第二話
「最初に言ってくれればいいのに」
私は、ほんのわずかな金品を受け取り、ギルド本部を後にした。目の前には、聖なる城壁と呼ばれる壁が連なっている。その壁は、今まで幾多の巡礼者の侵入を阻んできた。今まで属していたフラジャイル旅団は、その壁を最初に越える旅団として、街の中でも注目を集めている。
巡礼を行うべしと王都の教会に神託が出て、周りの村々から王都から出て半年、山を越え川を渡り、ようやくここまでたどり着いた。ここは、聖都の城壁にある、聖域の街サラディスと呼ばれている。ここからさらに西に船で渡ると魔族の領域に入る。
この街は、その名の通り4つの聖域と呼ばれる特殊なダンジョンに囲まれている。大地より落ちて、いまだ聖なる力を失わない、『落ちた大聖堂』、強力な聖なる光により近づくこともままならないが、かつては、その光で、沖合を行く船を導いていただろう『聖炎の大灯台』、そして、大穴から、光が届かない地下へと降りていく、かつて、どう使われていたのかすらわからない『聖人墓地』、最後に、どこにあるのかすら定かではない、『隠聖の街 セート』が、この街の周りに存在していると言われている。そして、それを攻略しない限り、聖都への道は開くことがないと言われている。
私は、ふぅっとため息をつき、手に持った旗を見た。いつものように、輝いているように見えた。
「ねえ、わたし、旅団追放されちゃったよ。聖都に行きたいよね?どうしようか?」
当然、その言葉に反応はない。私は、そこで考えていても仕方ないので、旅団本部から離れようとした。
「お、バンディーラ!どうした?」
その時背中から声がかかった。パーティメンバーの、ロンディスだ。旅団の中には、実際に、ダンジョンの攻略を行う、パーティと、その手助けをするサポーターが存在する。私は、少し前までは、パーティだったが、今は、サポーターとして旅団を支えていた。
「あ、ロンディス」
「早く、パーティに復帰してくれよ、バンディーラ。お前がいないと、少し攻略が大変なんだからな。はぁ、今日も疲れた」
ロンディスは、最初こそ冷たかったが、道中で半分ダンジョンと化した山岳を越えたあたりから、急に私にやさしくなった。不思議だったが、まあそういうこともあるのだろう。私は、手に持った退団命令書を、ロンディスに突きつけた。
「見ての通り、今日で旅団から、放り出されてました」
退団命令書と、私の顔をまじまじと見たロンディスは、ふぅっと息を吐き、剣の柄に手をかけた。
「おっしゃ、任せとけ、少し殺ってくる。団長?それとも、うちのアタッカー様か?まあ、どっちでもいいや」
「ダメだよ!!ロンディス!!」
殺気を発しながら、旅団本部に飛び込んでいきそうなロンディスの腰にしがみついて、必死に私は、食い止めた。少ししてロンディスも少し落ち着いたようだった。
「全く、誰の差し金だ?」
私を腰から引きはがしながら、ロンディスは優しく、あくまで優しく聞こえるように聞いてきた。
「ええと、団長だけど・・・」
「そうか?団長か・・・ヨシ」
「やめてよ、ロンディス。団長も考えあってだよ。ほら、私って、旅団の中じゃあまり役に・・・」
「立っている!!」
「立ってないし・・・」
ロンディスと、一瞬声がハモった。それが少し恥ずかしかったが、それを、ロンディスは、意外そうに感じたようだった。
「役に立っていない?・・・本当に、そう考えていたのか?バンディーラ?」
「うん、でもね、だからね、私は私で、聖都に行きたいの」
聖都にたどり着き、聖王の玉座を得たものは聖王の位を得る、そう、伝えられていたが、私は、そんなことよりも、聖都に行ってみたかった。ただ、そこにたどり着く。それが、私のある意味だった。
その決意は通じたようだった、ロンディスは、しばらく考えたのちにふぅっと息を吐いた。
「バンディーラは、変わらないな。…もし、手伝えることがあれば、頼ってくれてもいいんだぞ」
ロンディスは、そう言うと、背を向けて、旅団本部へ入っていった。
「ロンディス、ありがとう」
呟くように、お礼を言うと、私は、住処にしている安宿に向かうのだった。