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第四話

 次から次に、自己紹介をしていく。長い付き合いの、ロンディスオリビアとは思い出話に花が咲いたが、ロアとマリベルは、出会ったばかりとは言え、少し変わった自己紹介になった。


「短刀直入に聞きます。バンディーラ、あなたは、何なんですか?」


「マリベル、少し待ってくれバンディーラ」


 いきなり、肩をもって、がくがくと振られるかと思った。そうなったら少し困ったことになるから、適度なところで、話を切り上げてくれたロアの機転の良さには、ありがたさを感じるところだった。


「あの、マリベル、何がなんなのかって言われても少し困るよ」


「ああ、すいません。つい。今まで黙っていたんですが、実は、私は、無機物限定の簡易な鑑定スキルを持っています」


 いい仕事がわかるということだろうか?私は、うんうんと頷きながら、その先を聞くことにした。不意にマリベルが、声のトーンを落とす。


「実は、最初にあなたにふれたとき、私の鑑定スキルが作動したのです。てっきり巡礼服か旗に反応したのかなと思ったんですが、対象があなた自身でした。ただ、何の鑑定結果も得ることはできませんでした。これはどういうことなのか、道すがらで、少し考えていたのですが、もしかしたら、あなたは、人間ではないではないか思いました」


 私は、その話を聞きながら、ロアに、マリベルは何言ってるのと、視線で問いかけると、ロアは露骨に目を逸らした。世間ずれしているようで世間ずれしていないマイペースな性格もきっと、前の旅団で聖女といわれるにふさわしいものだったのだろうと思う。


「ええと、私は、人ですよ。ほら、こうやって感情もあります」


 私が、百面相するが、マリベルは、わたしをじっと観察していた。


「嘘言ってもバレますよ。バンディーラさん。でも、私は、それを攻めたくて言っているんじゃないです。あなたは、いろいろと詳しいみたいなので、また、お会いできれば、いろいろと教えてほしいなと思っています」


 その言葉に、私は、リスティルと同じ意味合いと音を感じる。きっと、明日リスティルと供にサラディスを出ていくつもりなのだろう。リスティルの旅路を助けて、一日も早く、故郷に帰るために。…もし、それにより、リスティルの家族を助けることができる可能性がわずかにでも上がるのならば…でも、本当は言いたい。きっとあなたの希望は叶う。きっと()()なんてする必要なんてないと…でも、今は言うこともできない。


「バンディーラ?どうしたのだ?」


 ロアが不意に私に問いかけてきた。きっと、私の顔が珍しく真面目に見えたからだろう。いつもが間抜けな顔といわれているけど、それはそれで仕方ない。ただ、この時だけは、比較的真面目に、役割に取り組もうと思った。いつもさぼっているわけじゃないんだけどね。


「リスティルが心配ですか?」


 私はあえて、異言語で低い声色で問いかける。マリベルはおろか、ロアも、私の顔を見たまま固まった。おそらく、マリベルは特に驚いたと思う。スクロールに使用する、古代言語。今では、話すことができる人も少なくなり、教会や一部の人の間でだけ使われている、俗称『神の言葉』。この一言を買う為に、大金をはたく人も珍しくないらしい。


 マリベルが驚き、ロアも、私の話す言葉を理解できるのか、明らかに私に警戒を向けてくる。2人の表情は硬いが、決して、諦めてはいないようだった。リスティルのことを本気で心配してくれている。そのことに、私は安心する。


 これだけ思われているのだ。

 もし、私が終わっても、リスティルは、あなたたちに元に戻れる。きっと、戻ってこれる。


 私が、真面目で厳格な顔を崩して、微笑みを浮かべたからだろうか、マリベルとロアは、一瞬緊張をもって、心構えをする。それでいい。それでいいんだよ。


「心配はないです。でも、あなたが思う人が苦難に沈む時は、救い出して。きっと、リスティルも、あなたたちといることを望んでいるから」


 私は、リスティルのことを、二人に託したつもりだった。しかし、帰ってきた言葉は、想像していない言葉だった。


「リスティルを留めておけるのは、バンディーラ、もしくはバンディーラ様だけなのです。お願いします、リスティルを助けてください。私は…」


 私はそこで言葉に詰まった。きっとマリベルは泣いている。だからそれ以上聞く気はなかった。

 私もそのつもりだった。リスティルを後悔なんかに沈ませはしない。それは、マリベルもわかってくれたみたいだった。ロアが、よろめいたマリベルを支えた。


「リスティルは、弱くなんてないよ。だから、行動を縛りはしない。でもね、マリベル」


「バンディーラ様には、何か、策があるのですか?」


「ないよ」


 マリベルが、驚いたような表情を浮かべた。それを見て私はさらに言葉を続けた。


「でも、言うでしょう?『人事を尽くして、天命を待つ』とリスティルは、人事を尽くしたよ。あとは天命を待つだけ」


 マリベルの顔をが、怒りだろうか?それとも失望だろうか、一瞬朱に染まる。でも、私は続ける。


「うさん臭くても、正体不明でも。聞いてほしいの、信じてほしいの。マリベル。私は、みんなの味方だよ。もちろんリスティルの味方。だから、今は、本当に何も言えないけど、私を信じて。きっと、困難を乗り越えるだけの力がみんなにはあるのだから」


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