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明けることのない闇の中で (ベルグランデ視点)

 人間の行う魔術とは、単なる事象の再現に過ぎない。


 火のない所に煙は立たず、根のない草に花が咲くことはない。


 唯一の例外は、対人魔法。相手の心を威圧し、揺さぶり、玩ぶ。相手を激高させ、魅了し、崇拝させ、自らの理になるように悪意の芽を植え付る。

 反対に、自らの心を鼓舞し、冷静さを与える。


 世界に、同じ人間は存在しない。だからこそ、この魔法は、事象の再現ではないとされている。




「うるさいな、全く、興が削がれる」


 私は、10発目の銀の弾頭をナイフで削りだす作業から顔を上げて、ご高説を垂れているシュガーナを睨みつけた。


「あら、明けの明星には、当たり前のこと過ぎたかしら?」


 得意げな顔を見て、ますます不愉快が積み重なっていく。さて、どうしたものかと思いながら、10発目の弾頭を目線の高さに上げて、ゆがみがないかを確認し、薬莢の取付作業に移る。


「ベルっち。銀が通じるのは、シェイプシフターくらいのものすよ。今から武舞(ダンス)する、彼らは、そう呼ばれているけど、中身は全く別のものっすよ。」


「誰が、ベルっちだ。……それから、そんなことは充分に知っている。これは、相手の眉間に打ち込む弾じゃない。そんなつまらないことには使わないわ」


 弾丸の作成が終わり、それをガンベルトのカートリッジ型のポーチに入れこむ。不揃い弾丸の暴発を防ぐための措置ではあるが、それ以外の目的もある。



「作戦開始の時間だ。ベルグランデ、シュガーナ。対象が移動を開始。前衛と衝突。IES(帝国近衛陸軍)並びにコミュニティは戦闘を開始。」」



 不意に聞こえた声に、私は、腰のマウントにマシンピストルをセットし、サブアームの制式拳銃をガンベルトにセッティングする。最後に、相棒の狙撃銃を拾い上げた。


「しかし、本当にそんななりで、あの伝説を作り上げたとは思えないっすけどね」


「私も、戦場の創成者(アーティスト)の異名を持つ伝説の魔術師が、こんなに軽薄(軽い)奴だとは思ってなかったけどな」


 私の準備が終わるのと同時に、シュガーナの準備も終わったらしい。シュガーナの纏う、青白い炎魔術の輝きが、手に形成した魔法陣から零れるように溢れている。

 流石、妖魔族。その魔術は、人間のなすそれではなく、妖魔の行う魔術。すなわち、世界を取り込むことで人外の法を強制的に自らの力となす。


 それこそが、人間の力。そうあの時に教えられた。


「御旗の御使いよ……この世界に人間の名が刻まれた旗を立てよう。世界は我らの御旗の元にある。我らの困難を超える力を積まれ積まれた願いの中より与えよ。妖魔の残滓に人間の名を刻め。」


 願いの詠唱が、シュガーナの口から洩れる。青白い炎は、まるで獲物を狙うかのように大きく躍動すると、付近に潜んでいるであろう人類を探し始めた。


 妖魔の四根源の混合魔法。単なる、飛び火や吹雪の再現ではなく、まるで、事象に意志があるように、それは蠢き、跳ね、そして、


「見つけた!」


 シュガーナの声に、私は即座に反応する。強化歩兵3、戦車級1……少々物足りないが、おそらくは相手の斥候であろう。


 ゴーグルを覗く。視線に入るのは、青い炎だけだ。でも、敵が見える。敵の視界が、こちら捉えるのを感じる。



 敵の心臓の鼓動が、耳元で高々に個々たる生命の鼓動を奏でるのを感じ入り……口角を上げた。





 その音は、私にその生命の根幹……願いたる命を断ってほしいと……跪き。懇願している(願っている)。



 益々の笑みが、自然に浮かんだ。彼ら望みをかなえるべく、引き金に手を掛ける。




 歓喜の咆哮のような銃声が、森に響く。



 打ち出された銃弾は、堕ちて来ていた木の葉に当たり、微妙にその動きを変えた。そのまま、巨木の幹に道を切り拓きながら、わずかにだが、確かに、そして、更に弾道を変え、でも、人を殺せるだけの速度はそのままに、忠実な猟犬のように相手の心臓の鼓動を狙って、突き進んでいく。


 銃声に気が付き、その方向に盾を構えた1人目の強化歩兵の死角になった左わき腹から、弾丸は侵入した。腸を削り、肋骨で曲がると、心臓を通貨して右肩へと貫通した。その弾丸は、そのまま、2人目の頸椎を破砕し首筋から出ると、、3人目の眉間を貫き、そのまま、戦車級の装甲の隙間から相手の鎧の中に侵入し、その中で終わることなく跳弾。相手を物言わぬ塊に変えて、飽きたように、相手のゴーグルを突き破り地面へと突き刺さった。


 そこに、意志を持った青白い炎が襲い掛かった。もはや動くことも叶わないそいつらは、何の痕跡も残さないままに、消し炭へとなり果てた。


「しかし、何回見ても、これが魔法なのか、それとも技術なのかわからないっすね。ベルグランデ。貴女は、人間のはずなのに、どうしてここまでのことができるんっすか?」


 シュガーナが、首をかしげながら、私に問いかけてくる。今は利害が一致しているとはいっても、かつては、殺し合いをしたこともある相手だ。わざわざ手の内を教えてやる必要などないだろう。


「さあね、じゃあ、人間の起こした奇蹟っていうことでいいんじゃない?さて、シュガーナ、行くよ。ソルティーラが前線で待ってる」


 


 二人で駆ける、かつての懐かしい記憶。



「なんて夢見るのよ。こんな時に限って」


 私は、ゆっくりと瞼を開く。今のわたしには、不必要な事だけど、こんな夢を見るのは、きっと意味があることなのだろう。


 時刻は夜明け前。休息も睡眠も必要はないとはいえ、目を閉じて夢を見ろと強制されたら、今のわたしに抗うすべはない。


 祈りの言葉を唱えると、私は身を起こす。否、起こそうとした。身に力が入らないのを感じ、今はその時ではないとわかる。


 わかるからこその焦燥。だからこそ、目の前にあるそれを見る。そして、ただ祈る。


「あの子を……せっかく、人間の世界に戻ってきたあの子に、人間の宿業を見せないで……あの子は、貴方の贄なんかじゃない……バンディーラ、バンディーラ。お願い、あの子を見つけないで」


 ぐっと、握った手の隙間から、他は動かすことも許されえない身体から、弱々しく、願いを飛ばす。



 願いが叶った奇蹟の結晶から、奇蹟を奪い取らないで……だから……



「知ってるよ、ベルグランデ。あの子は、貴方の願いの結晶。人間の願いはまだ叶うという確かな証」


 はっと、手を解く。端末から、光が漏れていた。



「だからね、ベルグランデ。もういいんだよ。自由になって。そうなったらいけないなんて誰も言っていないんだよ」


 ふっと体に自由が戻ってくる。そのままの勢いで、端末を覗き込む。


「人間への第一級敵対存在……まさか……」


 端末から映し出されるのは、絶望の未来。


 訪れてほしくなかった、その未来。




 でも私は、認めない。認めてたまるものか。人間が、人になれなくても……だからと言って、認めてたまるものか。


 手に、使い慣れたライフルを手に取る。強壮斬裂弾を強制装填。端末にそのまま銃口を向けた。


 息を吸い、呼吸を整える。その間に5秒……置いてきた強さに一瞬、郷愁を感じる。でも、今は、あの時のように、1秒でもなれればいい。それで今はひるまない。


 それは、アーサーを脅威と認めたらしく、襲い掛かろうとしている。もはや一刻の猶予もない。


「アーサー伏せて!」


 叫びと同時に、私は、端末の向こう側に弾丸を叩き込んだ。

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