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第八話

「大丈夫?はい、水」


「ええ、大丈夫です…おいしいです」


 私は、ダンジョンから少し離れたところで、少年に水や食料を与えて落ち着かせていた。少年と思ったけど、性別は女性だったみたい。でも、見た目、男っぽいから少年でいいや。


 少年は、落ち着いたみたいで、私の顔をまじまじと見てきた。


「その…ありがとうございました。僕だけだったらやられていました」


 ダークホビットは、『捕獲』のスキルを持つ厄介な相手だ。パーティを組んでいないと、あっという間に、村にお持ち帰りされてしまう。そうなったら、巡礼者は、なすすべなどないだろう。


「大丈夫そうで安心したよ。ところで、あなたは何でこんなところに?」


 私の問いに、俯き「ええと…」とか、言っていたが、私が、待っていることに気が付いて、仕方なさそうに話し始めた。


「…僕は…」


「あ、あなた、女の子でしょう?ここでは偽らなくてもいいよ」


「…」


 口の中でもごもごと何かを言った。言葉にはならなかったけど、きっと「ありがとう」って言ったんだと思う…うん?私何か、感謝されるようなことした?


「…わたしは、リスティル…リスティル・フィリア・フォーディン。フォーディン家の二女です」



 それからの話は、重い話だった。親兄姉に裏切られ、奴隷に落ちて、それでも何とか逃げ出した。いや、思ったけど貴族って思った以上に大変だね。



「大変だったね」


 私が、手を握ってあげると、リスティルは、泣きながら、私の胸の草原にすがってきた。それを、しばらく受け入れながら、リスティルが落ち着くまでの間、少し考えていた。



 少しして落ち着いてきたのがわかったので、私は、リスティルに聞いてみた。


「ところでリスティルは、どの旅団所属なの?」


 一瞬リスティルに戸惑いが浮かんだ。私は、リスティルの目を覗き込む。さっきは、よく見ることができなかったけど、トルマリンブルーの瞳は、輝きは鈍いけど、まるで夕暮れのように濁った赤い髪にとても似合っていた。


「…私は、ラーング旅団所属です。あの…」


「ラーング旅団か…団長は、ファラだね。大丈夫一緒に行こう」


 私は、そういうと、リスティルの手を引いて、審判の森の出口へ向かう。


「ええ、でも、わたし」


「大丈夫だって、安心しなよ」


 私の手に引きずられながら、リスティルは、一緒についてきた。




「たのもー」


「…あら、バンディーラじゃないの、どうしたの?」


 ラーング旅団に勝手知ったるように入っていき、部屋を抜け、団長室に直接乗り込んだ。そこには、ラーング旅団団長のファラがいた。


「うん、この旅団のリスティルをもらいたくて、来たの」


 こともなげに言った私に、ファラは、しばらくの沈黙で応えた。後ろでは、リスティルが、私と、ファラの顔を見比べて、驚いている。


「…ふぅ。仕方ないわね」


 先に折れたのはファラだった。その光景を見ながら、リスティルはえ~と言うような表情を浮かべている。何を驚いているのかはわからないけど、紹介しておいた方がいいと思った。


「良かった、さすが妹弟子」


「全く、あの妖怪からお願いするなんて言われたらいやって言えないでしょう。リスティル・・・いえ、リスティル・フィリア・フォーディンね。フォーディン家の2女でしょう」


 リスティルが、その視線を受けてびくっと震えるが、決して怯えてそうしたようには、見えなかった。


「そう、警戒しないで。腰の銃からも手を離してね。…そういい子ね。バンディーラの頼みだから仕方なくね。じゃあ、命令。リスティルを団外活動任務とする。活動拠点、活動については、バンディーラと一緒に行動すること。これででいいんでしょう?」


 その言葉に、リスティルは、驚いた表情を浮かべる。さすが、ファラ。


「良かった、リスティル。今日から仲間だよ」


「ただじゃないわよ。バンディーラ。対価として、あなたには、明日から3日間、斥候を依頼させてもらうわ。ラーング旅団は3パーティしかいない小規模な旅団なの。そういうわけで、今は野良聖女の手も借りたい」


 あれ?4つパーティがあると聞いていたんだけどな。


「あれ?ファラ、4つ目のパーティは?」


「今日、壊滅したわ。審判の森の斥候に出てもらったが…どうも、撤退時にテレポートを踏んだようでな…もはや、ダンジョン内のどこにいるのかもわからないのだ」


 リスティルが、一瞬、悲しみに満ちた表情を浮かる。それを見たファラは、たしなめるように言った。


「リスティル。そう気にしなくていい。きっと大丈夫。私たちには導はまだいるからな」


 そう、ラーング旅団には、聖者がいる。だから、壊滅したわけじゃない。


「と言うわけで話は終わり。さあ、部外者は出ていった」


 私たちは、団長室から追い出された。明日からのの任務書とリスティルの団外任務は、既に手際よく準備されていて、ファラの秘書らしい人が持ってきてくれた。


「さあ、リスティル行こう」


 私のその声に、リスティルは、少しはにかみ、嬉しそうに手をつないでくれた。明日から3日間の任務が終わったらリスティルは、私たちに正式に仲間になるそう思っていた。


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