだ。……私一回振られているんだけどな」


 後半はほとんど聞き取れなかったけど、バンディーラ様と、姉様の間に何かあったのだろうか?わたしはそれが気になって、いたけど、あえて聞くのはと思った。


「リスティルは、ベルグランデ姉さまを助けたいんだよね?」


「バンディーラ様。そうです。そのために、ここまで戻ってきたのです。私は……ベルグランデ姉さまを助けたいのです」


 その言葉に、バンディーラ様が微笑んだような気がした。その右手に持っている旗の星の輝きが少し強くなって……



 不意に、星の光が閃光となり、部屋の中を包み込んだ。



「うっ……」


 暴力的な光の渦に、一旦眼を閉じた。次に眼を開いたとき、そこに広がっていたのは、確かに、貴族の子女の部屋だった。


 ただ、一点だけ違うところがあるとすれば、ところどころに赤い光の箱が埋め込まれているように見えることだった。


「リスティル。その赤い光は、貴重品入れ……別名、イベントリっていうの。そこには、ベルグランデ姉様が何か大事なものを保管していると思うわ。手分けして確認していきましょう」


「え、でも、それって」


「ベルグランデ姉さまを助けたいのでしょ?証拠とかもあると思うわ」


 バンディーラ様の核心に満ちた声に、私は、思わず頷いた。そう、そうだ。ベルグランデ姉さまのことだ、きっと自分の冤罪の証拠をきちんと集めているに違いない。



 ……そうであってほしい。そう思う気持ちが、先行した。

 頭のどこかでは、この状況を怪しむ声が響いていたのを、わたしはあえて無視することにした。

 机の引き出しの下にまるで隠すように設置された、一つ目の赤い箱。それに、わたしは手を伸ばした。

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