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第一八話

 シャドウジャイアントは、暗闇を好む巨人族で、体長は、人間の大人2人分にもなる。本来はあまり活動的なモンスターではなく、まず、表層付近で出会うことのないものだった…しかし、何が起きたのか、それが、地表にまで上がってきていた。


「一体、聖域の中っていうのはどうなっているのよ!『炸裂火球』」


 オリビアが、魔法の乱射から、単体に対して効果の高い一撃に攻撃手段を変えて、魔力を放つ。確かにそれは有効に見えたが、致命傷にはならなかったらしい。そのシャドウジャイアントは怒り狂い、炎の壁に向かってきた。


 炎の壁にシャドウジャイアントがぶつかり、明らかに炎の壁に変化が生れた。今まで、地の底から燃え上がっていたような炎が、巨人がかき分けると、まるで、布を割かれるかのように消えていってしまう。オリビアは、それを悟った瞬間に、炎の壁を消しさった。


「オリビア!」


「大丈夫。維持を切ったから…これはきついわね」


 不幸中の幸いか、これ以上のモンスターの出現はないようだった。しかし、それでも、残りは、かなりの数のコボルトとゴブリン、そして、ゴブリンシャーマン20体、フレイムデッドたくさん、そして、シャドウジャイアントが、10体といったところだ。


『これは、困ったわね』


 私は、内心に焦りを感じていた。シャドウジャイアントは、だんだんと近づいて来ていた。ロンディスは、小型モンスターを相手にうまく立ち回っているし、獣人は、巨人にすら臆せずに斬りかかり、1体を切り伏せつつあったが、お願いや命令を聞いてくれるようには見えない。


「バンディーラ様」


「だから、様はいらないわ」


 リスティルが、困ったような表情を浮かべている。リスティルの武器は、確かに。小回りは効くけれど、決定的な火力にかけていた。


「すいません…せめて、私に、元の装備があれば…」


「リスティル、気にしたらダメだよ。大丈夫。頑張っていこう。」


 近づいてきている、シャドウジャイアントに、再度オリビアが火球を放つ。しかし、今度は簡単に喰らうことはせずに、シャドウジャイアントは、その火球に対して、こん棒で防御をする。火球が吸い込まれていき、こん棒は爆砕したが、本体の方まで攻撃は届かなかったらしい。その笑みを、オリビアが憎らしい表情で見上げる。巨人族は知性が低いなどといわれているが、困難に対する対応力は、群を抜いている。


 炎の壁が消えて、ゴブリンシャーマンのターゲットは、ロンディスと獣人に移っていた。シャドウジャイアントを切り伏せつつつあった獣人は、風の魔法で転がさせられて、明らかに、不利な状況になりつつあった。ロンディスは、魔法の集中砲火を盾で受け続けている。


 リスティルの攻撃力は明らかに不足しているし、オリビアは次々に魔法を繰り出しているが、詠唱集中を伴わない魔法では、決定打に欠けていた。もう少しすると、シャドウジャイアントの手の届くところまで、接近を許してしまっている。




 このままでは、パーティの壊滅は必然なのは、誰の目に明らかだった。私は、少しため息にも似た息を吐く。あと、このままでは、街に被害が出ることになる。それは、いろいろな意味で避けなければならなかった。


「仕方ないな…こんなところで目立ちたくなかったんだけど」


 私は、旗を頭の上にかざし、勢いよく、振り下ろした。オリビアを視界にとらえていたシャドウジャイアントの喉に槍が生える。モンスターの動きが一度止まる。ロンディスと獣人が訝し気にこちらを見て、ロンディスは安堵を、獣人は、驚愕の表情を浮かべた。。

 私の周囲の天に地に、羽のついた完全武装の御使いたち顕れていた。その数、999体。というか、常に999体召喚される。私の唯一の攻撃魔法。空からの攻撃を行う弓兵と大地を蹂躙する騎兵と歩兵で構成された小さな軍勢だった。


 オリビアと、リスティルの目が驚きに見開かされる。確か、オリビアに見られるのは2回目だと思ったんだけど、こんなに、驚いてもらえて本当にうれしい。それはそうとして、事態は急を要するから、さっさと、働いてもらおう。


「騎兵隊、前線を切り開き、孤立しているメンバーを救出。弓兵隊は、ゴブリンシャーマン近辺の敵を排除して、詠唱を妨害。歩兵は…うん、適当に暴れて」


 我ながら、実にアバウトな命令だが、それに沿って、部隊が動き出す。騎兵の半数が突撃し、モンスターの群れを割る。そこに歩兵が入り込み、次々とモンスターを打ち取り始めた。弓隊は、合流しようとするモンスターに矢の雨を降らせ、ゴブリンシャーマンをその雨の中に逃げ惑わさせる。ロンディスと獣人が、御使いたちに連れられて、私たちのいる後方まで退却してくる。


 やがて、私の元に、全員が戻ってくることができた。私は、ほっとして、みんなを見まわした。

 そんな時だった、リスティルが、私に近づいてきた。


「バンディーラ様」


「何?」


 しまった、様はいらないって言えなかった。


「この軍隊は…一体」


 リスティルが、不思議そうに問いかけてくる。


「…バンディーラ親衛隊よ。」


 さすがに苦しいかなと思ったけど、リスティルは、目を輝かせて、今も、ダンジョン方向の掃討を行っている、御使いたちを見た。これは、隠し通すことができたかな?私は、安どで胸をなでおろした。


「これだけの軍隊を親衛隊として有しているなんて…さすが、バンディーラ様です!!」


 ふふ、そうでしょう。さあ、みんなも、私をほめていいのよ。そう思い、他のメンバーを見ると、オリビアは訝し気に、ロンディスは呆れ顔で、ただ、獣人だけは、目の間に指の腹をあてて、頭痛に耐えているような表情を見せていた。


「ねえ、バンディーラ、そろそろ説明してもらえないかしら?」


「その言い訳は、さすがに苦しいぞ。バンディーラ。」


「なあ、お前たちのところのこいつはいったい何なんだ?」


 3人から責められて、私は、少し困ってしまう。どこまで話していいものか…いろいろあるからな~…う~ん。すっかり困ってしまった私を、リスティルが心配そうに見ている。


「バンディーラ様が、」


「様はいらないわ~」


「困っていますから…皆助かったのでいいのではないですか?ほら、実際に、バンディーラ様がいなければ、危なかったわけですし…」」


 リスティルの提案に、私は大きく頷く。しかし、私の思惑の通りにはいかず、オリビアがある程度の不信感を持って聞いてきた。


「バンディーラ、あなたは何なの?なんでこれだけの力があって追放されてなんも言っていないの?そして、あなたは、何を考えているの?」


 いずれも、今の私に答えることができないことだ。だから、私はそれに対して、微笑みと沈黙をもって答えた。


「まあ、オリビア待ってほしい。バンディーラは、俺たちを一度助けているんだ。その時のことを話しをしたい。その時、お前は、傷と毒で意識がもうろうとしていたからな」


 その時、ロンディスが、私とオリビアの間に割って入った。その言葉には、オリビアも驚いているようだった。


「そういう話ならば、俺も一緒に聞いていいか?」


「え、バンディーラ様の逸話が聞けるんですか?ロンディスさん、ぜひ聞かせてください」


「ええと、勝手に人のことを暴露をしないで!!」


 このままでは、らちが明かなくなると思ったが、実際にそうだった。この後、皆の気が済むまでの間は、私の恥ずかしい半年間のことが赤裸々に語られた。


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