挿話 ???視点
時系列的には、オリビアの追放直後(1章第6話)のお話です。
キィィィィ…バタン
碌に手入れもしていないドアが、音を立てて閉まった。先ほどまで対峙していたが、不幸中の幸いで、私は、彼女のことを知っていたが、彼女は私のことを知らなかった。ただ、顔見知りの奴が、噂では、街に入っているらしいので少し気を付ける必要自体はありそうだ。
「あれれ?終わったんすか?早かったすね」
天井の一部がスライドして、そこから、気の抜けた声が響き、ひょっと逆さの顔が私を見下ろした。黒の長い髪に限りなく黒に近い青い瞳、細い顎にすっと通った鼻立ちと、小さくな唇。一見すると子供のようにも見えるが、私はそいつがそんな生易しいやつではないことを知っている。
「ところで知り合いだったのだろう?あいさつしなくてもよかったのか?」
「まさか?彼女、あたしを恨んでいるだろうし。ほら、問題児が退いた席に座たのって、どんな気持ち?どんな気持ち?ってやったら、本当に怒られそうっすから」
「やったのか?」
「想像に任せるっす」
こいつの性格ならば、やるかもしれないと思ったが、私はあえて答えを聞かないことにした。そいつは、するっと天井から降りると、俺が机に広げている紙を興味深そうにしげしげと眺めた。
「しかし、本当だったんすね。上の王様連中、これ相当、怒っているんじゃないっすか?」
私は、ふぅっと息を吐くと、机の書類に目を落した。そこには、サラディスのある重要地点への地図が置いてあった。つい先ほど、ドアから出ていった人物に貸し出すことを承認を受けていた。
「ああ、王様連中怒っているだろうな。おかげで、私たちは残業確定だ。本来なら、今頃は残務整理だったはずが、これからが本業になってしまったからな」
私のその声に、そいつは本当にうれしそうな笑みを浮かべた。まるで新しいおもちゃを見つけたかのようにうれしそうな笑みを。
「あいつらもやる気だし、こっちも、ガンバルっす。全く、導一つ結び付けておけない、新聖王は放っておいて、こっちはこっちで、楽しむことにするっす」
「ほどほどにしておけよ。前聖王に見つかると厄介だぞ」
そいつは、楽しそうに、さっき開けて出ていったドアを、音もなく、スライドさせて出ていく。私は、はあっと、少しため息をついた。
「全く、確かに来るんじゃないかと思っていたけど、私の部下が、本当に来るなんて聞いていない」
おそらく、ここに誰かいたらそう思っても、相手はサラディスにいるのだから、もう遅いと返されただろう。本当に、コミュニティというのは不幸なものである。下手に街を歩くこともできない。
私は、再度椅子に深く腰掛けると、懐から一枚の紙を取り出し、机の地図に合わせ、天井の明かりに透かして見せた。場所を示す赤い点、そこには、『聖別の間』言う文字が、書かれていた。




