挿話 フラジャイル旅団の裏方
準備回 2
「なあ、どうするか?」
「さあな、知らねえよ」
俺たちは、倉庫の中で、困った表情を浮かべていた。俺たちを困らせていたのは、本来なら棚を埋め尽くしているはずの、備蓄品の残数だった。今回の攻略に向けて蓄えられていた備蓄品は、あっという間に底をつきそうになっていた。俺たちは、現在の窮状を訴えるために何度も報告を上げたが、結局それは無駄に終わってしまったらしい。明らかに空の棚が目立ち始めていた。
団長の主力パーティの棚こそ、物資があふれているが、平民が主力である、斥候や偵察隊の棚からは、物資が消えそうになっていた。
「なあ、あと、どれくらい、パックを詰められるか?」
俺たちは、残っている物資で、斥候や探索が何回行えるのか確認することにした。その回数をはじき出したとき俺たちは、絶望的な数字に驚愕した。
「30回?」
「ああ、確かに30回だな。計算間違いではない」
到達時には、200回を超える探索を行えるだけの物品が収められていたはずの棚に残っていたのは、わずか30回分の備蓄だった。
「王女派の盗難のせいか?」
「し~、めったなことを言うもんじゃないぜ。俺たちは、きちんと、毎日帳簿を付けているだろう?」
俺は頷いた。正確に記載された帳簿は、この一週間の間に、盗難を含めても、大きく物品の数が減ったことを表していた。調査が、中層近くに及ぶこともあり、このところ、斥候隊の消耗が激しくなっていた。死者すら出ていない者の、傷を負うもの、精神を病むもの、病気にかかるものと今まで使ったことのなかった救護所内がいっぱいになるほどに、負傷者があふれていた。
しかし、ここでも、団長派と王女派の確執で、治療が遅れていた。王女派は治療と引き換えに、団長派がため込んでいる貴重品の放出を望み、それを団長派の面々は断り続けていた。その間も負傷者は増え続けたが、それを団長たちは見ないふりをしていた。
聖域の街に到達してからたった1か月近くの間に、ここまでおかしくなるとは思っていなかった。
すでに平民の団員の中には、旅団を退団して、パーティを組んで故郷に帰ることを考えている者も出始まていた。
「この状況で攻略か…」
旅団の3分の1の人員と物資をつぎ込んだ、聖域の攻略。珍しく団長派と王女派が、息を合わせて出ることになっていた。ただ、おそらく、ダンジョンの中でギクシャクとした状況になって、何らかの問題が起きることになるだろう。今状況で、本当に聖域の攻略など可能なのか、疑わしい状況だった。
だが、俺たちは、ここに縋りつくしかないのも事実だった。
「かと言って、故郷に無事に、帰れるわけでもないからな」
一人で、あのダンジョンを超えるのは不可能だということは、十分にわかっている。大河と山岳を超えることなど不可能だということも。
「じゃあ、サラディスに住むか?」
ここの住民、コミュニティはかなり閉鎖的で秘密主義的な集団だった。サラディスの周りに畑もなく、牧場もないような土地で、食料を調達し、こちらに安くで販売し、また、薬草や高価なポーション、そして、高級な装備品なども条件が合えば調達することもできる。しかし、積極的な交流はなく、たとえ街ですれ違ったとしても、言葉を交わしたこともない。
「そういえば、オリビア元副団長とあの、アーレス野郎の元パーティメンバーのロンディス、あと、ええと、なんだっけあれ?」
「ああ、あれな。3人で、サラディスに住んでいるらしいな。あいつらも帰る手段がないっていうことか?」
「まあ、そういうことだろうな」
もう一人の名前は思い出すこともできなかったが、それはどうでもよかった。明日の攻略に向けて、少なくなってきた、倉庫の中の物品を掻き集めていく。そんな時だった。
隣の建物から、歓声が響いた。上層部が、自分たちの子飼いのパーティで開いている出陣式がどうやら終わったらしい。上層部が、浮かれているのは知っていたが、ここまでくると能天気と言うしかなかった。
「なあ、」
「ああ?なんだ?」
「攻略、成功したらいいな」
「ああ、そうだな」
俺たちは、倉庫の片づけをして、カギを掛けた。成功すればいいが、もし…という言葉は結局出ることはなかった。明日から、俺たちも、聖域ダンジョンに補給隊として配置されることになっていた。
第一章 パーティ結成編 完
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