第一〇話 リスティル視点?
「姉さま!!」
私は、今一歩で間に合わなかったらしい。台の上には、姉さまが、薄く目を開いて、無念そうな表情を浮かべていた。
首だけになって
私を見下ろしていた
「待っていたのよ。リスティル…どうして来てくれなかったの?」
蒼い唇がかすかに動き、三年前の姉さまの声が、静かに私の胸を打つ。泣くことも、さけぶことも許されない、わたしはただ、何もかも失ったように立ち尽くしていた。
どれだけ長い時間立ち尽くしていたのだろうか、不意に、後ろに影が産まれた。
その影を見た私は…
「家の恥、侯国の敵だ!!リスティル・フィリア・フォーディン」
ロッカス父上とジェファス兄さまがあの時のような表情でわたしを見ていた。
「いたぞ!逃亡奴隷のリスティルだ!!」
「やっぱり間に合わないんじゃない?」
たくさんの人が私を追っていた。皆が目を血走らせながら、私を見ている。
後ろに一歩下がった、私の両肩に細い指が食い込む。そこにはあの女性が立っていた。その顔には、弱いものをいたぶるような笑みが張り付いていた。
「逃亡者さん、もう、ゲームは終わり。さあ、あの時の続きをしましょう…」
イヤだ!!イヤだ!!こんなのはイヤだ!!
「助けて!」
「あなたなんて助ける必要はないわ。侯国の敵さん」
オリビアが、嘲りの笑みを浮かべて背を向ける。
「そんな義理はないからな」
ロンディスが、興味がなさそうに、そっぽを向いた。
「ごめん、私に力がないから…リスティル」
「マリベル様そのようなことはありません」
マリベルとロアは、全く私のことを見ていもいなかった…
私は、一人だ…
赤い夕焼けにも似た景色が広がっている。強い衝撃を受けて、わたしは、あお向けに転がされる。あの女性が、私のおなかの上に馬乗りになっている。焼印と、奴隷紋を手に持っていた。わたしは、怖かったけど、不思議と落ち着いて女性を見ていた。その瞳の中に確かに、星が瞬いて見えていた。
「…バンディーラ様?」
そんなはずはないと思いながら、女性に問いかける。その女性の顔が、一瞬歪み、そして、
「リスティル!起きて」
その女性の口から、懐かしい声が聞こえた。
ここまでで、暗めのお話は終わりです。




