第五話
どんなに楽しい宴にも終わりはやってくる。私は、空になった皿たちと、まだ手を付けていないボトルに目を移した。ボトルにラベルはなく、その様相から銘柄を察することはできないが、私は、そのことをよく知っている。
「じゃあ、最期に、これ飲みます!!」
私は、そのボトルを抱え上げる。一同の中からは、了承と不満の声が上がった。
「ほう、今から、酒が出てくるということか?」
「いいぞ、少し物足りなく思っていたところだ」
ロンディスとロアが、頷く。うん、君たち、仲が良いのはいいことだけど、お互いの武器(獲物)を見せ合うのは止めなさい。知らない人が見たら、殴り合いになる寸前だと勘違いすることになるじゃない。
「ええと、それは…今から飲めるかな?」
「バンディーラ、少しだけにしてもいい?すこし、書き物がしたいの」
マリベルとオリビアは、少し遠慮した様子だった。まあ、仕方ないよね。人によってはきついと感じるものだから。
「バンディーラ様…わたしのめます。飲ませてください」
そんな中、あまり変わらなかったのは、リスティルだった。うん、一口飲めばいいからね。そんなに血走った目をしなくてもいいよ。
私は、そのボトルを簡単に開けると、その甘い芳香をかがないように気を付ける。いつもならば気にもしないんだけど、もし、私が機能不全なんかした日には、ここら一帯が大変なことになってしまう。
グラスにそっと注ぐ、みんなにいきわたる様に。黄金色と白銀色の混ざり合った液体を皆興味深そうに見つめていた。
「ええと、結構強いお酒かもしれないから、少し気を付けてって、…早」
見るとすでにリスティルを除く全員がグラスを傾けていた。すでに注いだ分は、グラスが空になりつつあった。
「いい味だな…昔のんだことがあるような記憶が持ち上がってくる」
「…ああ、どこかで呑んだ味だ」
ロンディスとロアはわかっていますね。
「これ甘くておいしい!!夜に飲むと大変なことになりそう」
「…持って帰りたい…持って帰りたい!!売りたい!」
オリビアとマリベルもお気に入りいただいたみたいだ。少しホッとした。その時だった。私の袖が、そっと引かれた。見ると、そこにあったのは、リスティルだった。それが半分ほど注がれたグラスを手に、じっと私を見ている。
「どうしたの、リスティル?飲まないの?」
「…バンディーラ様、」
「様はいいよ。」
「…奴隷の身分ですいません…せめて、杯を重ねたいのです」
リスティルが、グラスを高く掲げる。私もそれに倣い、高く掲げ、軽く打ち合わせた後に、お互いの杯の中身を少しだけ交換する。
「バンディーラ様…わたし、何もできなくて…ごめんなさい。いただきます」
「そんなことないからね、リスティル。あなたが戻ってくるって知っているから、私はこうやってのんびりとしているの」
リスティルの目から涙があふれ、そのまま、グラスをぐっと呷った。わたしも、それを見て、すっと、グラスを飲み干す。
「すごく、甘くて…なんだろう、昔、飲んだりしたことがあったような気がします」
「リスティルはそう感じるのね。よかった」
私は、グラスをテーブルに置いて、ほっと息を吐いた。そんな時だった。
「ち~っす、コミュニティです。ロイエス旅団の依頼で、後片付けにきたっす」




