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挿話 フラジャイル旅団の面々

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フェリガン団長視点


「いよいよ、明日、誰も見たことのない『落ちた大聖堂』の攻略が行われる。


 伝説の時代から今に至るまで、幾たび多くの英雄たちや著名な旅団を。退けてきた聖都の扉。その一端が、我々の手により、ついに開かれる。」


 俺は、観衆たちを見る。そこには、俺の言葉に、目を輝かせて聴き入る者、陶酔しているかのようにうっとりとした表情を浮かべている者、これからの自分があげる武勲を想像し武者震いしている者たちがいた。


「伝説の騎士長、大賢者、竜騎士…その多くのものが、進み戻らなかった。我々はその意思を無駄にしてはいけない。


 …聖王が没してから、早300年の月日が過ぎた。この300年の間、我々は眠っていたわけではない!

 諸君、ただ、足を止め、門を閉ざしてきた聖都の300年に、我々が、300年間ためてきた、力を、怒りを、ぶつける時がいよいよやってきた。


 新たな歴史を創ろう。諸君、歴史になり給え!」


 歓喜の声が、集まった団員たちから響いた。その声は、俺の名を呼ぶ声に変わり、何度も、何度も。俺は、演壇を降りて、左右に割れた、観衆たちからの歓声を聞きながら、集会所の扉をくぐった。そして、執務室がある2階へ向かうことにした。


「結局、聖女メルダは現れなかったな。使いは出したのか?」


 俺のイラついた小声に、秘書は淡々と答えた。


「ええ、2日前に。もともとから予定があるため、参加は見合わせるとの連絡が入っておりました。ただ、旅団として『落ちた大聖堂』の攻略には同行すると連絡は入っています」


 俺は、俺の旅団の一部を私物化しているその態度が気に入らなかった。その対抗措置を考えている間に、執務室につく。


 扉を開け、そのまま机に向かう。報告書が山と積まれていたが内容は似たり寄ったりだった。この一週間の間に、物資の消費状況が変わりつつある。そして、重要物資のうちいくつかが、王女派の手により奪われているとのこと。そんなわかりきったことを何度も報告してくる下々の連中に呆れるしかなかった。


「報告書のうち、物資に関することは、見る必要もない。斥候結果と他旅団との折衝記録だけ見せてくれ」


 スペーサー旅団が、合流したが、その戦力の多くは、王女派へ流れてしまい、俺たちの手元には下級貴族のパーティと武器を握ったこともないような平民のサポーターの一団だけが加わっただけだった。仕方なく、今現在サラディスに留まっている旅団から、引き抜きを行うことにしていた。現在サラディスに留まっている旅団は、5つ。

 

 弱小の、ラーング旅団、ロイエス旅団。中堅のアーガイル旅団、フォビア旅団。そして、俺たちのフラジャイル旅団。

 スペーサー旅団を吸収したと聞いて、アーガイル旅団とフォビア旅団からこちらに移ってくる団員も多かったが、意外だったのは、ラーング旅団とロイエス旅団からは一切移籍に応じる団員がいなかったことだ。特にラーング旅団は、パーティが一つ壊滅した直後だというのに、誰一人として離脱者を出さなかったことは、驚愕に値する。


 折衝記録を見たが、大きく変化はなかった。一時的ではあるが、アーガイル旅団やフォビア旅団からの流入も止まっている。おそらくこちらの成果待ちというところだろう。故に今回の攻略は、決して失敗することは許されなかった。


 斥候記録に目を通す。それを見たとき俺は、歓喜に打ち震えた。


「なるほど、中層付近のモンスターの移動は本来なら危惧するべきだが、そのモンスターと、俺たちの旅団は相性がいいからな。何の問題もない」


 そこには、本来『黄金の巡礼路』中層に出現報告のある魔物が、大挙して表層付近に出現しているという報告が上がっていた。以前、幾度かそれと遭遇戦闘に発展したが、苦戦することはなかった。俺は勝利を確信し、残りの報告書に目を通していった。いよいよ明日、俺たちの旅団が歴史を変える。


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聖女 メルダ視点


 穏やかな日和が、茶会に差し込んでいる。さすがに、王都のようには振舞えないものの、高級な茶葉、そして、豪勢な茶器と贅沢な品々に囲まれたその場所は、私のすさんだ心を癒してくれる。


「本当に…わきまえないものが多くて、大変ですわ…」


「いや、メルダ様のお怒りはごもっともでございます」


 以前、この男は、スペーサー旅団の団長であった。我々の団長(それ)のように脳みその代わりに、筋肉でも詰まっているような品位も知性もないものではなく、私に対する忠誠と敬意をもって接するきちんと己の立ち位置がわかった男だった。


 あの時は実に面白かった。すでにスペーサー旅団の多くの団員と、有力な物資と貴族の生活を支える様な品物は、私の元に来ることが決まっていたのに、それを手に入れられると安易に考えていたフェリガン(駄犬)の吠え面は、実に面白く、皆で笑いものにすることができた。

 あのフラジャイル旅団のサポータ時代に苦労をしたかいがあったというものだ。今は、聖女と名乗るだけで、皆が崇め奉ってくれる。そう、これが私の価値なのだから。ようやく私は元の価値になるまで、引き上げられたというもの。


「フラジャイル旅団は明日から、『黄金の巡礼路』の攻略、そして、その先の『落ちた大聖堂』の攻略に移るとなっていますな」


「なにも、私たちが、手を動かす必要はありませんわ。我々に仕えるべき下々の者と、戦うしか能のない戦い好きな者たちに、任せておけばいいですわ。もしうまくいくようなら、私たちは一番おいしいところを取ればいいだけですし、もし、噛みついてくるのなら、イヌには躾が必要ですわね」


 その声に、会場内から笑い声があふれる。


「そうでしたな。我々には働き者がおりましたな。いやいや、結構。働き者に存分に働いてもらうことにしましょう」


「戦働きしか能がないのですから、飼われるのが本望というものですね」


「いやはや、目の前の餌を食べることしかできない、駄犬も使いどころはあるということですな」


 私は口元を抑えて笑みをこぼした。そう、それはあなたたちも同じ。価値をわからない者に、至高の一品を与えても仕方がない。それは、あるべき場所にあるべきなのだ。王都の職人が作ったこのティーカップを持つのにふさわしいのは私だけであるように、


『さて、その落ちた大聖堂とやらには、私が持つにふさわしい聖遺物があるのでしょうね。』


 私の周りは、教会の最高戦力と王族に忠誠を誓う汚れ仕事を厭わない騎士たちで固められている。並んで私の寵愛を期待し、表面上は従うそぶりを見せる貴族たちを、内心で見下しながら、さらなる称賛を浴びる日が近いことを私は確信していた。


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アーレス視点


「ほう、やはりいいものだな」


 聖女が確保した部屋で、俺は、手の中の宝剣を光にかざしていた。部屋の中には、様々な宝飾を付けたり外したりしているアメリアと、部屋の壁によりかかり、表情を見せていないルキナだけが残っていた。その剣の名は、王都の宝剣『ライトブランド』光を封じ込めて作られたといわれる輝ける大剣。俺は、両陣営のセレモニー(お遊び)には参加せずに、スペーサー旅団の持ち込んだ宝物と、王女からの賜り物を確認していた。まさか、この俺が、王都の宝剣を手にできる日が来るとは思ってもいなかった。


「ええ、貴なる方は、あなた様のお力をお求めでございます。これは、ほんの手土産。もし、『落ちた大聖堂』にまでとたどり着ければ、さらなる褒美をもってあなた様の働きに応える所存でございます」


 深々とそいつは頭を下げた。こいつは気に食わないが、こんなチャンスはめったにない。貴族と平民の間に生まれ出でたおれが成り上がることができるまたとないチャンスだ。うまく波に乗っていることが必要になるが、それは、決して難しいことではないだろう。


「これが約束のものだ」


 俺が渡したのは、この2週間、斥候(下働き)どもが積み上げてきた、『黄金の巡礼路』の地図とその情報すべてが記載されたノートだった。すでにコピーを取っていたから、倉庫から取り上げて、持ってきた。倉庫の中身もだいぶ寂しくなっていたが、その分、聖女に移ったのだと思うと、大して問題にはならなかった。


 受け取った小男は、その記録をまじまじと見て、確かにとバッグに直した。


「いやあ、助かりました。では、このことは報告しておきます」


 俺の前から、小男は、そそくさと逃げていく。


「うんもう、アーレス、逃がしちゃってよかったの?」


 宝物を身に着けて、楽しんでいたアメリアが、軽薄な笑みを浮かべて、俺によりかかってきた。俺は、笑みを浮かべて、華奢で方を肩を撫でる。


「今は、王女派にも恩を売っておかないといけないからな。さて、仕事だ、ルキナ」


 俺が紙を差し出すと、ルキナと呼ばれた、シーフ上がりの小柄な女性は、頷いた。そして、俺の手にある紙をもって、窓から飛び降りてかけていく。その紙には、この宝物を持ってきた、王女派の宝物庫の場所が書いてある。この情報が、団長の目に留まれば俺の株がまた上がること間違いなしだ。


「さて、明日が、いよいよその日というわけだな、アメリア」


 首筋にそっと舌を這わすと、アメリアはびくっと体を震わせた。そして、俺に物欲しそうに、瞳を合わせてくる。


「もう、アーレス。明日からのお守りほしくない?」


「お守りか、ああ、そうだなお守りは大事だ。お前から欲しいな」


 アメリアは、今も聖職者だとは思えないほど妖艶な笑みを浮かべて、目を閉じた。俺は、その唇をまずは味わうことにした。


準備回です。

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