第八話 リスティル視点 中
「リスティル隊長、前方に目的物を発見いたしました」
「うむ、ご苦労」
わたしは、この半年の間、任務で探し求めていた、魔草の密売ルートと思わしき村をついに発見することができた。思えば、銃士になって半年の間、ずっとメッセンジャーのようなことをし続けて、その後は、書類仕事に回されていた。私の意見はなかなか通りにくくかったが、ついに、銃士としての役割を果たせる日が来てくれた。
「国内に、流通する魔草の流通源を断て。」
そう命じられてわたしは、隊を率いて、様々な手段を使い、末端から調べていった。その結果、この場所を見つけることに成功した。ただの村に偽装していたが、そこには、大きな煙突を備えた工房があることは明らかで、その規模から蒸留施設を持ち合わせていることも推定された。わたしたちは森に潜み、その様子を伺っていた。
「やはり、警戒が厳重ですね。うん?」
「どうした?」
私もその方向に双眼鏡を向けた。その時だった。荷馬車が到着し、その工房に横付けする。何かを積み下ろししているのはわかるが、何をしているのかそれを確認することはできない。
もし、魔草ならば、十分な証拠品となるだろうが、違えば、相手にこちらの意図をばらしてしまうことになってしまう。ここは、わたしは慎重を喫することにした。
「副官、あれはどちらだと思うか?」
「そうですね、おそらく、魔草ではないのではないかと思います。食料品などの可能性もありますね」
意見があったことにわたしは、ほっとし、副官と再び作戦を立て直すことにした。とはいっても、夜を待って、隠密任務で、証拠集めをするというもともとの作戦に沿ったものになった。
闇夜に紛れて、私と副官は、村に近づいた。他の銃士たちには、待機と、伝令を命じてある。私は、まず、その大きな屋敷に近づいた。屋敷の中は、比較的整理されていて、書類などもわかりやすいように揃えられていた。
「これは…」
私は、その中から、いくつかの命令書を見つけ出す。ずいぶんあっさりと見つかったことに驚いたが、その内容はさらに驚かされるものだった。
「そんな?姉さまの家が、こんなことを命じていたというの?」
そこには、姉さまが一度嫁ぎ、そして、帰ってきたその侯爵家の名前が記されていた。いくつかの書類を確認しているが、それが変わることはなかった。
「姉さまは…そんな!でも…もしかしたら…」
私は、気を取り直して、書類の束を、カバンに詰め込むと、さらに、屋敷の奥に進んでいった。見知った名を見つけたことで、もしかしたらわたしは、冷静さを失っていたのだと思う。
その先にあったのは、地下室、そして、大勢の人…
「そんな」
その人たちは、明らかに重度の魔草中毒の様相を呈していた。焦点の合わない目、そして、言葉を発することもでいないような開いた口。そんな人たちが、少なくとも30人近く、牢屋に閉じ込められていた。こちらを見ても特に反応をすることなく、興味がなさそうにただ見ているだけだった。
「…こんなことって…」
そんな時だった。振動が地下室を覆った。そして、煙が流れ込んでくる。
「何が起きているというの?」
その瞬間だった。牢屋の中から、誰かの手が、私の手を掴んだ。その先にいたのは、確かに、ジェファス兄さんだった。手の先に何かが刺される痛みを感じ、何かが注ぎ込まれた。それが何なのかわかることもなく、私の意識は途切れた。
牢屋の中、わたしは目を覚ました。いつしか振動は止んでいた。ふらつく頭であたりを見回すと、いつの間にか、上の階に上がっていて、確かに足元にあったはずの地下室の入り口は、何もなかったかようにただの床板になっていた。一瞬、自分のしたことは夢かもしれないと思ったが、カバンの中を見ると、昨晩集めた、証拠書類が入っていた。
外に出た私は、驚きの光景にさらされることになる。そこには、焼け焦げた廃墟と、まだ火が消えていない村と、あちこちに開いている大穴と…そして、幾多の焼死体が転がっていた。
「あ、いたぞ!貴様!!」
私は、呆然と近づいてくる人影を見ていた。それは、銃士隊の隊長だった。
「貴様が、この惨状を造ったのか?ああ?リスティル・フィリア・フォーディン!」
「そんなことは、していません。ああ、証拠がここにあります」
私は、カバンの中から、書類を取り出し、短銃をベルトごと外す。
しばらくの間、隊長は、書類に目を通していた。そして、わたしの目をしっかりと見てきた。しかし、その口元には、歪んだ笑みが刻まれていた。
「良い報告だな」
「はい?」
「犯罪者が、自らの自白と引き換えに、罪の軽減を望むか…いや、いい心がけだ。君に騙されて、優秀な副官は死なざる負えなかったのかと思うと、君の罪の告白は、実によい、良い心がけだ」
わたしは、その意味が分からずにただ、隊長を見ていた。気が付いたら、わたしは両肩を、味方である銃士に抑えられていた。
「知らないのか?昨晩、君が証拠隠滅を図るために行った攻撃により、副官は死んだ。攻撃が激しすぎて、その死体すらないらしい」
「…わたしは…」
「ええ?重犯罪者のリスティル・フィリア・フォーディン。君は、かねてより、銃士隊にてスパイ活動が疑われていたのだ。何者かと念入りに情報を提供しあっているのは、すでに確認済みだ。」
ようやく、ようやく、鈍いわたしにもわかってきた。
「連れていけ、軍議に掛ける」
わたしは、無理やり立たせられると、後ろ手に手錠をはめられる。そして、侯国の馬車に無理やり乗せられる。
この3年間を使って、わたしは、嵌められたのだ…




