忌むべき夜明け 12side
扉を開けると、そこは緋色の部屋だった。
緋色の部屋の緋色の天井から吊るされている緋色のシャンデリアの下にある緋色のテーブルには緋色の椅子があり、そこには緋色の仮面をつけた女性と思わしき人物とその護衛であろう兵士の姿があった。
「ふふ、こちらの考え通りといったところか。ほれ、妾が言ったことは正しかったであろう」
その体から到底発することができるとは信じられない程に艶やか声。護衛の兵士は、少し残念そうな表情を見せたような気がした。
「全く。さて、そこの……ベリアール、ジェームズ、マリーであったか。遠慮はいらん。入ってきて来たらどうだ?入口で間抜け面を下げ、突っ立ていても、何も始まることはあるまい。ああ、それとも、もうここに飽きたというのか?ならば仕方ないか」」
前言撤回だ。その声の主は、とんだ毒舌をしているらしい。ただ、名前を呼ばれるとは思っていなかった。
確かにその通りだ。ここまで上がってきたのは確かに俺たちの意志だ。だが、ファラの手の上で踊っていると思う。ああ、ダメだな。2人に顔を向ける。
頷く。
そのままに、中に入りゆっくりと席についた。
その間もそいつは、特に動くことなく、細い指を遊ばせながら、ゆっくりと待っているようだった。
そう、まるで、時間はたっぷりあるとでも言いたげに。
全員が席に着いた瞬間だった。まるで、その時を待ちわびていたように、扉は、ひとりでにしまった。
「さて、自己紹介としゃれこもうか」
それを確認したのだろう。その緋色の仮面の女が、そう言いながら、ほんのわずかな間、、護衛の兵士と視線を交わのを見た。
その兵士は、何かを察したように部屋から出ていく。そして、部屋には、俺たち3人と怪しげな緋色の仮面の女だけが残った。
「さて、自己紹介と言ったが、あいにく、この身は、名乗る名など持たない。故に、私のことは、皆に呼ばれるように緋の方とでも呼ぶといい。この世界に忌み穢く残っている最後の人間だ」
その声色に、既視感を感じながら、皆に眼で合図する。4。眼を閉じて、開く。俺は右片目、マリーは両目。そして、ジェームズは左の片目だった。
「じゃあ、俺から、自己紹介をさせてもらう」
「変な間があったが、何かしていたのか?」
「俺の名は、ベリアール・メリル」
「ほう、良き名ではないか」
その緋の方の言葉に、マリーとジェームズが笑い声をあげて笑った。
「ベリアール・メリル。こいつが、そう言った時の反応は、2つ。下の名前は、まるで女みたいだというやつと、とりあえず、無難にいい名前だっていうやつ」
「そうそう。女みたいだって言った時には、家名だっていうことにしているけどな。くっくく」
話が見えないというように、緋の方が首を傾げた。
「まあ、先に教えておくよ。こいつの名前、本名は、エケミー・メリル。で、ベリアールは、コードネームだ」
「って、ジェームズ。お前。ネタ晴らししやがって」
それを聞いて、緋の方は、虚を突かれたようだった。ただ、その少しのちにゾッとするような笑みを浮かべた。
「コードネームに本名を選択するとは、全く持って恐るべき豪胆というべきか。それとも、何も考えていない諦愚とでもいうべきか」
この催しは、その緋の方とやらにも、充分な楽しみになったらしい。一瞬腰を浮かせた緋の方は、楽しそうに椅子に浅く座り、足をテーブルに投げ出さした。
すこし、驚きを持って見た。
「何を驚いておる。……これが、彼奴らの言う永生の喜びというもの。そうだとしたら、妾はずいぶんと間違いを犯してきていたのだな……」
大きく息を吐くと、その中に諦めと無常が込められている。……突き崩した。ほっと内心で息を吐く。
「……妾の事。そして、この部屋のことを気にしておったか?」
読心れたかとバカげた演技を止めた。皆も同じらしい。真剣な表情。ベリアールにすべてを託している。
「ああ、そうだな。……人間の代表と言ったなあんたは。……ならばなぜ」
「ああ、そう。たしかに、私は、人間の代表。そう。それは正しい。
視線を感じた?そして、それを見たのでしょう」
その言葉にの後、緋の方は、天を仰ぎ、そして、ゆっくりと首を垂れた。それは、隷従にも見えた。ただ、緋の方に、その意思はないらしい。
それは、ゆっくりと顕れた。天井から滴る光の輝きが、テーブルの上で、一つにまとまっていく。
それが、もたらしたのは、圧力だった。光が、手が届かないテーブルの中央で舞っている。ただそれだけ。それだけで、気圧されそうになる。それだけで、対人魔法の≪威圧≫を何の備えもなく受けたとき。それほどの圧力を感じる。
ただ、それと同時に、何故か、安心感を感じる。
光は、まとまらず。ゆらゆらとした様子で、中空に浮いている。
「高位妖魔族。光の属性に住まう住民だ。私の助言役と監視役を負ってもらってる」
緋の方が、それに視線を向けると、それは、その通りとでも言いそうにゆらゆらと揺れた。光がすべて消えたこの部屋でその光はゆらゆらと揺れていた。
「そして、入ってきてくれ」
入ってきたのは、見知った人だった。
「ああ、そう言うことか……」
それを見たときに全てを悟ったように、ベリアールはつぶやいた。それを確認して、そいつは、忌々しいが、馴れ馴れしい懐かしい声色が、耳朶を打ち、そして、口を開いた。
「ベリアール、」
「ねえ、で、私の自己紹介の時間はまだなの?」
「ああ、そうだな。俺もずいぶんと待っているんだが、まだ呼ばれねぇ。まさか、新しく入ってきた奴から自己紹介するのか?」
それの続きの話を聞く必要はないとでもいうように、作戦尉官と兵長が同時に口を開く。俺は、その声を背に受けて、そうだなとでも言いそうに肩をすくめた。
「まあ、そう言うわけだ。お前さんが、誰かは充分に知っているつもりだ。ただ、な。如何に聖王と言えど、部下の進言を無下にするわけにはいかないからな。
まだ、生きていたいしな。知っているか、マリーはな」
知ってるとでも言いそうに、聖王は、確かに笑みを浮かべた。
「ああ、よく知っている。ベルグランデの廃棄物清掃班。その、親愛なる部隊員。君たちが戦時の彼女のことをよく知っているように、戦後の彼女のことを私は、よく知っている」
その言葉に偽りはないのだろう。それは、すっと仮面を取る。勝てる気なんて最初からないが、痛み分けくらいでよかっただろう。
「……最初からそう言え。
回りくどくって、まどろっこしいんだよお前は
全く」
俺の忌憚ない意見をそいつに届いていたのだろうか。
「ああ、最初から、そう言っておけばよかった。第三十代聖王 ファラ・ウォーリッシュだ。
ベルグランデから、君たちのことはよく聞いている」
光の属性の住民
なんで、セリフないの?
答え
あなたは彼らに意思を伝えるための発声器官がありません。もう少しお待ちを。




