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黄金の血塗られた巡礼路 フェリガン

 フェリガン旗下のパーティは、先を急いでいた。パーティの性質を変えたことが功を奏したようで、小型のモンスターに対しては、火力を集中させて早急に排除することが、できていた。本来ならば、警戒が必要な場所ではあったが、後方に、聖女メルダのパーティがいる以上は、速度を緩めるわけにはいかななかった。


 隊列は、大きく崩れ、かつては整然とした隊列を組んで行動していたパーティは、先頭を走る突破力に優れたフェリガンのパーティから、後方の支援部隊のパーティまで、一本の糸のように、細長く伸びに伸びた。



だが、だからと言って、その機軸とするパーティの戦闘力が衰えることなどあるはずもなかった。フェリガン旗下の3つのパーティは、その戦闘力を保ったまま、『黄金の巡礼路』を先に進んでいた。


「視界にゴブリンと思われる軍勢を確認。数20!何体かは、ゴブリンシャーマンのようです」


「またゴブリンか……剣士隊前へ、魔術師隊。残りを掃討しろ……っ全く、ここは本当に中層か?」


 フェリガンは、目的の敵に遭遇しないことに、いらだちを隠すこともなく、自らも剣を抜くと、間近くにいたゴブリンに斬り付けた。直後に、火球や氷の矢、雷撃が飛び、剣士隊が残したゴブリンたちをせん滅する。


「終わりました!」


 フェリガンは、その報告に頷くと、先を急ぐように、パーティに指示を出そうとしたその時だった。



「団長」


 先行していた、剣士隊の一人が、声を潜めて、近くにと、手招きをした。音を立てないように、そっとフェリガンは、その剣士に近づくと、物陰からのぞき込んだ。


 わずか先に、目的の敵、ハウリングデーモンが、輪を作り、じっと座っていた。醜悪な見た目のモンスターが、群れ固まってただ座っている。その光景を見たときに、フェリガンに訪れたのは、ひっくり返した石の下に大量の虫がのたくっていたのを見たような、嫌悪感だった。


 どこからともなく、かすかな叫び声が聞こえてくる。フェリガンは、それを敵が接近していると感じていた。


 見張りを、剣士に任せて、一度フェリガンは、パーティに戻った。


「先に目標だ。一気にせん滅するぞ」


 小声で出した指示に、パーティの全員が頷いた。


「鐘の音がなるまでに、片を付ける。総員攻撃準備」


 全員が、獲物を手に、ハウリングデーモンを包囲するように、近づいていく。


 

 慎重を喫した成果か、ハウリングデーモンに気が付かれることもなく、その布陣が完成しつつあった。しかし、フェリガンは、時間をかけすぎたと後悔していた。



 さっきから聞こえている、叫び声が、徐々に近づいてきていた。


「モンスターが近づいているのか……時間を掛けるわけにはいかないな」


 フェリガンは、魔術士部隊に攻撃合図を送る。


 炎、氷、雷撃……様々な事象が、相手を傷つける形を取り、醜悪な集合体を取っているモンスターに襲い掛かった。


「よし、剣士隊!俺に続け!!」


 フェリガンは、一気にハウリングデーモンに近づくと、手に持った大剣を振り下ろした。



 ギェヤー!!


 土煙の中、悲鳴がその場に木霊した。フェリガンは、その悲鳴をまるで、凱旋を讃える声のように聞いていた。


 周りからも、悲鳴のような声と叫びが、続いている。フェリガンは、土煙に蠢く影に向かい再び大剣を振り下ろした。




 何体を切り伏せただろうか、フェリガンの顔にも疲労の色が濃ゆくなってきているが、未だに晴れない土煙が視界を遮る中、叫びの元へ向かい剣を振るっていた。


「はぁ、はぁ……くっ、敵は何体いるのだ?まだ、戦闘は続いているのか?」


 逆袈裟に、振りぬき、すでに血と油で重くなった大剣を捨てる。その代わりに、持ってきていた鋼鉄の剣を抜き、鞘を投げ捨てる。

 油断なく、辺りを見回す。そんな時だった。土煙の先、何かが揺れ動く気配があった。フェリガンは、警戒を強め土煙を払いながら、その気配の源に進んでいった。




「こ、ここは……」


 そうして、少し進んだ時だった。今まで見てきた、廃墟は露と消えて、深い渓谷の底に下る道が、顕れていた。現実と違うのは、その壁は、赤い光を放っていることくらいだろう。



「ははっ、ははははっ!!やった、やったぞ!!ついに、深層にたどり着いた!!前人未到の、誰も見たことのない!!!」


 しばし放心していた、フェリガンは、喜びにうち震えた。


 そんな時だった。フェリガンの目の前を、不思議な光が横切った。フェリガンは、見たこともないその現象に驚いた。そして、その光が、目の前に来た時、フェリガンは、悲鳴を上げ、手に持った剣を振り回した。


「来るな!!来るな!!」


 その瞳に何が見えているのかは定かではないが、必死に剣を振り回す。その剣が、崖の赤い結晶に当たり、たやすく刃がかけ、先端が折れた。



 叫び声の主が、まるでフェリガンの真後ろにいるように、濃厚な気配を感じさせ、それは、フェリガンに恐れをいだかせた。そんな中、まるで、フェリガンの怖れに呼応するように、崖の結晶が放つ赤い光がさらに濃くなっていく。


 

「俺は、俺は!お前たちとは違う!!俺は、聖王になる男だ!聖王になって!!」


 そう叫びながら、我武者羅に剣を振り回す。そんな中、偶然にも、フェリガンは、崖の結晶に左手をかけてしまう。途端に、その左手は、赤い光になって霧散する。

 フェリガンは、それにもかまわずに、ただ、剣を振り回しながら、何かから逃げていく。不思議な光が揺れながら、フェリガンの顔のあたりを飛ぶ。


「いやだ、イヤだ!!ここまで来て、お前たちと一緒になんてなりたくない!!」


 フェリガンは、右手で剣を振り回していたが、左手を失ったことで、バランスを崩し、派手に地面に突っ伏す。赤い結晶に接触した、左足が消滅し、フェリガンは、それでも、逃げようと、地面を描くように進んで行こうとする。だが、それは、無駄な試みだったらしい。


 フェリガンの周りは、赤い結晶が意志を持っているかのように、少しずつ隆起しながら、迫ってきていた。



 フェリガンの顔に絶望の表情が浮かぶ。そんな中、あの光が、フェリガンの耳のあたりに静止して、まるで何かを伝えるように揺れ動く。その言葉の意味を知ったのだろう。フェリガンの歪んだ表情が穏やかなものに変わる。ただ、その表情にあったのは、決して前向きなものではなく、諦めといってもよいものだった。


「そうか、そうだったのか……なんで、こんな重要なことを忘れていたんだ……あれを追い出したら、この死(最大の栄誉)が約束されるって、そんなことわかっていたはずだったのに……なぜ、こんなことを俺たちに押し付けたんだ?俺は、俺たちは、そんなものになりたくなかったのに。なぜ、俺たちだったんだ?」



 それに答えることもなく、赤い光が繭のように、一人の男を飲み込んだ。一人の男は、人間としての全てを失う代わりに、人間が夢見る全てを手に入れた。

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