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忌むべき夜明け 5

 わたしたちの旅路。それは順調とは程遠い場所を常に進み続けて来ていた。

 それでも。

 進むしかなかった。



「……ねえ、」


 大きく息を吐く。聞こえてくるような気がする。敵の息遣いが。微かな敵の感触を今のわたしは掴むことができている。これはとても大きな進歩。


「なんで、なんで、そんなところにいるの?」


 当たると思った、(破局的。破滅的な力)



「顕れろ」


 その顔からは考えることのできない、女性のような声。それが、回廊に響く。


「そして、果たせ」


 強力無比、そして、よけるならまだしも、受け止めるなんて考えることがいかに愚かな事かと知るような攻撃。



 ずももぉ!!


 だが、それは顕れた。それは、立ち上がり、そして、受け止めた。


 圧倒的な魔力の槍。いや、砲弾……ではない。それは、破城槌だった。


「マリベル?」


 マリベルの額にイヤな汗が流れている。


「状況把握を回避するために四属を忌避して、事象に沿う精霊の御業を真似たか。

 そして、わたしにそれを向ける。


 実に、至極光栄。

 そして、お前の気高き遺志。それを……妖魔の長に連なるもの。として認めよう。


 

 お前のあがきは無駄ではない。


 そう。故に残念だ。


 お前は間違えた




 そう、間違えたのだ。」



 それは、一瞬だった。ロアもわたしも動くこともままならない。その状況で起こった。


 一瞬で、マリベルの放った魔法は無力化され、そして、目で追うことをままならない、その視線の先に、相手の顔の高さまで釣り上げられたマリベルがいた。

 必死になって、その束縛から逃れようと、もがいている。そのもがきもまるで解さないように、それは立っている。


 喉が鳴った。ロアに、視線を送ると、微かに頷いた。


「おや。おやおやおや……鋼鉄と妖精の仔。何を怒っているの。……少しは、大人になりなよ。

 それとも、人間のようになりたいの?

 

 わかっているでしょう。

 我らに……抗っても、抗っても、功なしということ。

 そのことは、十分に知っているのだろう。

 だから逃げた。


 それを知っているのならば、わかるはずだ。


 わかってほしい。あなたたちは敵足りえない。

 ましてや、あなたと私。戦いになるはずもない。



 だが、鋼鉄。お前に躾は必要だ。

 これは、私の私怨で行うものではない。


 お前を思い、行うことだ。

 我はただ成す。それだけの事。



 まずは、お座り  だ」


 それすら、よまれている。ロアほどの戦士が、何も声を出すこともできないままに、一瞬、観えざる長い手によって宙に持ち上げられると、そのまま、地に叩き伏せられる。ほんのわずかではあるが、その衝撃波。銃口を向けながらも目を閉じたい衝撃に曝される。



「マリベル!ロア!!……二人を離しなさい


 離してください。」


 ほんのわずかなブラックアウトの先。それは、信じられない光景だった。あれほどまでに、強かった。わたしなんて、その足元にも及ばないと感じていた2人が組み伏せられている。


「ああ、気にしなくていい。安心しても……いい。


 2人とも絶対に死にはしないから。そして、殺しはしないから。



 ああ、そうか、そちらの人類の世界では、これの光景を拷問とか、尋問というのだったな。


 では、我もそうしよう。



 人間に仇なすものとして、そうなりばせ(成りばせ)と。」


 そう言うと、それは、手に持っていたマリベルを近くのスライムに投げつけた。スライムは、一瞬、不可思議な挙動を取ったものの、マリベルを取り込む。


「ぐ、くぁぁぁぁ」


 マリベルの悲鳴が響いた。それは、苦痛による悲鳴。スライムは、マリベルに何らかの圧力をかけている。スライムは、スクロールやロッドをマリベルの体から探し出すと、分解をし始める。


「マリベル!」


 制式拳銃を向ける。


 でも、狙いが定まらない。

 相手が人型じゃない。何処を狙えばそれは止まる?


 頭?胴体?足?何処?

 どこにあるのかもわからない。銃士隊では教えてももらえなかったそれ。そして、そんなものと闘ったことなんてない。標準が定まらない。

 ぶれる。

 ぶれる。


 簡単なことなのかもしれない。でも、撃つことはできない。

 どうすれば、この状態のマリベルを救えるなんて、誰にも教えてもらってない。


「ぐうっ」


 対してロアの悲鳴は少ない。でも、それは、損傷が少ないからなんて事はない。ロアの胸の裏を押えている足には、きっと、抗うよりも強い力。それが、秘められている。



「どうしたのだ?聖贄よ。決められないのか?」



 決められるわけなんてない。


 決めたいなんて決意してなかった。こんなことになるなんて、思っていなかった。



 お母様ならどうしたのだろうか、そして、お姉さまなら……。



 そこまで考えて、両の手を降ろした。

 いや違う。自分の情けなさと、無力さに押しつぶされるように手が自然と降りた。


「どうした?もう終わりか?」


「……お父様は、わたしが怪我をした時。ずっと、看てくれていました。

   お父様は、お姉さまがいなくなったときに、わたしに包み隠さず教えてくれました。

   お父様は、お姉さまが返ってきたときに、喜んでくれました……

   

   お父様は、わたしとお姉さま二人のことを考えてくれていると思っていました。


   お父様……」



 その瞬間にマリベルの口が動いた気がした。

 ダメだと。それ以上聞いてはダメだ。そう伝えている。


 聴くつもりなんてない。そう、そうだからこそ、聞かないといけない。



「リスティル・フォビア・フォーディンが問う。


 わが父、ロッカス・フォーディン・ノルディック。



 お父様。


 貴方は何を考えているのですか?


 これが、貴族の責務によるものとは思うことはできません。」



 背伸びをした子どもの精一杯の問い。ほうっと、言う顔をする。ロッカス・フォーディン・ノルディック。

 私の大事な。お父様。


 ほんのわずか、感心したようなその顔に見惚れ。そして、それを忘れる様にぐっとその顔を見据える。

 涙が零れるのは何とか抑えた。きっと、彼の目には一人の女性として、一人前の家族として問いかけている。そう見えているに違いない。否。そうであってほしい。



「魂の活闘を感じるな。そうか、これは、お前が。そうか。……そうか。実に興味深い」


 その声が、少し、ただ、僅かに視線を外し天を呷り見た。ただ、視線先には、ほんのわずかな葛藤を感じているように感じる。


「リスティル・フォビア・フォーディン……大慈により、お前を追放する。穢れた楽園から、呪われた人間の宿願から、お前を追放する。

 運命に翻弄されず、ただ、そばにいることを受け入れた人間と人類と共に、人間としての生を全うせよ」


 不意にかけられた言葉に、混乱が治まらない。2人に視線を交わす。答えは返ってきそうにない。口がからからになる。意味が分からない。それでも、何らかの答を返すべきだと思う。


「一体……何のことか……分かり得ません……わ」

「祝福よ。私にはそんな力はない。でも、あなたたちがそうであるように、願うだけならば勝手でしょう。だから、そう願う。私から。そう、精一杯の……」


 なんとか、その言葉を絞り出し、微かな声が聞こえた時だった。




 マズルフラッシュと怒号が、私の思考を切り裂いた。

 

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