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リディア視点 夜明けの前

 青い月から放たれる光が、部屋の中へと注ぎ込まれている。


 リスティルたちとの再会から、ここ数週間。正直何を話したのか、何をしたのかも思い出せないまま、ベルグランデを救うためと戦場に出て、負傷した。


 それは、まるで思考のすべてに薄雲がかかったよう不鮮明な情報だった。


 ただ、最後に見た光景はよく覚えている。……あの出陣の朝、まだ薄暗い廊下で、見えないはずのリスティルの赤い瞳の中に、わたしの姿を見た。それはとても滑稽で、ただただ、惨めだった。



 そして、最後に聞いた言葉も。


「今日は、ついてきてもらいます。でも、これで終わり。おやすみなさい」


「あなたは、誰なのですか?」


「私は、3代目聖王遺物『聖鏡』。人間が、見えざるものに、恐怖と脅威を思い出さいように、ただ自らの行為のみを怖れるようにと願いが込められたものです


 ベルグランデは、我らの同胞にして戦友です。



 見殺しになどしないように助けに来ました。安心してください」



 

 神託にあたるという言葉がある。


 真神国においては、神託は神の言葉として、重要かもしれないが、ノルディック侯国においては、極限状態にある人間が見る都合の良い幻覚。それに伴う高揚感、万能感のことを言っている。

 断っておくが、ノルディック侯国に宗教がないわけではない。しかし、上級国民はすべからく、合理性や現実性を重視している。そのため、決して表立っては言わないが、神秘主義は唾棄すべきものとして扱っていた。

 それは、内部から人を腐らせる、遅延毒のように、ただ、不思議な中毒性を持っている。都合の良い妄想、そして、選民的な指向から生じる恍惚感。まさに侮蔑に値する唾棄すべき現象。それが、神託にあたるということだった。



 その考えは、幼少期からずっと高等教育されてきた私も同じだ。合理性、現実性に勝るものはない。そう考えていた。



 しかし、その言葉、それは、まるで当たり前のように、私の中に侵入ってきた。そして、私は、



 その言葉に、あり得ないほどの安堵感と、恍惚感そして、初対面の相手に言いようのない信用、そのあいてから、無条件に肯定されたと感じた。そう、つまりは……そう、私は、安心(中って)してしまった。




 この人になら任せてもいいと、この人は、ベルグランデを救いに来たのだと……この人が来たからには、ベルグランデは救われるのだと。


 助けられたそう思い、自由にすることを許し、自らの意識を手放した。もう、大丈夫だから、これからは、頼ろうそう思った瞬間であった。



 まるで、その行為を戒めるように、陽に取り除かれつつある、青い星の光が、一際の輝きを持って、私の瞼に注ぎ込まれた。それは、思考にかかっていた薄雲を取り払うかのように、部屋を照らした。サイドテーブルには、山と積まれた資料。そこに、資料が積まれていることすら、ついさっきまで、気が付くこともなかった。


「何かしら、これ?」


 おそらく、わたしは、大事に思って、前線にまで持ってきたのだろう。見上げるのに、痛みすら見えるその資料。私はそのうちの一枚を手に取った。


『リスティル・フィリア・フォーディンの罪状について』


 リスティルの罪状を調べた資料のようだ。ゆっくりと目を通していくが、特に目新しい内容はなかった。この資料の最後には、リスティルは、裁判開始まで、首都の屋敷に軟禁されていると書かれていた。


 ふっと、私は呆れたような笑みを浮かべた。リスティルは、私達と共に行動している。そんなはずはない。そう思い、私は再び、資料を元の位置に戻そうとした。おそらく、もう目を通した資料であったから、片付けないでいたのだろう。


 さっき書類を上げた衝撃で、下にあったらしいメモが床に落ちた。


 拾い上げ、目を通し、困惑した。



『聖王 ファラの権限において ジェームズ、マリー、ベリアール並びにリスティルに、巡礼の栄誉を与える』


 散々手を尽くして探しても、まるで、神隠しにでもあったかのように出てくることがなかった3人の名前が、そこにはしっかりと書かれていた。



「巡礼?巡礼って?何かしら?」



 巡礼……通常は、聖地に自らの足で赴く事だ。そして、聖域と言われる場所、それは、……。



「西に向かうっていうことかしら?」


 西の無限荒野の先に、聖域があるということは、子供でもよく知っている。でも、人間がたどり着けないようなその場所に、何があるというのだろうか?一説には、魔族という人間によく似た他種族が住んでいるとも言われているが、そんな場所が、聖域になるのだろうか?


「まさか、リスティルたちは、そんな場所から帰ってきたというの?でも、一体どうやって?……遠距離を移動する魔術なんて存在しないはずなのに……ダメね。これ以上考えても埒が明かないみたいだわ」



 私はそう思い、思考を切り上げると、資料を元あったように、戻す。再び目覚めの刻に、目を通そうと決めた。




『ベルグランデ・フィリア・フォーディンの罪状について』


 その資料が、一番上に来るように直すと不意に眠気が襲ってきた。傷を負ってから、時間の経過があいまいだ。でも、体は、急速を求めている。


 リスティルたちは無事だろうか。祈る以上のことができない私には、もう、それ以上の何かができるとは思えない。そして、目を覚ました時に、何をするべきなのだろうか?それを考えているうちに、睡魔はあちらからやってきた。

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