第六話
「ち~っす、コミュニティです。ロイエス旅団の依頼で、後片付けにきたっす」
その沈黙は、不躾な乱入者により妨げられた。みんな、それに驚いていたが、その人物は反論を許す隙を与えることはしなかった。
「残りの皿とかは片づけるっすから、皆さんは、部屋に戻ってもいいっすよ」
その乱入者は、そんなことを言い出し、私に、振り向いて片目をつぶって見せた。むう、『当方に迎撃の準備あり、命を散らしたいのならばかかってて来い』という、意味ですね。ただ、この方向性で一番強いメッセージを持つ、『お前たちの歴史をこの色にしてやろう』の意味をもつ白幡を持ってきていませんから、まだ優しいほうですね。しかし、皆さんは、コミュニティからも恨まれるようなことをしたのでしょうか?
「……バンディーラ様、御使いの剣を、旗に降ろそうとするのは止めてください。多分考えていらっしゃるようなことは、あれは言っていませんよ。単に、ここは任せておけという意味ですよ」
「え、そうなの?」
コミュニティの今期リーダーに説明されて、私はすこし驚いた。そんな顔をしていたつもりはないんだけどな。
「バンディーラ様は、すごく、ポン…いい人なので、こういうことにかけては、すぐに表情が、顔に出ますね」
「バンディーラ様…なんだか、すごく眠たいんですけど」
見ると、全員が順調に、眠気を訴えているようだった。ロンディスやロアは、早々に家の中に引き上げ、マリベルも眠たい目をこすりながら、向かっていった。リスティルは、私と一緒に行こうと思っていたんだろう、私の袖をつかんで離さなかった。それをみて、コミュニティのリーダーは、少し嬉しそうにほおを緩めた。
その表情の意味は、よく分からないけど、まあ、気にしなくても大丈夫だろう。
「リスティル、そこに、腰掛けていて、すぐに終わるから」
リスティルは頷き、椅子に腰かけると、すぐに舟をこぎ始める。疲れとさっき飲ませたボトルの効果が順調に出ていることを確認して、私は、コミュニティのリーダーとの話に戻った。
「…ところで、元部下へのあいさつはいいの?気にかけていたじゃない?」
「ここまで無事にたどり着いていれば、そのうち会えますから、気にしてはいないです。ただ、危ないところを2回も助けていただいて、私からは感謝の言葉しか出ないです」
コミュニティのリーダーが、ありがとうと言いかける。すでに、この場所には、椅子に掛けたまま寝ているリスティルと壁によりかかって寝ているオリビアが残されているだけだった。
「バンディーラ様、先にオリビアを、あたしが連れていくっす」
ああ、オリビアにとっては屈辱かもしれないけど、それがいいと思う。私は、頷き、リスティルに視線を移した。リスティルは、この短い間にどんな夢を見ているのだろう。そのことを不安に思ったが、寝言のように唇が動くのを見ていると、きっといい夢なのかもしれない。
「ねえ、リーダー。この場所の封鎖をお願いね」
「ええ、いいですよ。バンディーラ様、どれくらいでお戻りになりますか?」
「あっちの状況によるけど、10日くらいかな?それくらいでもどってくるつもり。帰ってきたらすぐに連絡するから、お願いね」
コミュニティのリーダーは頷き、手早く後始末を終えるように指示を飛ばしていく。家の中から、オリビアを運んだメンバーが戻ってきて、手伝いの輪に入る。あっという間に、宴の後は片づけられて、なくなっていた。
「『聖別の間』封鎖準備作業に入る。現在、手の空いているメンバーは、作業に協力するように」
コミュニティのリーダーがそう告げると、多くの人が、家の外で蠢く気配がした。
「じゃあ、行ってくるわ。元騎士団長と元大魔導士」
その名で呼ばれると思っていなかったのだろう、二人とも、少し驚いた表情を浮かべたが、私に、すっと頭を下げ、そのまま外に駆け出していく。その様子を見守った後、私もリスティルを抱えて、家に入り、広間に向かう。布で仕切られた石造りの広間に、粗末な絨毯を弾き、そこに思い思いに皆寝転がっていた。おそらく、男性陣も同じような様子だろう。
リスティルをマリベルの隣に寝させる。近くには、オリビアが、ここに運ばれてから、何かを書こうとしたのか、うつぶせで鉛筆を握ったまま、寝息を立てていた。
「さて、私も…」
腰に差してあった、旗を取り出し、握りしめる。眠気こそないが、絨毯のないところで、あお向けに寝転がる。おそらくその床は、冷たいのだろう。しかし、それを気にせずに、私は、意識を落していった。




