第四話
「ふっふ~ふ~ん、ふっふーん・・・ふっふ~ふ~ん、ふっふーん!」
私は、4大聖域の一つ、『聖炎の大灯台』連絡ダンジョンである、審判の森…の入り口に来ていた。
ここには、ダンジョン内で数少ない傷を癒し、体力を回復できる薬草が、自生している。この薬草は、移植したり、根分けしようと思い、持ち帰っても、、土に植えると、すぐに枯れてしまう。そのため、聖域の街では、薬草摘みは、大切な仕事だった。
ダンジョンは、特異な空間であることは、よく知られている。そして、ダンジョンのほとんどが聖王により踏破されてしまったため、研究が進んでいない。だが、残ったダンジョンでも、、私たちの常識が通用しない場所だということは、私でもよくわかっている。
特におかしいことが、治癒能力が下がってしまうことだ。ダンジョンの中では、回復魔法や傷薬を使用しない限り、けがを治すことはできないし、魔法を使って疲労した場合も、特殊な回復薬(巡礼者の間では魔力香と呼んでいる)を使用しない限りは、それも回復しない。毒や麻痺も簡単には回復しないから注意が必要になる。
そして、もう一つ大きな違いでてくる。それは、鐘の音である。終わりの鐘と始まりの鐘と言われるそれがダンジョンに鳴り響くと、まるで時が一気に動いたかのように、毒や麻痺の状態異常が解除されて、魔法の疲労感がほんのわずかに回復する。しかし、継続型の魔法の効果が切れて、かけなおしが必要になる。あと、ダンジョン内ではほとんど食事をとる必要がないが、鐘の後は食事をしないと、空腹で動けなくなってしまう。
とはいっても、私も私のいた旅団でも、それで困ったということはなかったんだけどね。きっとあれは、私以外の聖女が何とかしていたからかな?そう考えている間も、手は動き、籠は満杯になる。午前中に終わらせることができた。多分魔法を使ったら早かったかもしれないけど…目立ちすぎるのもなんだからな…
「よし、これで終わりっと。終わったよ~」
腰に刺している旗に私は、語り掛けた。あの追放から3日間、鐘の音と徘徊しているモンスターに注意が必要な、意外と大変な薬草積みをこなしながら、それでも、私は、楽しく過ごしいた。
「はあ、今日までの収穫で、マットが1個買えるよ。ようやく、板敷からさらばだよ!やったね!」
私は、そういいながら、籠を背中にかけ、旗を利き手に持ち替えた。ぐっと、背に重みが走った。早く帰らないと、2人を待たせてしまう。
「じゃあ、行こうか」
その時だった、不意に審判の森が騒がしくなった。
「何だろう?大型のモンスターが表層に来ているのかな?ここで隠れて、少し待った方がいいかな?」
私は、いつもと違うダンジョンの様子を伺っていた。その騒動の原因が、近づいてきて、森から飛び出してきた。ところどころが破れた巡礼服を着ていて、そこから覗く、白い素肌のところどころに傷がある、子供のように見えた。
「はあ、はぁ、出れた?追いかけて・・・いや?」
その子は、手に銃を持っている。魔導銃だろうか?ダンジョン内では、不向きな武器とされている魔導銃はとにかく、消耗が激しいことで有名な魔法だった。全力で攻撃したら1回か2回で動けなくなる魔法。
「来る!!」
その言葉を、まるで待っていたように、森の中から黒い影が飛び出してくる。
「ダークホビット!!」
本来は、審判の森の中層で現れるモンスターだった。堕ちたホビットと呼ばれ、もともとは、人間の友人であったはずのホビットが、その特性そのままに、モンスター化したものだった。ホビットは、友人を自分の家に招き入れる習慣がある。それが、『捕獲』と言うモンスター能力に変わっていた。
文字通り、一瞬で相手を無力化して、自分たちの集落にお持ち帰りする能力。お持ち帰りされた巡礼者がどうなっているのかは知られていない。
一人でいる巡礼者の天敵とまで言われるその姿に、私は言葉を失うほどの衝撃を受けた。だが、その少年は、それを知っていたかのように、両手の銃を構えた。
「くらえ!!」
少年の銃から、魔力が狙いを付けずにほとばしる。少年は、魔力をほとんど計算せずに撃っているように見えた。
それでも効果はあったのかもしれない。宙を舞う、森から出てきた、ホビットは全て地に伏していた。少年は、肩で息をしながら、何とか口を開く。
「ざまあ見やがれ・・・」
きっと私に気が付いていなかったのだろう、額の汗をぬぐい当たりを見まわたした時に、、私の姿が目が付いたらしい、ぎょっと、驚いたような表情を浮かべる。そして、その瞬間だった。
森の中から、さっき倒した数の倍に近い数のダークホビットたちが現れたのは。少年の目が絶望に見開かれる。そして、私の方を見た。
「ここはわたしが食い止めるから、早く逃げて!!」
逃げろと言われても、荷物を持っているし、そう簡単に逃げられるわけなどなかった。ダークホビットの一部がこちらに気が付いたらしい、にやっといらな笑みを浮かべた。
「どうやら、ばれてしまったみたいです。逃げられそうにないです」
私は、少年のそばに近づいた。
「ごめん・・・どうする?」
「こういうこともあるよね。あなたは、あと何回、魔導銃で攻撃でできそう?」
「あと、1回が限界だと思う。」
「あと1回か…私は、応援しかできないから。せめて、あなたが、お持ち帰りされないように、そして、攻撃が敵にあたるように応援しておくね、あ、私がお持ち帰りされそうになったら助けてね」
その声に、少年は、すまなさそうに、顔を伏せた。そのころには、半分包囲されるような形で、私たちは、ダークホビットに囲まれつつあった。
「じゃあ、せっかくだから、応援が届くように、パーティを組もうよ」
「そうしよう…巻き込んで、ごめんなさい」
私たちはじりじりと下がり、大岩を背にして、パーティを組んだ。それを待っていたかのように、ダークホビットたちが襲い掛かってきた。