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夜明け前の 闇の中で #5

「……最高だな銃撃戦ってやつは」


 俺はそう呟きながら、上半身を起こす。隣には、頭を打ち抜かれて信じられないというような表情を浮かべている女性が倒れている。


「全く、酷いことをする」


 俺は、驚きで開かれた眼をそっと閉ざした。そのまま、近くに転がっていたライフルを手に取ると、通信機に耳を当てた。


 どうやら、目標は移動中らしい。


『我らは、人類軍。統一王様の元にある正しき人間。リスティル・■■■■■!統一王様からの命である。何も聞かず、おとなしく、こちらに投降しろ。貴様の捕縛に生死は問われていない』


 間髪なく繰り返される文言にある種の満足感を覚える。


「しかし、本当に採用されるとは思っていなかった。が、まあ、かの奴も聴きっとっていないのならば問題ないだろう」






「は?目標はこれですか?」


 会議で提示されたのは、紅い髪にトルマリンのような濁った青い瞳孔を持つ、年齢にして15才くらいに見える少女が映り込んだ写真だった。隣には、その姉だろうか、同じような風貌の女性が映り込んでいる。


「そうだ。名前は、リスティル・■■■■■という。……今作戦の目標だ」


 もう一度俺は、写真に眼を落した。これが、そんなに重要なものにはとてもではないが、見えない。


「その隣にいるのが、狩人……ベルグランデだ」


「明けの明星、動く領域と異名を取る……人狩人マンハンターのベルグランデでありますか?これが?」


 出会うことは死を意味すると謳われるほどの人類の敵対者。最近は、目撃が減っているという話だったが、その姿を明確に捕らえていることに、ただただ驚く。


「……現地協力者が、ベルグランデを封じることに協力してくれた。この10年間は、ベルグランデはほぼほぼ無力だ。だからこそ、リスティルの確保を急がなければならない」


リスティル(この娘)が、そんなに重要とは思えませんが?」


 俺のその一言に、今まで沈黙を保ってきた緋の方が意見をはさんだ。


「リスティルを捕らえること、それは。我々の最終目標の……帰還の為にもっとも重要なことだ。そして、あの御方が、いまいましい忌避旗(バンディーラ)の支配を退けるためにな。


 本題に入るが、ダイゴ候補生。楽芸隊が、このリスティルを発見したときの通信文を作成しているが、どうも、なにかが足りない。恐縮だが、今回の試験で最良の成績だった君からアイディアをいただきたい」


 ああ、なるほど、そう言うことねと、納得した。その言葉を頭に入れ、俺は、再び眼を写真に落した。この少女は、人間の少女は、あそこいる人間と同じく獣付きのような存在なのだろうか?きっとそうなのだろう。


「対象を見つけた際には、全軍を鼓舞するように、共通の言語を使用して、通信するべきではないかと思います。ただ、今回は強い言葉を使った方が良いかと思います」


「ほう、どんな感じで?」


「もし聞こえているのならば、『我々は人類軍。リスティル・■■■■■。統一王様の命により貴様を捕らえる。おとなしく投降しろ。貴様の捕縛に生死は問われていない』と言うのはいかがでしょう?これならば、劣勢にある人類軍の士気高揚に一役買ってくれると思います」


 聴こえているはずもないが、万が一聞こえていた場合も、相手に対する威圧効果という意味では最良の結果を出してくれるに違いない。




「では、このような形はいかがでしょうか?『我らは、人類軍。統一王様の元にある正しき人間。リスティル・■■■■■!統一王様からの命である。何も聞かず、おとなしく、こちらに投降しろ。貴様の捕縛に生死は問われていない』……いかがでしょう?」


「ふむ、なかなかにいいな。さて、ダイゴ候補生ご苦労だったと言いたいところだが、恐縮だが、もう少し付き合っていただきたい。」


「まあ……まあいいですけど、この後の訓練が待っているんですが」


 俺のわずかな反論は、


「ああ、大丈夫だ。問題ない。貴公が行う午後の訓練については、教官に伝えてある。まあ、貴公も今回の作戦について知っておくべきだろう。……では、お願いいたします」


 緋の方の声に遮られた。さらに、話題が、鋼魔に振られる。



 ああ、消化がまだ追いつていないから、少しだけ、訓練に参加していたかったんだが。そうもいかなかったか。



「さて、人類のダイゴと言ったか?」


「は、はい、そうです。」


 頭の奥に轟くように、響く声。鋼魔種族の独特の言語。”無声言語”だ。人類のように、空気を震わすのではなく、空間に漂う他物質に干渉し、相手に声を伝える。

 多くの人類にとっては、全くの異言語。人によっては、神からの神託のように聞こえるだろう。まあ、それも仕方ない。今の人類にとっては、



 彼らこそ、救いの神なのだから。



「そう緊張しなくて良い。今回の作戦について、教えておきたいと思ってな。今回の作戦には、私のほかに、もう一人、他種族の者が参加する予定だ。」


「は?他種族ですか?」


 俺は、一瞬の間、思考を働かせる。現在のところ、人類に対しては中立の立場である妖魔族からは、特に今作戦への問い合わせは来ていないだろうと思う。数少ない妖魔族の知り合いも、特に今回の作戦に、何か聞いているような節もなかった。


「妖魔族の参加は聞いていませんが……」


「今回参加するのは、精霊族。……女王直下の精霊騎士だ。」


 その声に、俺は、戦慄が背中を走るのを感じた。思わず、楽歌隊の面々に視線を這わせるが、前もって聞いているせいか、特に、これといった反応はなかった。

 もっとも、緋の方は、その仮面の奥の視線をわずかに曇らせただけだった。


「精霊騎士の同伴ですか……」


「貴殿がいうこともよくわかる。だが、これは、決定事項なのだ。貴殿らの今回の活躍に充分に期待している。特に君に対してはな。さて、時間が迫ってきたな」



 俺は、手元の時計を確認する。すでに、時間は、16時を刺そうとしていた。もう30分もすれば、今夜の作戦に向けて、点呼を取る時間だ。


「時間か……惜しいが、ダイゴ候補生。退出を許可する。今夜も存分に殺したり、死んだしてくれ。」


 楽歌隊の隊長と思しき人物が、俺に退出を許可してくれる。ついでに、今夜の訓練の内容まで教えてくれるとは、実にありがたい。



「はい、ダイゴ候補生退出いたします。」


 俺は席を立つと背を向けて退出しようとした。


「ああ、そうだ。ダイゴ候補生。一つ忠告しておこう。今日の訓練には特別なイベントを用意した。充分に楽しんでくれるとよい」



 忠告と言いながら、実に危ないことを言ってくれる。イベント?何かが今日起こるというのか?



「まあ、楽しみにしておきます」


 俺は、それだけを告げると、楽歌隊を後にした。

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