第一八話 ロンディス視点
「ロア、大丈夫か?」
「ああ、何とかな。全くあれはいったい何なのだ?」
俺たちは、一度、体勢を整えるために、オリビアとマリベルの元へ戻っていた。あの女性に、俺たちの力は全くと言っていいほど通用しなかった。戦場が二分されつつある。女性の方に、バンディーラとリスティルが向かい、俺たちは、まだ、残骸が舞っているその中心にいるであろう番人に向き直った。
「さっき、攻撃をしてみたけどどれくらい効いているかはわからないわ。でも、マリベルさっきのポーションは効いていたみたいだったけど」
「そうですね『腐食』は有効そうだけど、あいにく、事故が怖いので、たくさんは持ってきていないわ。それだけで止めを刺すには、足りなすぎるわね」
オリビアが、少しだけ考えている。その様子を見て俺は、マリベルに考えを聞くことにした。
「マリベル、俺たちはどうしたらいい?」
「あなたたちに、お願いできるのは、今のところ、足止めだけです。ロアならまだしも、ロンディスさんの能力を私は把握していません」
「腐食を、近距離で使用するっていうのはどうでしょうか?」
ロアの言葉に、マリベルは、首を横に振る。
「ダメね。このポーションは、私が使用したときだけ効果を発揮するようにできているわ。それに、まだ私は、体調が万全じゃないの。このままじゃ、たどり着く前に前衛に、迷惑をかけてしまう」
その時だった。
「ささやき、念じろ!」
力強い声が、場に響き渡き、静寂がその場を覆った。
「どうやらここからが、本番みたい」
バンディーラの声が、少し遠くに聞こえた。
俺は、大楯を構えなおした。確かに、何かの気配を感じたからだった。
埃の先から、鋭い動きで、残骸でできた大きな尖塔にも似た槍が、突き出されてきた。
「くっ!」
俺がその槍を大楯で受け止め切るのと同時に、ロアが、その槍を大鉈で叩き折った。明らかに、以前の装備よりも、大幅に能力が向上している。もし以前だったら、今の攻撃だけで、大楯は破壊されていたかもしれない。ロアの大鉈も、この小さな尖塔ほどもある槍を叩き折ることなどできかっただろう。
「さすがだな」
「いや、反応が早くて助かる。全く、こういうのは嫌いじゃないが…」
そこにいたのは、巨大ながれきでできた巨人だった。現実には存在しない。生態系を無視した大型のモンスター…
「驚いたわね、ゴーレム……を本当に作ることができるなんて」
ゴーレムは、伝承のみに存在しているモンスターのような物だが、人間が作ることも可能とされている。ただ、その技法は途絶えて久しい。と今驚いている、オリビアから聞かされていた。
「これで、形勢逆転といったところね。四人集まっていても、大して怖くない」
ゴーレムの頭のあたりから、声が聞こえた。どうやら、この巨体を維持するには、相当な労力が必要なのかもしれない。
「ねえ、ロアとロンディスさん、私たちに考えがあるの」
「わかりました。マリベル様」
「うん?そうか、なら、もう少し頑張らないとな」
マリベルが、ポーションを二本渡してくる。
「耐腐食のポーションです。装備と全身にかけてください」
少し遠くで、リスティルが魔導銃を乱射する音が響いていた。あっちも頑張っているみたいだ、こっちも頑張らないとな。
「ああ、そうさせてもらう」
「マリベル様の命とあれば」
俺とロアは、すぐに、ポーションを全身に振りかけて、相手に向き直った。
「あと、できるだけ時間を稼いでください!」
オリビアとマリベルに何か策があるということか。俺はロアと視線を交わした。ロアは、マリベルを十分に信用しているらしく、ただ静かに頷いた。それは俺も同じだ。俺もオリビアを信用している。頷き返し、一瞬、お互いの頬が緩んだ。『似た者同士か』




