第一二話
「リスティル、見て」
私がドアを開けると、そこにあった光景に、リスティルは言葉を失っていた。家は、小高い壁の上に移動し、眼下には、見慣れているはずのサラディスが、紅い色に塗りこめられていた。見渡すと、海のあった場所に巨大な大聖堂と、大きな洞窟、洞窟の横には、大穴。その先の離れた島に灯台、そして、うっそうと茂る森の先にある断崖、さらに先に大きな墓所が見えた。
眼下の街にはモンスターや人、獣人などがたむろし、こちらを物珍しそうに見上げていた。
「よう、ようやく目が覚めたか」
ロンディスが、リスティルを見てにやっと笑った。
「おはよう。よく寝ていたから、起こすのもどうかと思っていたの」
オリビアが、上品に微笑む。
「皆さん、本当に私はリスティルのことを、心配したのですから!!」
「まあ、バンディーラが残ってくれていたから、心配はしていなかったが、ずいぶんと遅い起床だったな。マリベル様をあまり心配させるなよ」
マリベルが心配そうな表情を向けたのに対して、ロアは素直に心配していたと言えばいいものを、わざわざ、誤解を招くように言葉を出した。
「バンディーラ様…ここは?」
「ここ?ここは、聖域深部『陰聖の街 セート』だよ」
「…わた…わたし…」
リスティルが、小さく震えている。私は、その先の言葉を待つことにした。
「わたし、こんなことをしている場合じゃ…もう、巡礼も!聖都も!名誉も!今はどうでもいいのです」
みんなが、リスティルを見ている。誰も言葉を発することはない。
「こんなことしている間にも、お姉さまが…もし、、そうなったら…わたし…」
「だから、バンディーラがここに飛ばしたらしい」
今にも泣きそうなリスティルの声を、ロンディスが、優しい声色で遮った。リスティルの涙にあふれた瞳が、ロンディスを見上げる。
「あえて飛ばした?」
「うん、私もよくは理解できないんだけど…みんなで移動できる手段があるって、バンディーラが言って、聞かないの」
マリベルが、困ったような表情を浮かべる。あれだけ説明したのに、なんでわかってくれないかな?
「そんなに遠くないらしいからな。帰るにしても、ダンジョンを超えるわけだ。ここで、少しだけ時間を食ってしまっても問題ないわけだ」
やっぱり、ロアも信じていないですね。
「みんな、信じないのは確かだけど。でも、バンディーラは、ここにみんなを連れてきたわ。それなりに考えあってのことでしょう」
オリビアも、まだ不信感をぬぐい切れていないようだったが、それでも私の言うことは、理解してくれたらしい。
私は、再び、リスティルに向き直った。私を信じていないことは十分にわかっているけど、それでも伝えることにした。
「リスティル、ここにはね、みんなであなたが持ちた場所に戻ることができる方法があるの。私ね…リスティルと明日も一緒にいたいから…悩んでいるリスティルが困難を越えられるように応援したい。そして、また、みんなでここに戻ってきたいそう思っているの」
リスティルが、信じられないような表情を浮かべている。確かに、この言葉を信じろと言われても、決して、信じることはできないだろう。
「みんなで…みんな、あきらめるっていうことですか?わたし、わたしなんかのために」
「そうじゃないわ、リスティル。私はあきらめてなんかいない…みんなそう。もしできるのならばあなたの力になりたいって思っているの」
オリビアが、リスティルの手を握る。その手に、マリベルが手を重ねた。
「私も足りなかった分、助けていくつもりでした。でも、もし皆さんが来てくれればッて思っていたのです」
「リスティル、俺の力は微力だが、力を貸させてくれ」
「マリベル様の心残りを張らさせてもらう。お前に協力するわけではないからな」
ロンディスにロアの大きな手が、3人の手の上に置かれた。むう、こうなると、私も後に続けざる負えないではないですか!
「リスティル。あなたに困難に打ち勝つ力を。それ力を見出し、使うすべを与えることを誓います」
よし決まった。練習したんですよこう見えても。かっこいいでしょう?
周りの視線が一瞬冷たかったが、無事に、出発の儀式はできた。あとは、あいつが素直に力を貸してくれる事を祈るだけだ。
「じゃあ、みんな行こう。」
私たちは、決意をもって、壁に空いた穴に飛び込み、聖域深部『陰聖の街 セート』に飛び出した。




