第一九話
「もう、お嫁にいけない!!」
いろいろやってみたが、気が引けなかったので、ウソ泣きに切り替えた、地面からチラ見したが、見事にみんな、私のことを無視して、ロンディスの話に聴き入っていた。むう、脳筋は脳筋らしくしていればいいのに…その言葉は、口の中に含んだままだったが、もしかしたら聞こえてしまっていたのだろうか、獣人が、憐れみを持った目でこちらを見ていた。うう、まさか同情される日が来るなんて。
「というわけで、俺たちは、バンディーラに助けられたわけだ。今回も、本当に危ないところだった。ありがとうなバンディーラ。」
ロンディスの笑みが、私の目に飛び込んできたが、私は、う~んと少し腕組みをして考えた。
「バンディーラに感謝しているってことよ…疑ってごめんなさいね」
オリビアの声を聴いて、私は、心の奥深くで、また深いため息をつくことしかできなかった。すこし、心苦しいけど、オリビアの申し出は受けておいた方がいいそう思った。
「ふふっふ、ようやく、気が付いたのね。聖女のようなバンディーラ様に任せておいていいわ」
ない胸をはって、私はふんぞり返る。御使いからも、残念な視線を感じるが、気のせいだと思い、ここは堂々とした態度を取ることにした。
「あの…バンディーラ様」
「様はいらないわ」
「いえ、ご自身でいうときには様はいらないですよ。バンディーラ様、あと、また助けてもらってありがとうございます。これからも、奴隷として、着いて行きます」
リスティルが真面目に言い、頭を下げる。…リスティルは奴隷にしておくにはもったいない、真面目でいい子なんだよね…この斥候が終わったら、ファラに相談して、奴隷印の治療をした方がいいかな?でも、きっとリスティルはそれを望まないだろうし、あと、本格的に治療をするとなったら、あれに力を借りないといけないだろう。でも、あれに借りを作るのも嫌だし…私が迷いに迷いを重ねてドツボにはまりかけていたそんな時だった。
「ああ、バンディーラ、ロアがお前に頼みたいことがあるって」
さっきまで獣人と話手をしていた、ロンディスが、獣人とともに、わたしの方に進んでくる。獣人の人は、ロアっていうんだと今更に気が付いた。本当に出会いは、ほんのわずか前だったけど、いろいろあったよね私たち。
ロアが、目の前に進み出ると、御使いに明らかな変化が生じる。剣と盾を構えるもの、槍を構えるもの、そして、弓矢ではなくジャベリンを構えるものと、そんなに警戒しなくてもと、私が、御使いに言おうと思った時だった。
「バンディーラ殿、お願いがございます」
ロアが、膝を屈し、私にお願い事をしてきた。
「スペーサー旅団の、聖女…マリベル・スペーサー様の遺体の回収にあなた様の力をお貸しください」
私は困って、ロンディスを見たが、ただ視線を返してくるだけだった、暗に助けてやったらどうだと言われているような気がした。。
逆に、意外な反応を見せたのはリスティルだった。驚きに目を見開き、言葉を失っている。リスティルは、ロアを見て、慎重に言葉を選んでいるようだったが、意を決して聞いた。
「ろ、ロアさん、マリベル・スペーサーって、商人連合の大連盟、『夢見る光龍』盟主の三女さんですか?」
その言葉に、ロアは重々しく頷いた。その瞬間に、リスティルの顔に、何とも言えない表情が浮かんだ。その表情を見られないように、リスティルは顔を伏せて、わたしの方へ向き直った。
「あの、バンディーラ様…私からがいえることじゃないですが、私からも、お願いします。マリベルは…マリベル・スペーサーは、私の数少ない友人でした。せめて、弔わせてください」
そのまま放っておくと、地面にめり込むんじゃないかというくらいに頭を下げている。ロアと並んで、これは、困ったことになったと、私は、オリビアを見た。オリビアは、御使いたちを興味深そうに見ていたが、今のやり取りをよく聞いていたらしい。
「バンディーラの望むようにすればいいわ。今回は私は何も言わないから」
と言ってのけて、また、観察に戻る。うん…仕方ないよね。多分、問題ないはず。
「仕方ないわね…ロア、道すがらで悪いけど、あなたのこともいろいろと教えてね」」
その声に、ロアが、かたじけなさそうに頭を下げた。リスティルも同様にしている。死者を悼み、弔いたいという気持ちがあるのだろう。その感情こそ私にはないが二人の気持ちは十分にわかるものだった。