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夜明け前の、闇の中で 10

 ロンディスとその師匠という人なのだろうか。不意に現れた2人は、相手に不敵な笑みを浮かべていた。


「さてと、好き勝手やってくれたな。聖域まで出張とはご苦労なことだ」


「師匠、できれば捕らえたいので、手加減はしてください」




 2人の姿勢を見た、相手に対して、歓喜とも言える感情を感じる。




 当然、それは、言葉にすらならない。感情の波動。それを、わたしは、不思議と敏に感じた。



 そして、ただただ理解した。ああ、この間には、わたしは立ち入れない。



 わかる。ああ、相手とレベルが違うとか、そう言うのじゃなくて、ただ、立ち入ってはいけない。それだけが、わかってしまう。




 それを、悔しいと思うことも、みっともないと思うこともなく、ただただ、胸に落ちるように、わかってしまった。



 だからこそ、わたしは、お母様のもとに急いだ。


「お母様!」


「リスティル。急ぐ……っく。マリベル、オリビア!」


「わかってる。オリビア」


「ええ、逝きます」


 わたしが、お母様に向かおうとするその時に、相手に、大きな隙が生じる。


「二人目の聖王 大聖女。 その願いを借り受ける


 精霊の力を欲した、彼の賢人に祝福を」


 マリベルの詠唱が場を支配した。異質な文言は、誰にも阻害されることなく完遂される。それに、相手が気が付いたときには、既に手遅れだったのだろう。


 

『精霊の能力か。』


 小さな光が、ほうぼうから現れる。その小さな光の中には、小さな人影が見えている。そして、ちいなさ人は何の合図もなしに、一気に、2人の襲い掛かる。


 光が、2人を捉えるたびに、明かに動きが鈍るのがわかる。効いているみたいだ。その様子を目に焼き付けて、勇気をもらった。戦場をそのままに、駆け抜ける。視界の端では、たぶん男性の方をロンディスが、押さえているのが見えた。



 次の瞬間だった。天から、神々しいばかりの光が注がれた。それに気が付いて、見上げて、絶句した。


 そこには、かつて見たバンディーラ様の召喚した御使いたちが、おのおのの武器を構えていた。



 それに気が付いたらしく、ロンディスとその師匠は、その場から大きく飛び退る。



 矢が、槍が、剣が、ありとあらえる光が、残された2人に殺到した。そして、爆音と風、土煙が2人の姿を隠していく。


 わたしは、間一髪でお母様の元にたどり着くと、盾になるように覆いかぶさった。

 次の瞬間、一時視界が途切るほどの光がわたしに襲い掛かって、そのあと、痛い静寂に包まれる。



「うっ。」


 その静寂の中で、耳に、微かなうめき声が聞こえる。どうやら、お母様が気が付かれたらしい。


「お母様!大丈夫ですか?」


「ええ、リスティル。私は大丈夫。たぶん相手は手加減してくれたみたいね」


「え?手加減ですか?」


 わたしの声に、お母様は微笑んで、幹に手をかけて何とか立ち上がる。だが、すぐにへたり込んでしまう。


「お母様。無理しないでください」


「……そうね」





 そこに一時的に離れ離れになっていたロンディスとその師匠、そして、オリビアたちがやってくる。ただ、そこに、一人足りない。


「あれ?ロアは?」


 辺りを見回す。すぐにロアは見つかった。ただ、その表情はすごく険しい。


 かつて2人がいた場所。地面に空いた大きな穴。そこを見つめている。ただ、その険しい視線からは、何の感情も見出すことはできなかった。


「少し大変だったの。ロアったら、いきなり、相手に斬りかかっていって。おかげで、こっちは、連携も何もあったものじゃなかったわ。」


 オリビアの声に、わたしは、複雑な心境で、ロアを見つめる。さっきかけられた言葉が蘇る。



『鋼魔たちの無声言語だ。一旦、叫び(ハウリング)で音の結界を張ったが。まさか、リスティルが、そんなものを受信できるようになっていたとは……が、考えれば、前々から兆候はあった。俺のミスだ。何もできなかったな。すまなかった。』



 その言葉の意味を聞きたいと思っているけど、今ロアに話しかけられる雰囲気ではなかった。


 やがて、葛藤が片付いたのか、ロアは、わたし達の方へ向かってきた。心なしか、少し俯いているように思えた。


「ロア……」


「大丈夫だ……問題ない」


 誰ともなく語り掛けた言葉を、ロアはいつものように返答した。こうなったときには、ロアはなかなか口を開こうとしない。それは、わかっている。



「うわっ……また派手にやったね」


巡礼者たち(みんな)無事か?……全く、ソルティーラ、ロンディス知り合いなら知り合いだと教えてくれればいいものを」


 ミラとラーズが他のコミュニティを引き連れて、合流してきた。ラーズから、ソルティーラと言われたその女性は、ふんっと顔をそむけた。


「……コミュニティ失格だと言いたいのでしょう?でも、おあいにく様。もう、ロンディスと話をすることに制約はないはずよ」


 ふんと言った様子で、ソルティーラが胸を逸らした。



「そちらは、大丈夫ですか?」


「え、ええと、お母様が……」


「少し確認させてもらいますね。……」


 わたしの元にも、深く帽子を被るコミュニティの一人が駆けつけた。わたしの声に、応えて、手際よくお母様の診断をしていく。


「腕と身体の中枢にダメージがありますね。少し安静にした方がいいです。もしよろしければ、『手当』と『安静』の魔術を使用しましょうか」


 お母様が、ほんのわずかに口元を引き締めたのがわたしにはわかった。


「では、『手当』だけお願い」


「わかりました。……あまり無茶をしないでくださいね」


 そのコミュニティの手が、ほのかに輝いた。それを見ていたオリビアが、何かに気が付いたように、目を見開いた。

 その視線を遮るように、ミラが手を広げた。


「オリビアは、まだ、ダメだよ。君にはコミュニティとのコミュニケーションは許されてないからね。あと、今の彼女に話しかけても、きっと相手にしてもらえないから」


「本当に彼女なら、そんなことはないって言いたい。けど、……貴方が言うのならば、きっとそうなのでしょうね」


 オリビアは、ラーズの声に、むっとしたように言い返した。


「……一つだけ教えて。王国の盾、ソルティーラが、コミュニティに所属しているのだとしたら、その時一緒に巡礼に出たはずの……あの人……」


 オリビアがそこまで言った時だった。



「リスティル!無事だったんだね!」


「バンディーラ様!」


 作戦司令室の天幕から、小柄な女の子が飛び出してくる。その手には、特徴的な太陽と月の旗を持を持っている。


「良かった!リスティルが無事で。   本当に心配したんだよ」


 ほっとして、わたしは、飛び込んでくるバンディーラ様を受け止める。


「はい、バンディーラ様助けてもらってありがとうございました」


「あ、ええ。あ、うん、そうね。もっと褒めてもいいのよ」


 やはりその声を聴くと安心してしまう。



 そんなわたしとバンディーラ様の間に、まるで割って入るように、ミラが、口をはさんだ。


「バンディーラ。一つ聞いておきたいんだけど、何で討ったの?」


「だって、結構リスティルが、危なかったじゃない?」


 一瞬、ぽかんとした表情を、ソルティーラとロンディスは浮かべた。それに比べて、ミラが浮かべたのは、


「そうだね。そうなんだね……」


 何故か納得したような、そして、何故か、希望を感じる様な笑みだった。ミラは、そのまま、何事もなかったように、魔草工場の方に向き直る。


 ソルティーラとロンディスは、何か言いたそうだったが、それ以上何も言うこともなく、ミラに倣った。



「よしっと、あ、そこの仔。リディアさんは、もう大丈夫だから」


「ええと、でも、」


「大丈夫だ。彼女がああい言ったら、これ以上は、何の問題も起きない」


「わ、わかりました」


 まだ手をかざそうとする、コミュニティをそっと真神国の騎士が制した。ほんのわずかに、納得いかなさそうな表情を浮かべながら、コミュニティはその場を引く。

 その場を変わるように、真神国の騎士は、お母様を軽々と担ぎ上げた。


「最も、離れることはできないだろうからな。このままでいく。リディアと言ったかな?少し不格好だが、許してほしい」


「大丈夫です。それより、貴方の手をふさいでしまい、申し訳ないです。」


「済んだことだ。気にするな。さて、追いかけるぞ」



 わたし達は、少し遠のきつつあるミラたちの背中を追いかけ始めた。

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