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第二三話

「リスティル!何をしているのよ!!」


 マリベルが、私と、リスティルの射線上に立ちはだかった。リスティルの目が、明らかに動揺しているように見開かれる。


「リスティル、撃ちなさい」


 魔王の激にも、リスティルの動きはたどたどしく、震えゆっくりながらも止まらず。やがて、オリビアと私を、その照準が捉えた。リスティルは、せめてもの抵抗とばかりに、首が千切れるのではないかという様に振っているが、それは、大して効果を上げているようには見えなかった。


 リスティルの指が、引き金にかかる。わずかな躊躇。銃口から、銃弾が発された銃弾は、小さいながらも、立派な一発。マリベルを引き裂かんとして、凶暴な本性を隠さずに襲い掛かろうとしている。私は、マリベルの前に飛び出す。どうなろうとも、盾になろうとしたその時だった。


 私の行動より早く、前に飛び出した影があった。



 ロンディスだ。



 大楯が、銃弾を受け止める。どう見ても、あれを受け止められるはずはない。そう思った時だった。


「『最終防壁(ファイナルガード)』」


 ロンディスの盾から、一瞬光があふれたかと思うと、その弾丸の前に幾重にも重なった光の盾が顕れる。それは、ひどくゆがんだ伝承を思い起こさせる。ありもしない『聖盾』の伝承を造りその軌跡を模倣した儀式魔法。でも、確かにその在り方はゆがんではいるが…効果はしっかりとしたものだったらしい。


 ロンディスの光の盾に接触した銃弾は、一枚目は破れはしたものの、2枚目で勢いが落ち、3枚目で爆発した。その爆風は残りの盾を破りながらも、その効果を十分に出すことなく、ただ消えていく。


「……ッまだよ!さあ、リ……」

 

 その光景に、一瞬驚いた魔王が、リスティルにさらに、射撃を促そうと声を出す。私からも見える。リスティルは、もう限界をすでに超えている。それでも、ただ、ゆっくりと、その手が動こうとした…その時だった。


 獣王の叫びが、戦場(この場所)に響き渡った。その声が、魔王の命令すらかき消して、一瞬だけ、静寂が戦場を覆った。その出来事に、魔王がその咆哮に意識を向けた。ロアが、いつもの白い柔毛に光を纏わせて、そのまま、魔王に斬りかかる。とっさの出来事に、回避行動をとる、魔王。その魔王の隣にいたリスティルは、命令がなくなって、呆けた方に私の方を赤く充血した目で見ているが、動くことはできないようだ。


 そのわずかな瞬間に、オリビアが、リスティルに近づき、その全身にポーションを振りかけた。それは、雲のようにリスティルにまとわりつき、リスティルは、安どしたような表情を浮かべて、その場に倒れ伏した。


「ふぅ…、何とかなったわね。バンディーラ、遅れてごめんね」


「ちょっと、オリビア。本当に遅かったじゃない。撃たれるかと思って心配したわよ」


「少しは、俺のことも、信用してくれていいんじゃないか?マリベル?」


「ギリギリ守り切れた人のことを信じることなんてできませ~ん!もうすこし、そういうのは、ちゃんと私を護れてから言うものです」


 マリベルに抱き着いている私の顔を、もし説明できるのだとしたら、間抜け面というのが最も妥当な表現だったのだろう。さっきまで、この戦いには足手まといだと思っていたメンバーに助けられたのだから。それを見られたとき、また、残念そうな顔を皆から向けられた。


「……多くは言わないけど、あなたが、一番信用していないわよね…そういう秘密主義も、私大好きだけど…もう少し信用してもいいのよ、バンディーラ」


「全くだ。さっきからずっと見ていたが、頑張りすぎだ。俺にはお前のような動きはできないが、どんなに強くても、一人では限界がある。ああいうときには……こっちに助けを求めてもいいんだぞ。俺たちもそこまで、弱くはない。まあ、無事でよかったが、少し攻撃を食らいすぎだ、これでも使うか?」


 私は、ロンディスが差し出してきたマントに驚いて、自分の服を見る。よく見なくても穴だらけでボロボロだった。よく、破れなかったものだと我ながら、少し驚いた。そして、まさか、この場面で何かを訓えられるなんて思っていなかったことに、また驚いた。



 向こうで、ロアと魔王が闘っている。どう見ても、ロアの方が、少し不利だ。驚いたり、呆けている場合じゃないと私は感じて、皆を見た。


「俺たちは、リスティルを看ているのに忙しいからな」


「そうそう、バンディーラが何をするかなんて、見えないわね」


「リスティルは任せて。これ以上、ロアが傷ついたら許さないんだから……早く行って」


 私は、何とも言えない感情を胸に覚えながら、魔王の方へ向かっていった。もしかしたらこれは、私の胸の奥に目覚めた新しい感情だったのかもしれない。



「ふふ、威勢がよかったのは最初だけ?どうするの?ほら、どうしたいの?」


 魔王の左膝がロアの水月に入り、体制が崩れたところをロアの鼻先にフックがきれいに入り、ロアが地面に転がる。魔王は、その様子を見ながら、ロアにゆっくり近づいた。その目の前に、私が、立ちふさがった。

 もう、手加減をする必要もない…私は、その魔王の虚に取られたような表情を見てそう思った。


「ちょ…バンディーラ?少し待って…そんなに、怒らないでよ…」


 私は、御使いの剣を再び旗に降ろして、そのまま、一気に詰め寄り斬る。ロアに近づこうとしていたその足を、切り払った。その行動に、魔王が驚き、わずかに後退したで、再度距離を詰めて、唐竹割に切り落とす。APを消費して、右足と胴体の修復を一瞬で行うが、あまりの私の攻撃の苛烈さに、魔王の額から汗が流れる。そして、少しでも距離を取ろうと後ろへ飛んだ。


「その瞬間を待っていた!」


 私は、APを消費して、投げ槍を魔王に当たるように投げていたと場所の記憶を改ざんする。


 目の前に、御使いの槍が現れて、魔王の目が、驚愕に開かれる。まさかここまでやられると思っていなかったのか、魔王も、APを消費して、その事実の上書きを試みる。しかし、精度が低かったのか、かき消すことはできなかったらしい。


 魔王は、唖然と、胸に刺さろうとする光の槍が、ただ刺さるのを受け入れるように、見つめていた。

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