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第一七話 リスティル視点

「これからが、本番というところね」


 バンディーラ様の声が、聞こえた。わたしは、頷きながら、目の前の女性のことを考えていた。


 さっき、この人は、『再会できてうれしい』と言っていたが、わたしは、その人に見覚えがなかった。乱射もほとんど防がれてしまって、普通の魔力弾では、効果がうすいとわかったが、


『じゃあ、何ができる?』


 そう、自問自答しても、答えが返ってくることはない。今の自分にできることはこれだけなのだ。そう思い、銃を構える。視線の先では、さっそく、巨人と、ロアとロンディスが戦闘に入っていた。いま、あの女性を抑えられるのは、わたししかいない。私は、相変わらず、こちらに意味ありげな笑みを浮かべる女性に魔力弾を浴びせる。


 少なくとも牽制にはなると思った攻撃は、その女性の手の一振りに阻まれる。


「あら、さっきと同じ攻撃なら、お断りよ」


 少なくとも、さっきまでは本気ではなかったということかと、自分の無力さが痛いほどわかる。


「あら、もう終わり?」


 通用する攻撃がない…相手の防御力を貫通する方法が……




 あった。記憶の中にかすかに残っている。


「あの、姉さま。姉さまの魔導銃って変わってますわね」


「これ?これはね、狙撃銃っていうの。その中でも、対物狙撃銃って言われているわ」


 ベルグランデ姉さまが持っていたのは、その身長を超えるほどの大きさの魔導銃。あれ?ベルグランデ姉さまは、なんで銃士でもないのにそんなものを持っていたんだろう?私の疑問は、誰にもこたえられないままに、そのまま、時間が進んでいく。



「見ていなさい、リスティル」


 ベルグランデ姉さまは、魔力弾のカートリッジを魔導銃に装てんし、眼前の残骸と化している馬車に照準を合わせる。一瞬の集中ののちに、姉さまの対物狙撃銃が火を噴き、すぐに冷却材が作用して、銃身から冷たくなった蒸気が噴出する。


 馬車に、その弾丸は大穴を開け、そののちに、馬車の中から爆発が起こった。すでに役目を終えていた馬車だと言っても、普通の対魔法防御くらいは施しているはずだけど、それがまったく役に立たなかったらしい。

 その光景に驚いて、呆けているようなわたしに、ベルグランデ姉さまは、微笑んで見せた。


「特殊弾頭 高性能徹甲炸裂榴弾。別名 ウォールバスター。これは、この銃だから撃てるものだから、リスティルは、まだ、体が小さいから、もっと立ち回りを磨きなさい。」


「でも、姉さま。その弾頭って、どうやって作るの?」


「うん、じゃあ、練習しようか。まずは、空の銃弾に魔力を込めて、徹甲弾を造るところから始めましょう」




 あれから、もう、六年近く経ってしまっていた。ずっと、自己流でやってきた私は、そのことすら忘れていた。銃弾を使うことがなかった。そのことに甘んじてきたのが、この体たらくになっていたのだとしたら。


「あら、もう終わり?意外とあっけないわね」


 両手の魔導銃のカートリッジを装てんする。そのカートリッジに、徹甲弾のイメージを付ける。通常の魔力弾と、徹甲弾が3対1になる様に。久しぶりだったから、上手くできたかはわからない。でも、不思議と怖くはなかった。


 視界の隅にバンディーラ様が見える。応援してくれている。じゃあ、応えないと。


「まだいける。もう一回」


 再び、眼前の女性に乱射を仕掛ける。


「あら、効かないってわからないのかしら?」


 再び手を一振りすると、弾丸が空中で消えてしまう。


「だから、きかな…くっ!!」


 だが、徹甲弾は消えなかったらしく、その女性の体のあちこちにめり込む。だけど、一つとして貫通したものがなく、ただ、めり込んだだけだった。


「どんだけ分厚いのよ」


「あら、女性に、分厚いとか言うと怒られるわよ。お姉さんに教わらなかった?」


 そういうと、その女性は、フードを外す。そのにあったのは、


「あなたがなんでこんなところに?」


「あら、久しぶりすぎて驚いちゃった?そのきれいな顔には、何もしなかったのだから、褒めてほしいわね」


 あの拷問吏の顔だった。




「ロア、もう少しだ!」


 遠くで、ロンディスの声が聞こえた。私が、こちらに集中している間に、どうやら、相手をだいぶ追い詰めていたらしい。


「どうやら、もう少しで終わりみたいですね」


「全く、不甲斐ないわね。こっちがこれだけバンディーラを抑えているのに、ええ、でもね、このまま終わるつもりはないの。ねえ、『リスティル』あるいは、『リスティル・フィリア・フォーディン』」


 何だろう?胸元に寒気と、あの時の痛みがよみがえってくる。


「まずい!!!」


 バンディーラ様の声が遠くに聞こえた。


「『思い出しなさい…あなたが何者なのか』」


 いつの間にか、女性の顔が目の前にあった。わたしは、ただ、それをぼうっと見ていた。言葉が、まるで体にしみこんでいく。まるで、海の中に漂っているかのように。


「思い出す?」


 女性の右手が、服をすり抜けて、胸元に入り込んでいく。その手が、わたしの奴隷印に触れ、何かをそこにはめ込んだ。


「……ハアッ!!」


 バンディーラ様が、その女性の手を旗で…えっ?光の剣で、叩き切った。痛そうな表情を浮かべて、女性は、一跳びに距離を取る。


「大丈夫?リスティル?」


「ええ、大丈夫です」


 バンディーラ様が、女性をじっと睨んでいる。女性の口が笑みをたたえて開いた。




「撃て……リスティル」


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