第二一話
「結局、俺は、なぜ彼女が死を選ばざるを得なかったのかはわからなかった」
ダンジョンを暴走状態にするために、聖女を生贄に捧げる様な事をする…私は、そのことに驚きを隠せないでいた。このことはファラは知っているのだろうか?また、このことをおばあさまに伝えたらどういう顔をするか、それが少し、心配だった。
「そうだったんだ…マリベルが聖女になっているなんて」
「マリベルは、何の聖王遺物を持っていたの?」
「マリベル様は、…何の聖王遺物も持っていらっしゃらなかった。彼女はスクロールとポーションを作る才能を買われて、『聖筆』という聖王遺物を持っていると勝手に広められて…気が付いたら聖女の座に座らさせられていた」
『聖筆』…コズミックな力を持つフォージかな?私が知らない間に聖遺物も聖王遺物もずいぶん増えたんだね。
「聖女聖者の数は限られている。よって、よくわからない聖王遺物を持っているとして、強制的にその役割を負わさるものは多い。というか、バンディーラ、お前もそうだったんじゃないのか?」
そう思った私の考えを遮るように、ロンディス言い放った。ずいぶんと失礼な言うな。
「そんなことはないよ。私はもともとから聖遺物だよ」
そう言い放ったが、御使いたちからは苦笑、そして、ロンディスからは、苦笑いをもって、そして、オリビアからは呆れをもって迎えられた。
「バンディーラは、いつもそうだよな、狙ってやってる?そろそろ、正直に答えるのをやめたらどうか?」
「バンディーラ…あなたは、全然変わらないよね、わざわざ苦しくなる方向を選ぶあたりがあなたらしいとは思うけど…それを楽になるのに」
私は、内心もうっとむくれながら、階段を下りる。背中を御使いが子供ののように撫でてくれる。少しだけ気が楽になるような気がした。御使いをさすがに、全員は連れていけないから、弓隊は、上空で待機を命じた。騎兵隊は、気づかれないようにダンジョンの周辺での待機をお願いした。御使いが顕れていられるのは、鐘が鳴るまでのことだけとはいっても、その鐘の時間まではまだまだ遠いと感じていた。
「バンディーラ殿。そう、きちんとすべて、答えなくてもよいのではないですか?」
「ロンディス様、オリビア様。バンディーラ様…」
「様はいらないわ!」
「を、そんなにいじめないでください。バンディーラ様にも、きっと何かお考えがあってのことだと…多分思います。」
リスティルとロアは私のことを想って言葉をかけてくれる。そのことはすごくうれしいのだけど、その声に、オリビアとロンディスが黙ってしまう…そういうことじゃないんです。
「私は…困っていたりとか、そんなことはありませんから。みんな、大事な候補者なのですから、もう少し仲良くできたらなと思っているだけなんですよ…」
私のその声は届かないまま、ダンジョンの中に虚しく吸い込まれていく。ロアが、悲しげな表情を浮かべていて、リスティルもそれに気が付いたのか、同じように、苦し気な表情を浮かべている。それにかける言葉もない、ロンディスとオリビアの周りにも、何とも言い難い、沈痛な空気が漂っていた。
そんな折だった。私は、その後をついていきながら、御使いがそっと耳打ちした内容に驚き、再度よく確認をしてみる。そのことに間違いがないとわかり、正直げんなりとした気持ちになったその時だった。
「…もうすぐだ」
ロアの後悔と悔恨の声がダンジョンに響いた。そこはロアが、マリベルと別れたという場所だった。ちょうど私たちの斥候の死角になるように配置された二重背線。本当に、設計者の心理がわかる。血にまみれた部屋を脇目に見ながら私たちは少しずつ奥へ奥へと進んでいった。
やがて、私たちの歩く階段が途絶え、広間が眼前に広がった。私は、その光景に、頭痛を覚えた。その場所は、リスティルと以前探索をしてきた場所によく似ていた。しかし、違ったのは、壊れた柵の手前…
白い巡礼服に身を包んだ女性が倒れていた。




