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第一話 宴の後 夜は更けて 2

古びてはいるが、大きな平屋。それが、フラジャイル旅団のサポーターたちの暮らしている宿だった。聖都に入ったときに、使用してない建物を、接収と言えば聞こえはいいが、ようは勝手に使っている。中には、小さな部屋が30と大広間があり、そこでは、平民のサポーターを中心に、80人近い人数が暮らしている。


「お、帰ってきたな」


「遅いから、心配したよ。何かあったの?」


 ミッシェルたちの帰還を待っていた団員たちから、安どの声が上がる。


「ちょっと、王女派と遭遇しかけて……避難してた」


 その声に同情するざわめきが起こった。


「でも、ほら見て!!」


 モニカの声に、大きな袋7つが、高々と掲げられる。


「明日から大変かもしれないから、みんな、今日は楽しもう」


 大広間に歓声が響いた。


 会話の中心は、噂話と愚痴だった。ほんの2日前に、フラジャイル旅団内で、起きた事件。団長派の倉庫から、物資の横流しをしていた、下級貴族のサポーターが、死体で、王女の住まいの入り口近くに放置されていたのである。

 その遺体には、壮絶な私刑リンチの跡があり、正視に耐えられるものではなかったと言われている。


 それからは、今までも厳しかったが、さらに、下級構成員への締め付けが厳しくなり、本部にいる間は、監視が付くようになった。どうやら、それは、王女派でも同じらしく、今まで気軽に話ができていたサポーター同士でも、監視を怖れて、不用意な会話は行わないようになっていた。


「っていうか、なんでうちらに締め付けが厳しくならないといけないのよ」


 モニカが、片肘をつきながら、そう言うと、炙ったチーズと蒸し鶏、ソースを挟んだだけのサンドイッチを、口に入れ、口からチーズの糸を伸ばしていた。


「全く言うとおりだ。上の理屈はわからん。が、俺たちに反論の余地があるわけではない」


 ブラントンは、薄く切った肉を葉物でつつみ、口に入れ、その手で、木製のジョッキを傾ける。ごくごくっと、喉が動いているのを見る。ジョッキが口から離れると、ブラントンの顔に、はじけるような笑みが浮かんだ。



 お酒が入って皆が、それぞれ動き始めたのを見て、ミッシェルは、いくつかのおつまみと小さなボトルを手に、そっとドアから外に出た。赤い満月の光が、サラディスの通りを照らしている。


「ミッシェル様、一緒に行きますか?あんなことがあった後ですから、一人歩きは、いくら治安が良くても避けた方がいいですよ」


 不意に後ろから聞こえたジェロの声に、ミッシェルは、ほっとしたような笑みを浮かべた。


「ええ、お願いするわ。ちょっと、尋ねたい人がいるの」


 ジェロは、小さな木の盾を背に担いだ。おそらくポケットには、メリケンサックを忍ばせているのだろう。


「では、行きましょう」


 ミッシェルは、頷くと、歩き始めた。



「しかし、今日はずいぶんとキノコを見かけますね。コミュニティも、宴会でもしているんでしょうか?」


「ちょっと、ジェロ。キノコは言いすぎよ」


 視界の端々に、大きな白い帽子を被り、白いマントで全身を覆った人が、特に何かを話すでもなく、こちらを見るでもなく、ただ、そこにいる。それは、気づかれないように観察しているようにも何かを待っているようにも見える。


「やっぱり、こいつらは不気味だな」


「ジェロ。そう思うのは構わないけど、口には出さない方がいいわ」


 ミッシェルが、あたりを伺ったが、特にその言葉に反応したものはいなかった。やがて、石畳の舗装が切れて、踏み固められた土の道へと変わり、建物がまばらになっていく。

 その先、朱い月に照らされた、周りよりわずかに高いその場所に今にも崩れ落ちそうな、広い家が見えてきた。


 オリビアたちの居所だった。ミッシェルは、何度か、その家に立ち寄り、オリビアと話をしたことがあった。


 しかし、だんだんと近づいてくるにしたがって、


「……何だっていうんですかねこいつら」


「…ジェロ、視線を合わせたらだめよ」


 ミッシェルと、ジェロは、コミュニティの構成員に囲まれつつあった。一歩進むと、一人増える。それを繰り返し、家の入口につくころには、もはや、進むことができないように、綺麗に囲まれていた。


 その隙間から、庭の様子が見えた。大きなテーブルに置かれた、食事をかたずけている人たちがいる。それを監督している一人が気が付き、ミッシェルの方へ向かってきた。


「あれ、みんな、どうしたんっすか?」


 ミッシェルと、ジェロの顔に困惑の表情が浮かぶ。初めて、コミュニティが口を開いたのだから。

 コミュニティも、同じようだった。明らかな戸惑いが見え透いていた


「……シュ……」


「ああ、だめだめ、いつも通りでいいっすよ。これ、僕の役目っすから。皆はいつも通りに」


 コミュニティを、手で制し、軽い口調で言い切る。まるで、それが合図だったかのように、ミッシェルと、ジェロを囲んでいたコミュニティの面々は、元居た場所に戻っていく。


「で、何っすか?今ちょうどいいところなんっすよ」


「いえ、ここに元フラジャイル旅団のオリビアが住んでいるはずですが」


「ああ~そっすね。いたっすね」


 不誠実とも思える口調に、ジェロが一歩前に出ようとするが、それをミッシェルが制する。


「まあ、喧嘩、抗争は気にしても仕方ないっすが、サラディス(この場所)で謀殺に手を出した、旅団の方々には何も話すことはないっす」


 いきなり何を言い出すのかと、ミッシェルとジェロは、勘繰ったが、そのことばが喉から出る前に、不意に家のドアが開いた。その時ミッシェルは、確かに見た。ドアの中から見えた家の中は、赤い光に彩られ、そこには、家の中とは、思えない光景が広がっていた。

 その一瞬の光景は、ドアの閉まる音と同時に断たれた。


 家の中から現れた面々に、ミッシェルは驚いた。ラーング旅団団長のファラとロイエス旅団団長のアンそして、何人かのコミュニティのメンバーだった。


「……。あら?こんなところに何の用?」

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