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聖域深部 ルキナ1

 現実感を失うような赤い光の中、その女性は、微笑みを浮かべながら、こちらに歩いて来た。何も持っていないということを強調するように、その両手は、大きく広げてられている。


「……」


 私は、注意深くその様子をみて、その意外な人物に、驚きを隠すことができなかった。


「おい、どういうことだ……なんでお前が、お前がこんなところに」


「まあ、そう思われるのは仕方ないです。改めて自己紹介しましょう。私、この巡礼の主催者であります、聖王 ファラ・ウォーリッシュと申します。あなたたちには、ラーング旅団の団長と言った方がいいでしょうか?」


「聖王遺物 聖靴 込められた願いは、”いずれ皆をあるべき場所に還す”シュルだ」




 聖王に聖王遺物?頭が、混乱している。当然、わたしに出せる声なんてないし、問い掛けを声にすることはできない。


「は?聖王?それに聖者聖女が持っている聖王遺物が人間?どういうことだよ」


「全てに答えることはできませんが、あなたたちは、聖域で私たちが、保護するべき対象になりました。この大穴は、聖域深部バックヤードの入口なのです」


「ええと、俺は、確か、オークのハンマーで頭をつぶされて死んだはずだ。ということは、ここは死後の世界ということか?」


「まあ、そういうことでもありますが、みんなが揃ってから、続きの話をしましょうか?」



 ファラが、上を見上げる。わたしも、一緒にいた剣士さんも、上を見上げた。そこから、たくさんの人が、落ちてくる!!


 私たちは、上を指さし、その落ちてくる人たちは、私たちを指さしていた。


 見知った顔がほとんどだった。ほんのわずか前まで、一緒にいた顔。サポーターたちだった。


「ルキナさん!!無事だったの?」


「……」


「うん、わかるよ。唇をゆっくりと動かしてくれればいいから。良かった。無事だったんだ!!」


 いろいろとお世話になった医術師のモニカに、泣かれてしまった。剣士の人も、もみくちゃになっている。


 やがて、降りてくる人たちはいなくなって、再会を喜ぶ声、何が始まるのかと訝しむ声が方々から上がっていた。


「これで全員?」


「いえ、あと、もう少しね」


 ファラの声が聞こえたのと同時に、3つの人影が、ゆっくりと降りてくるのが見えた。その内一人が、誰なのかわかった瞬間に、私は、突き動かされるように、走り出した。



 如何にも魔族という男の肩に、アーレスが、担がれている。死んでいるようにピクリとも動かない。遠巻きにしてみているサポーターをかき分けて、私は、そのもとに駆け寄る。


「そこで止まれ!」


 その魔族の男性が、大きな声をあげる。



 いやだ!


 私は、首を振り、さらに一歩を踏み出そうとする。



 それを止めたのは、


「うん、着いたのですか?師匠?」


「ええ、着いたわ」


 アーレスの声と、……忘れるはずもない、アーレスをあれだけ傷つけた人の声。アーレスが、ただ一人、安心して声をかけることができる人。


「さて、手ひどくやったが、どうだ、動けるか?全く、聖域に『聖者殺し』の聖剣(あんなもの)の一つを持ち込みおって」


「はは、まあ、それでも、全く歯が立たなかったな。もう、抵抗はしないさ。すまない降ろしてくれないか?」


 魔族の男性の肩から、ゆっくりと、アーレスが、大地に、降ろされる。



 血まみれで、傷だらけなのかがわかる。


 でも、その表情は……とても満たされている。


「ルキナ。心配かけた」


「……」


 無事に帰ってきてくれた。


「フェイガンとアリシアは、聖域から流れ出る人間の世界の栄誉になったらしい。もう、会うことはないって師匠が言っていたよ。そして、俺の願いだった。師匠にも再会できて。……俺の巡礼は、終わったよ」


「……」


 アーレスの顔が、綻んでその大きな手が、わたしの頭を撫でる。


「無事に会えて……本当に良かった。聖域ではまず簡単に死ぬことがないって師匠から、聞いて、ルキナが生きているってわかったんだ。」


「甘々なところ悪いけど、私には、頭なでなでとかしないんすか?師匠、生きていてうれしいとか言って。泣きながらこの胸に飛び込んできてもいいんっすよ」

 

 サポーターには聞こえないように、小さな声で、アーレスにその師匠は話しかけた。全く、口調とかかわってない。


「師匠に、甘くするとすぐ付け上がるから、ダメです」


「だそうだ。細君」


 そうか、魔族の男性とアーレスの師匠は夫婦なんだと、納得し、私は一歩引いて、その様子を、ただ見ていることしかできなかった。手の中には、あの時アーレスにもらった指輪。それをぎゅっと握りしめた。



「はい!は~い!そろそろいいかしら?盛り上がっているところ、水を差すようで悪いけど、この後、時間は十分に取ってあげるから、ちょっとこっちに集まってもらえないかしら?」


 ファラの大きくてよく通る声が、そのざわめきの中を駆け巡って、全員の視線を集める。アーレスの横にいた、魔族の男性とその妻の女性は、ゆっくりと、ファラの方へ歩いていく。


「はい、皆さん、今日まで、巡礼お疲れさまでした。私は、この巡礼の主催者であります。


 聖王 ファラ・ウォーリッシュと申します」


 聖王?ラーング旅団の団長が?

 というざわめきが、場に広がった。確かに、そんな大物に見えなかったのだろう。


 とりあえず、ファラは、そのざわめきが収まるのを待った。私は、緊張して、両手をぐっと、胸の前で組んだ。そんな時だった。


 大きな手が、わたしの肩を掴んだ。その人を、私は知っている。


「大丈夫だ。ルキナ。」


 その声に安心感が胸の奥から、湧き上がってくる。うんと、小さく頷くと、再び、聖王の方を向いた。

 聖王は、一旦言葉を切り、皆を見ているようだったが、ようやく、そのざわめきが収まったのをみて、再び言葉を発した。


「あなたたちの巡礼はこれで終わりになります。今後は、今回の巡礼が終わるまでは、この聖都に滞在してもらい、その後、聖壁を超えて、西部に移動してもらいます。次回の巡礼からは、我々と巡礼者をつなぐコミュニティになってもらいます。」


 コミュニティになるって、どういうことなのだろう?と、わたしが、疑問に感じている。


「コミュニティって?」


 どこからともなく発せられた疑問に、


「共同体……簡単に言うと、聖都における巡礼者と聖王、聖王遺物のお世話をするお仕事ということです。」


 ファラの隣にいた、その場にいる唯一のコミュニティ、アーレスの師匠が声を上げた。コミュニティが言葉を発したと驚いている皆の前で、その衣装で一番特徴的な帽子を取る。


 何人か、驚きの声を上げた人たちがいた。中には、王宮にいた人だろうか、信じられないものを見たというように、首を振っている人もいた。


「わたし、コミュニティのリーダーの一人であります、シュガーナ・ビナグリーと言います。王国の宮廷魔術師第13位 戦場の創造者シュガーナと言った方が憶えが良い方もいらっしゃると思います。今後は、皆さまが一刻も早く、コミュニティとしての業務を憶えていただけるように、皆様と共にがんばっていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。」


 どういうことなのかはわからないけど、ただ、これからも、私はアーレスを見ながら、生きていることができるのだということが、しっかりとわかった瞬間だった。

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