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第一六話 ロンディス視点

過去のロンディス視点になります。

 王都から西に向かった最初のダンジョン、山岳で、俺たちは、荷駄隊の囮を買って出ていた。それは、とても危険だとわかっていたが、まだ、旅団において確固たる地位のなかった俺たちには大きなチャンスになるはずだった。


「打ちあがれ!」


 オリビアの手から、魔力の塊が宙にあがり、小さな光がしばらくの間、その場を照らした。俺は、その様子を見ながら、耳を澄まし、感覚を研ぎ澄ます。


 すると、闇に紛れて、不快な叫び声と統制の取れていないてんでバラバラな足音が、少しずつ近づいてきているのを感じることができる。


 その正体が、魔力の光に照らされて、見えてくる、醜悪な山岳ゴブリンやオーク、すばしっこいコボルトがこちらに引き付けられているのが見えていた。細い道に、数珠つなぎになって、来ているのがわかる。他方に目を向けると、徐々に遠ざかっていくカンテラの明かりが見えた。早く本隊にたどり着いてくれと、祈りながら、ついで、隣のオリビアを見る。


「はぁ…はぁ…」


 オリビアの息は荒く、肩で息をしている。オリビアと言えば、宮廷魔術師団の末席に坐している、平民出身の魔術師だった。幼いころから、天才と言われ、宮廷内でも、その才を存分に発揮していたが、そこは、欲望と陰謀が渦巻く王宮と言う舞台。

 平民がうまく踊れるわけもなく、その才能を、いいように他の劣っている宮廷魔術師たちに使われ、すっかり、宮廷魔術師団の中で腐っていた。もし、今年、巡礼の神託がなければ彼女は、宮廷の中でそのまま腐り果てていたかもしれない。


「宮廷魔術師殿、どうした、もう限界か?」


「まだ、まだやれるわ。施しなんて受けない…私は、王宮の宮廷魔術師なのよ!!」


 俺が差し出した魔力香を振り払い、オリビアは、杖にすがりながらも、気丈に振舞っている。しかし、光に照らされた顔に、脂汗がにじんでいるのを見ると、さすがに、もう限界が見えてきつつあるのだろうか。俺は、不思議に思った。なぜこんな簡単な魔術を使うのにこれだけ疲労するのかということを。


「震えてるぞ、宮廷魔術師殿。ずいぶんと、底は浅いんだな」


「うるさい!!はぁ、はぁ…負けるわけになんかいかないんだ…負けるわけなんか」


 移動中も、オリビアは、手の中に魔力の塊を作っていく。それを見て、その原因が分かった。予定したのよりも大きく、そして、予定より高く上がる様に作っている。ただの光を上げているのとは訳が違う。


「お前は、何をしているんだ?」


 俺の問いに、オリビアは、皮肉気に笑った。ようやく気が付いたのかとでも言いたそうに。


「ようやくわかったの?光に、催眠を入れておいたの。こっちに荷駄隊がいるように錯覚させる魔法を…3つの魔法を同時に作成しているから、結構消耗が激しいのよ」


 オリビアの言葉に、俺はただ驚くだけだった。俺は、魔法のことはよくわからない。弓矢や火の砥石の代わりくらいにしか考えていなかった。オリビアは、俺に考えもつかないことをいろいろと考えていたのだろう。


「ならなお一層だ。使わないのか?」


「理解してもらえて、ありがとう。好意だけはいただいておくわ。ただ…ダメなのよ…いま、回復したら、イメージが消えてしまうわ」


 ふらつくオリビアに肩を貸し移動しながら、その話を聞いた。こういう維持を必要とする魔法の最大の弱点は、集中を続けないといけないということ。そのために、途中で回復を行うことは禁忌とされている。

 

「でも、私が、王国の盾に肩を借りることができる日が来るなんて…」


「あまりしゃべるな…維持が大変なのだろう」


 俺は後ろを振り返る。まだ、最初の光が中空にあった。それから、打ち上げること、10回。そのすべてを維持し続けている。これほどの魔法をずっと維持しているのは大変なのだろう。



 そこから3回打ち上げたとき、それが、オリビアの限界だったみたいだ。もはや立つことも難しそうに、倒れ伏し、呼吸することも難しそうに肩を震わせて、顎を上げ、声にならない叫びをあげる。否、おそらく、上げていたのだろう。


「援軍は…来ないか…」


 もし、援軍を出すのならば、すでに出しているはず。しかし、援軍がその近づいてくる気配もなかった。考えたくはなかった。いや、想像もしていなかったが、俺たちは、団長とアーレスに見放されたらしい。


 意を決して、俺は、そっと、オリビアに魔力香をかがせる。天上に輝いていた光が一つ、また一つと消えていく。オリビアは、その光が消えるたびに回復しているようだった。俺は、ほっと安どの息を漏らした。オリビアの回復を待って、本隊に帰還しようそう思っていた。その時だった。


 カーン!!


 俺の大楯が、飛んできた矢を弾いた。そこには、コボルトやゴブリン、オーク、そして奥にオーガが、まるで、俺が気が付くまで待っているように、下卑な笑みを浮かべていた。


「やはり、そう簡単には帰してくれないようだな」


 闘いの気配を感じて、俺は、愛用のブロードソードと大楯を手に持った。ようやく、気が付いたのかと、笑みを浮かべた、そいつらは、一気に、とびかかってきた。


 数が多い過ぎる!!


 そう思い、ブロードソードを振るい、間近にいたゴブリン数体を切り伏せる。突破しようとしたコボルトを、大楯を真横に振るい、近寄らせないようにし、懐と盾に仕込んだダガーを投げて、仕留めていく。だが、一向にまるで波のように押し寄せてくる物量に流されそうになる。やがて、盾に重い打撃が加わるようになる。どうやら、オークが近づいてきていたらしい。


 そんな時だった、頭上を、火の玉が飛んでいき、モンスターの群れの中で爆発を起こす。


「火球…まさか?」


 オリビアが、何とか、半身を立ち上げ、右手を前に差し伸べていた。


「長く寝るのには…なれていないの。これで、借り貸し無しね」


「もう少し寝ておけ」


 俺は、軽口を叩くと、斬りかかってきたオークの脇腹を切り裂いて、それを、モンスターたちに向けに蹴り飛ばす。

 あっという間にその肉塊にウルフが群がる。相手は大混乱に陥っている。

 悲鳴に似た叫びが上がる。


 よし勝てる、そう思った瞬間だった。


 

「くああああぁぁぁぁぁ!!」


 オリビアが苦痛の悲鳴を上げた。


 見ると、オリビアの右の腕に深々とダガーが刺さっている。俺は、そのとき、はじめて、圧倒的な不利に気が付いたと言える。

 暗闇の中、よく見ると、小人がその群れの中を走り回っている。数はせいぜい2~3体だが、こいつらは…


「…マジかよ。混成部隊っていうわけか」


 人型モンスターの中では最も凶悪といえる、ダークホビットだった。手には、とげが付いたダガーを持っている。人を『捕獲』することに長けた、最も凶悪な種族。

 そのことに気を取られすぎていたのだろうか、オークとは比べ物にならない、強烈な一撃が、俺に襲い掛かった。一撃で、オリビアの近くまで吹き飛ばされ、壁にたたきつけられる。


「ぐはっ」


 なんとか意識を保ってそちらを見ると、こん棒をきれいにスイングしたオーガがいた。俺は、盾を見ると、無残にへこんでいる。そして、盾を持つ手に力が入らなかった。どうやら、さっきの一撃で、どこかを折ったらしい。

 装備の重さで立つこともできない。俺はせめて、オリビアの前に立ち、盾としての役目を果たそうとした。


 オリビアもさっきのダガーに毒でも塗ってあったのか、虚ろに、俺を見ている。オーガが再度、こん棒を振りかぶったときだった。


「あ、見つけた!見つけたよ!!」

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