第一五話
第一波は、小型のモンスターたちだった。ゴブリン、コボルトと言った小回りが利くモンスター、その中にはジャイアントバットやジャイアントスパイダーといった対策が異なるモンスターも入っている。とはいっても、私は、みんなを信用しているから、きっと大丈夫。
「うおぉぉぉ!!」
ロンディスは、あっという間に、付近にいたゴブリンやコボルトを切り伏せて、ジャイアントスパイダーの吐きかけた糸は、盾をうまく使い、誘導し、ただの輪切りに変えていく。
「リスティル、3日間見てきたから、大丈夫だと思うが、無理はするなよ」
ロンディスからの激励に、リスティルは、ジャイアントバットの群れに乱射を叩き込み、それをたやすく、ぼろ雑巾のようにしながら珍しく凛々しい面持ちで答えた。
「うん。大丈夫。私の弾丸は、バンディーラ様特製だから、今なら何にも負ける気はしない!!」
「二人とも、頼もしいわね。こっちも、詠唱完了。立ち上がれ『炎の壁』」
二人の奮戦が功を奏して、オリビアが、詠唱を完成させた。分厚い炎の壁が、私たちと、ダンジョンのモンスターの前に立ち上がる。何体かのモンスターが巻き添えを食らい、炎の中に消える。ロンディスと、リスティルは、壁の中に入り込んだモンスターを迎撃していく。私は、オリビアの様子を伺う。やはり広範囲に及ぶ魔法を使用するのは、大変そうだ。
「オリビア、頑張って!!」
オリビアの顔色が一気によくなる。オリビアは、驚いたように、私を見つめて、微笑んだ。
「バンディーラ、いつもありがとう。もう少し頑張ってみる」
オリビアは、印を組みなおし、再度力を込める。炎の壁はさらに厚さと高さを増し、ダンジョンへ、モンスターを押し返し始めた。それでも、戦況は5分5分といったところだろうか。もし何かがあったら、様相は変わるそう思った時だった。
そんな時、ダンジョンから、厄介なモンスターが姿を現した。
「ゴブリンシャーマン…それに、フレイムデッドか」
ロンディスの焦った声に、視線を向けると、炎の壁の先に、大柄で奇抜な衣装を身に纏ったゴブリンが10体ほど現れる。そして、その奥から、炎に包まれたゾンビが現れる。それを見た、オリビアは明らかに渋い顔をする。フレイムデッドは、炎で死んだ死体が動き出してきたもので、炎を完全に無効化してしまう。現に、炎の壁に接触し始めているものがいた。
ゴブリンシャーマンは、炎の壁に気が付くとすぐに炎の精霊を召喚し始めた。あっという間に、炎の精霊が並ぶ。それが、炎の壁に接触すると、その部分の炎が明らかに弱くなるのがわかる。炎の壁が炎の精霊に食われている。今のところオリビアが、何とか持たせているが、効果が失われるのも、時間の問題かもしれない。リスティルの弾丸が、炎の精霊を打つが、効果はいまいちのようだ。
それを見た、リスティルは、狙いをフレイムデッドの方に狙いなおし、その弾丸を乱れ打っていく。確かに炎の精霊よりは効果があるようだが、それでも、倒すのに6発以上叩き込まないといけないのが、かなり負担のようだ。
「リスティル、押しているから!!いけるよ!!」
リスティルが、頷き、さらに弾丸を畳み込んでいく。その時だった。
「まずい、一角が破れた」
ロンディスが、叫ぶ。フレイムデッドの対処に手間取ったのが痛かった。炎の精霊に炎の壁が食われ、そこから、ゴブリンやコボルトが、こちらに向かい走ってきていた。明らかにオリビアを狙っているのがわかる。オリビアは、炎の壁を解除するべきか、どうするか決め切れていないようだった。むう、ここは、私が一肌脱ぐしかないみたいと、思った瞬間だった。
素早く、オリビアにとびかかった、コボルトが、大鉈に阻まれ、二つに別れる。
「さっきはすまなかった。せめて、助力させてもらう」
獣人が、すっきりしたように、立っていた。私は、ホッとして、問いかける。
「じゃあ、パーティに入ってくれる?一緒に行きましょう」
「ああ、分かった」
獣人の大鉈が、ゴブリンを二つにする。少し獣人が不思議そうな表情を浮かべた。
「驚いた、これが、貴女の力か。ならば、躊躇せずに全力を振るわせてもらうぞ!!」
獣人が、明らかな狂戦士状態になり、前線に突っ込んでいく。その強力には生半可な防御は意味もなく、大鉈の質量からくる攻撃は、十分に精霊にも有効そうだった。
「『大火球』『光雷球』『魔力槍』」
戦況が、有利に傾いたと判断した、オリビアは、炎の壁の維持から、攻撃に切り替えたらしく、魔法で、遠距離からの攻撃に切り替えたようだった。私は、応援を続けながら、少しだけ気になっていた。それは、まだ地面の中からの振動が止まっていないこと、そして、その振動が、だんだんと大きくなってきていることに。
やがてそれが、姿を現した。
「嘘だろ…」
「なんで、こんなのが、表層にいるのよ」
そこには、大型のモンスター、シャドウジャイアントの群れが現れていた。