第五話
何度も、姉さまと通った、地下坑道。
「やはり、リスティルあなたのお姉さまはすごいわね」
オリビアから、そっとささやかれて、私はそっと頷いた。小さい頃は全く思いもしなかった。なんとかすれ違うことが可能なほどの広さの通路をわたしたちは、歩いていく。小柄な、オリビアやマリベルはともかく、ロンディスは少し狭そうに、そして、特に大柄なロアは、窮屈そうな感じだった。
「次に姉さまにあったときには、ぜひ伝えてくれ。もう少し広く作ってくれと。つっ!った」
ロアが、頭をぶつけながらも、悪態とも冗談ともつかないことを言う。わたしは、それを聞いて、ふっとおかしくなって微笑んでしまった。笑い顔を見せないように下を向く。そんな時だった。
「?」
奇怪なものが、足元にあることに気が付く。赤い光の塊が、床に埋まっている。それに気が付き、ふと見回すと、その塊はいたるところに存在していた。大きさはほとんど一緒。
「何だろう?」
わたしは、何気になくその一つに触れる。
”認識開始……レイチェルと確認……メッセージがあります”
メッセージ?どういうことだろう?わたしは、それを見上げて、ぼうっとしていたらしい。
「きびきびと歩いてくれ。」
後ろから来た、人に、背を押される。
「あ、ごめんなさい」
わたしは、そう言うと、先を急ぐことにした。見ると、マリベルやオリビアはだいぶ遠くなっていた。わたしは、バッグを身体の前に持ち帰る。見ると、いつの間か、あの人形は、バッグから顔だけを出していた。不思議と、その人形と視線があったような気がした。
「もうすぐ着きますからね」
人形を見て、微笑んだ。気のせいか人形と視線があったような気がした。わたしは、それを無視して、最後尾からオリビアたちを追いかけた。
ゆっくりとしたスロープを抜けると、懐かしい場所にでた。屋敷の裏庭である。そこは、わたしと姉さまが、汗を水で流したり、暇なときに、いろいろな作業をするためのスペースとして、整えてあった場所だった。
「懐かしいな……」
わたしは、その場所でいろいろなことをベルグランデ姉さまに教えてもらったことを思いだした。ベルグランデ姉さまは、ダンスや社交のことは何もおしえてくれなかったものの、運動や草花の選別には高い能力があって、それに手先がとても器用だった。
よく、花を摘んできて、小さな花冠を作ってほしいとお願いしたことを思い出す。
「懐かしいかい?」
お母様が、話しかけていた。わたしはそっと頷いた。
「ベルグランデは、いい子だったよ。ただ、時々何かを思い詰めているような感じだったからね。リスティルが戻ってきてくれると、きっと勇気づけられると思うよ」
その言葉にわたしは強く頷いた。ここではわたしだけが、ノーマークらしく、他の仲間たちは、装備品を預けて、屋敷に入っていく。
「お母様」
わたしは、腰に下げていたガンベルトを作業台の上に置いた。あと、カバンの中身をチェックしてもらう。
「リスティル。あんたまで……」
流石に、私だけだと、お母様は問題なくても、他のみんなには、しめしが付かないだろう。わたしをじっと見ていたお母様だったが、やがて観念したように、中身の確認をしていく。
『あれ?』
そのかばんの中身から、あの人形が消えていたが、わたしは不思議に思うこともなく、久方ぶりに別邸へと帰ってきた。
リスティルたちが、通り抜けた地下道、その場所で、ずっと語り掛ける様な女性の声が続いていた。
「ここまで伝えたことが真実。だからね。ここで引き返しなさい。わたしを助けようなんて考えたら駄目よ。
聖域に戻って、栄誉を受けなさい。
あなたにとって、それが一番いいわ。
ただ、ここまで来たあなたに、3つだけアドバイスをさせてほしいわ。
一つ、聖域ダンジョン『煉獄へと至る路』の大穴。その先は安全な空間だからそこに飛び込んで助けを求めなさい。巡礼の終わりが来るまであなたを護ってくれるわ。
二つ、聖王遺物にはできるだけ関わらないこと。特に、聖鏡と聖灯、聖花は、古い聖王遺物だから、たぶん考えが合わないわ。聖傘、聖針は、ファラの傘下だから、聖王遺物の中では比較的安全な方よ。
三つ、いづれかの旅団にバンディーラという名前の奴がいるわ。そいつとは絶対に行動をともにしたらダメ。男か女かわからないし年齢も定かじゃないけど、右手に星の旗を持ってるからすぐにわかる。
帰りは、わたしの権限が使えるから、聖王廟に行けばすぐに元の場所に帰れるわ。
リスティル。ことが終わったら、必ず追いかけるから。だから、無理をしたらダメよ」




