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忌むべき夜明け 13side

「というわけだ。ここまでが我々の包み隠さない情報だ」


 濃厚な2時間だった。ベリアールとジェームズは、流石に情報量が多く、状況の把握ができていないらしく首をひねったりしている。


「貴重な情報の提供ありがとうございました。」


 私が、静かに礼を述べると、講師を務めていたファラはもちろん、傍らに控えていた緋の方も少し驚いたような表情を浮かべた。


「今の話で理解できたのか?」


「ええ、大まかには。

 つまり人類(あなた方)の未来のためには、大きな問題を解消する必要がある。その問題解消するためには、ある大きな目標を達成する必要があった。

 ここまでの行動はそのためのものだった。

 

 ここまでは、理解できました。」


 一息を吐く。



「そして、目標達成のためには、リスティル様が必要ということ。


 だから、こんな行動を取った。。

 今の講義というか懺悔は、そう言うことよね」


 そこまでわかったのかと、声が聞こえた。

 わかった。ただ、


「だとしても、そのような危険なことを……何も知らないリルティルお嬢様に課した。

 そして。我らの敬愛する人まで手に掛けるなんて。


 そして、こんなことを、平然と考えている。

 いえ、もしかしたら良心の呵責くらいはあるかもしれませんが。

 聖王ファラ。それでも、あなたのやっていることは、正しくこれが唯一の道だとわかります。理解もできます。

 私が、もしあなたの側だったらあなたに最大限の敬意をはらうでしょう。

 

 でも、私は、人間です。


 人間の一人として、あなたを最大限に軽蔑します」


 口から出たのは、強く。辛辣な一言だった。確かに、聖王ファラ(この人)が考えていることは、合理的。そして、とても効果的なこと。

 でも、そのために、ベルグランデ様を。そして、リスティル様がまるで玩具のようにされるなどどのような言葉を重ねても許されるようなことではない。

 少なくとも、私たちには。


 その重く低い口調に、水を差すように緋の方が、落ち着いた声を上げた。


「そう、責めてくれるな。ファラ(これ)は、それでもできることは全てやっている。故にだ。(わらわ)も、その意気……熱意を買ったということ。

 また、既に、他種族にも伝達を行っておる。友好的な種族の間では、そのプランで行くことに合意済みだ。

 ただ……」


 緋の方の声が曇った。ファラが少し困ったような表情を浮かべている。


「ただ?なんだい?このままでは、大変なことになるぞ。

 って、そんなことじゃなくなったんだろう?


 皆が問題解決に向けて動いている。それで十分だ。


 あんたたちは俺たちの参謀が礼を述べるほどの効果を既にこの戦場全体に及ぼしている。

 となれば、これは単純な話だ。三流小説で何の脈絡もなく、悪魔が出てくるのが好きか。それとも、何の脈絡もなく、曲がり角で、あ、クマだって言って襲われるのが好きか?

 その程度のことじゃないか?


 だとすれば、俺は問題ないと思うんだが。


 

 足りないのは、お互いの理解ではなく、単なる戦法への理解度に過ぎないって思う。


 何か間違えているか?マリー」


 ベリアールが、気楽そうな声で緋の方と私を問い直した。

 いつもそうだ。この人は、呆れるほどに楽観的で直情。

 それでも、まるで極めているような、その楽観性は伝播する。たった一言が、緊張をとき。そして、たった一言が、場を和ませてしまう。


「ああ、そうだな。確かにその通り。ファラの持ってきたこのプラン。それは、きっと多くを救うことになる。ただ、先だっての事件。問題は、思うより多く深くに存在している……」


 そこまで、緋の方が言った時だった。不意にドアが開き、制服に身を包んだ人間が3人はいってきた。手には、見たこともない機械を持っている。

 それを見た緋の方が、待ち焦がれたようにふうっと息を吐いた。


「全く。少し遅いぞ。持て余して仕方ないとさっきから愚痴を聞きっぱなしで、頭が疲れていたところだ。もう少し遅れていたら、ストレスでこの面を外そうとしたかもしれん」」


「それは失礼しました総司令(皇后代行閣下)。ただ、私としては、久しぶりに御尊顔を拝見したいと個人的には思っておりますので。

 ご要望とあれば、今度はもう少し遅れて来ますね」


 それを聞いたときに、その仮面の奥の顔が、一瞬苦々しい表情のまま、くしゃッとなったように感じた。なんとなく気が付いてしまう。

 ああ、この人ってそうなんだって。


「何だい?そりゃ」


 ベリアールが渡された金属のサークレットのような物を手の中で弄んでいる。ベリアールも、警戒しているのだろうか、それとも物珍しいのだろうか、手の中でくるくると弄んでいるようにも、観察しているようにも見える。


「これは、翻訳機みたいなものだ。皆もつけるとよい。私もつけているいるのだから」


「人間の汚点の、あなたが着けているからって言って、うちの部隊員が無警戒に装備するわけ……」



 そういって、皆の方を向くと既にジェームズは装着済み。そして、先程まで手の中で弄んでいたベリアールも、既にそのサークレットを頭にのせているところだった。


「……問題なく、着けるみたいだな。全員」


 その時の私の気持ちを一言で言うと、いろいろな意味で、はずかしいという言葉すら出てこないほどに恥ずかしかった。

 信じていた仲間が、目の前で、あっという間に懐柔されたときの気持ちと言ったものだろうか。


「言っておくけど、あなたたちのことを信用したわけじゃないんだからね」


 負け惜しみだとわかっているとでも言いそうな顔は、只々に、実に憎らしい。人によっては、愛嬌すら感じるその笑みを受けながら、受け取った機械を頭に装着する。

 特に何も聞こえない。翻訳機と言ったが、何の翻訳機なのかは不明。

 静かすぎて不気味な気持ちになる。


「というわけで、長くなったが、自己紹介を願おうか」


 そう緋の方が告げる。その瞬間だった。



「は~い。人間の皆さん!全力で、あなたの味方!光の妖魔です!」


 とても暑苦しく、胡散臭くて、ハイテンションな声が、脳に響き渡った。


「ええと、光の妖魔?」


「あ、認識してくれましたね。

 あなたはこれから友達です」


 私の声に、ハイテンションのまま返答した。それに、はぁっ、と生返事をする。それを見た緋の方が、一瞬頭を抱えたように見えた。


「おぬしは本当に見境がないな。初対面の人間に約状の締結を求めるとは。それほどまでに恨みが深いことは(わらわ)が、十二分に理解はしている。

 ただ、ここは、そういう場所ではないとわかっているはずであろう。

 そんなことばかりしているから、闇属性に住まう妖魔の方がよっぽど分別がある。と、人類からも言われる羽目になるのだぞ」


「うわ、緋の方がノイローゼ起こした!」


「それを言うならヒステリーであろう。

 ふぅ。

 最初に言っておく。こいつの戯言には耳を貸さない方がいい。そして、こいつらと迂闊な約束を交わさないようにすることだ」

 

 緋の方が、少し考えるように足を組み替えた。


「あ、緋―ちゃん狡い。ネタバレ狡い。」


「緋ーちゃん……」


 ベリアールが、呆れたような声を上げた。


「それで、迂闊な約束というものを交わすと、どうなるのだ?」


 ジェームズが、その先を促すようにそれとなく聞いた。


「何もしないよ!ワタシ、沢山、人間の味方ネ。安全沢山。安心沢山。倖せ沢山」


 ハイテンションので、胡散臭い言葉を次々と繰り出すそれに、辟易としていた。そんな時だった。



「今晩の訓練。準備完了。人間か。先程は失礼」


 もう一つの異形が、部屋の中に姿を現した。小さな不定形の物体がゆっくりと床を這いながら進んでいる。


「お疲れ様です。128(7位)様。ご協力感謝します」


「精霊騎士の頼み。気にするな人間。」


 今ままで、ハイテンションで次々にいかがわしい言葉を出していた妖魔。ただ、その言葉が聞こえた瞬間に、何かにおびえたよう言葉を切った。


「え?あの騎士が、本当に人類の訓練に手を貸すんですか?

 妖魔界隈では、引退したって噂が立っていたのに。今更人類にかまうなんて、変態っていうか、物好きですよね」


「お前の妄言。聞き飽きている。少しは黙れ。詐欺師または変態」


「詐欺師はいいとして……変態?う、うるさいです!地を這うしか能のないくせに。お前のような奴は、光にでもなってしまえばいいのです」


 その言葉の後、その光と小さな物体の間には、何か激しいやり取りがあるようにお互いを威圧しているようだった。威圧しあうかのように、にらみ合って(?)いる。部屋に久しぶりの静寂が訪れていた。


「ふぅ。ようやく翻訳機では聞こえない、お互いの言語を使用して直接の話に移ってくれたな。

 まあ、こやつとの対話で、何か有用な情報を提供してくれるという期待はしていなかったが。

 あ、そのサークレットは左側の青い水晶を押せば外せる。あまり乱雑に扱うな。


 すまないが、一応軍の備品なのだ。


 壊さないようにしてくれるとありがたい」


 ふぅ。これは、緋の方でなくても大変だと感じる。


「皇后代行は、このような愚痴の言い合いに毎日付き合っています。大変な役割なんですよ。ねえ、総司令」


「暇とでも言いたいのか?いやに、言葉に棘が入っているように感じるが。……もしかして時間か?」


 はいっと笑みを浮かべる。おそらく部下に、ふぅっと、緋の方は頭を抱えた。が、それもわずかな間のこと。すぐに持ち直す。そして、人間には聞こえない言葉で言い争っているのであろう、その不定形の存在を見た。


「さて、時間がないから教えておこう。たった一言だ。

 我らの救い主にして現代の人類の後見人。それが、鋼魔族。完全物質世界の住民だ。

 物質、属性、法則、律。人類の上位存在にあたる種族。その住民たちが……」


 緋の方が一瞬言葉をためた。


「人類の全てを握っている。この地ではな。


 その状況は、過去よりもはるかに複雑。

 少しは理解いただけたか?異界の人間たちよ」

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