第六話 フェリガン旅団長視点
「皆に伝えたいことがある。今日、聖女を名乗っていたバンディーラは、自らその称号を返却し、ここに、メルダ王女が真なる聖女として、我々の導になってくれることになった」
俺が、言葉を切ると、会議室に集まっている団員たちから拍手が沸き起こった。当然だ。バンディーラの無能さは、全ての団員の知るところだったからだ。聖遺物に選ばれ聖女となったと言っても、選ばれたのは、聖剣ではなく、小さな旗一本だった。
他の旅団の聖者や聖女は、聖剣や聖杯に選ばれているというのに、我々の旅団の聖女は、みすぼらしい手旗一本だった。それを憐れんだような眼で見られる日は今日で終わる。
「聖女メルダです。皆さんの導として力になれるように努力していく所存です」
メルダの声に呼応するように、団員たちの歓喜の声が響いた。それはそうだ。旅団と王家が協力して、聖都攻略に乗り出すのだから、これを喜ばないものがいるだろうか?
「水を差すようだけど、少しいいかしら、メルダ」
そんな時だった。隣でずっと黙っていたオリビア副団長が手を挙げた。全く、こいつは・・・
「はい、何でしょうか」
「聖女ならば、聖王遺物を持っているはずよ。あなたのそれを見せてもらえないかしら?」
「今日は持ってきてはおりませんわ」
「持ってきていない?そんなはずはないわ。聖女は…」
「そこまでにしてもらおうか、オリビア」
俺は、不快を感じて、オリビアの言葉をきった。オリビアは、不愉快な表情を浮かべて俺を見ていたが、ふんっとそっぽを向くと、椅子にかけなおした。
団員の視線が俺に注がれていた。皆の言わんとしていることがわかる。メルダに視線を向けると、メルダは頷いた。
「実は、私は、もう一つ神託を受けていたいました。導を分けようとするものは旅団から追放すべしと。探さないといけないと思っていましたが、手間が省けたみたいです」
「な…」
オリビアが、言葉を失う。俺は畳みかけるように宣言した。
「ここに、発議する。オリビアは副団長の地位から追放し、新たにアーレスに副団長の地位を与える」
オリビアは、範囲攻撃魔法を得意とする強力な魔法使いだが、今後の戦闘では、目立つ攻撃のオリビアよりも、単体火力の高い魔法使いをパーティメンバとして優先とする予定だった。それに合わせ、継続戦闘力よりも、短期で戦闘が終わる様にパーティを最適化し、聖域をこじ開ける予定だった。
アーレスは、今まで、お荷物のバンディーラをパーティメンバーにしながらもそれによく耐えてくれていた。その献身に応えることにした。
「横暴じゃないの?」
「オリビア元副団長?今の話聞いてなかったのかよ。あんたは、もう、副団長じゃない。あと、導たる聖女を疑うようなやつは、この旅団にはいらないんだよ。皆もそう思うだろ?」
アーレスが、そういうと、部屋にいた団員から、異議なしと声が上がった。
「では、審査を行う。オリビアが副団長としてふさわしくないと考えるものは、挙手しろ」
俺の声に、オリビア以外の全員が挙手する。オリビアは、悔しそうにその光景を見ていることしかできないようだ。
「決定だな。オリビア、この審査をもって、お前を副団長から解任する。そして、聖女を侮蔑した罪で、フラジャイル旅団から追放する」
「そういうことなのね・・・」
オリビアは、メルダと俺を見て、何かを悟ったようだったが、もう遅い。お前が、この2週間、何かの調査を行っている間に、俺は、この準備をずっとしてきたのだ。
オリビアは、何も言わずに、部屋から出ていった。最期の抵抗か、ドアを荒々しく閉める音が部屋に響いた。
「さあ、1週間後に、いよいよ『落ちた大聖堂』の攻略に入る。我々の力を、聖域と他の旅団に見せつけてやろうではないか」
その声に、部屋にいた全員が、気勢を上げた。