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夜明け前の、闇の中で 7

 わたしは、コミュニティたちの初めて見る出で立ちに驚きを隠せなかった。


 聖都サラディスでは、武装しているコミュニティは見たこともなかったが、この場所に集まった彼?らは、一同に武装した状態で現れた。ただ、彼らの武器は、まちまちで、統一性が無く……それでも、すべて素人目に見ても使いこなされていることは明かだった。


「念じ、唱え、そして、願え。我らの悲願を……我らの手にもたらすために」


 大楯を持ったコミュニティが、抑揚もなくただ、言葉を読み上げる。その言葉に、コミュニティたちは、自らの武器を大地にたたきつける音で答えた。


 ふと気になって、アンデットに視線を向けると、気圧されたように安易な手出しはできないように見えた。


「お母様。今のうちに。」


「ええ、リスティルそうしましょう」


 私たちは、その場からそっと離れようとした。あくまでも、相手の目標は、私たちの無力化のはず。それは、さっきの会話で、わたしの名前が出たことからも、簡単にわかる。

 私がもし捕らえられたら、おそらく、お母様はお姉さまを諦めざる負えなくなる。だからこそ私を捕らえようとしたのだろう。


 だとしたら、私たちが安全圏に到達することそれが、きっと、わたしたちにとっての勝利条件なのだろう。

 だが当然、それが、簡単にできることだとは、思っていない。


『目標移動を開始しました』


『本来ならば、捕縛を第一にするべきだが、時ここに至りては仕方がない。敵中枢部隊への対抗並びに目標の鎮圧を第一目標とする。強装歩兵ジャガーノート)並びに、戦車ティンクの投入を司令部に伝達』


 その言葉が終わるか終わらないかの時だった。わたしたちが進もうとしていた方向のテントが吹き飛んだ。


 そこから現れたのは、人のように見える何か。まるで、巨人。それが、手を上げると、その後方から、それよりは、一回り小さな歩兵が姿を現す。


『砲撃開始』


『砲撃』


 天に向かい紅い火の玉が上がった。それが、合図であったように、にらみ合っていた両軍は、激突を始めた。


最終防壁ファイナルガード


 おそらく、ロンディスの盾だろう。巨大な防壁を作り出す。火の玉の多くは、その防壁に阻まれて、爆発四散するが、そのたびに、衝撃波が地面に伝わった。


 コミュニティたちは、それぞれの武器でアンデットに挑みかかっていく。その動きはとても洗練されていた。数的な有利もあるのだろうが、3人一組で漏らすことなく討ち取っていく。


「再攻撃を許すな。総員攻撃」


 一気に離脱する予定だったが、既に状況は乱戦となっいる。簡単にこの場から離脱などできなくなったと判断したわたしは、用意していた小型拳銃と、制式拳銃を手に取った。隣を見ると、お母様も同じ判断をしたようで、背中に背負っていたライフルを手に取っていた。


「お母様」


「行くわよ。リスティル。サーディン家の力。不埒者たちに充分に見せてあげましょう」


 わたしは、頷くと目の前の敵に向き直った。そうだ、バンディーラ様もがんばっているんだ。わたしも頑張らないと。


 そう考えた瞬間だった。激しい銃撃が始まった。機関銃を相手は持っているのだろうか?たまらず、近場にあった遮蔽物に身を隠す。


「リスティル。S投擲。」


「はい!」


 お母様に言われ、遮蔽から、機関銃の方向へスモークを投擲する。視線を切られ、一時機関銃が沈黙する。


「悪いけど、見えているわ」


 お母様が、わずかに遮蔽から身を乗り出し、ライフルで相手を撃つ。仕留めたと思った瞬間だった。


 カーン!


 まるで、金属同士がぶつかり合うような甲高い音が響く。ほんのわずかな沈黙の後、再び、機関銃の攻撃が始まり、お母様は、悔しそうに遮蔽にもぐりこむ。



「仕留めたと思ったのだけど」


 悔しそうにお母様の顔が歪んでいる。相手は制圧射撃を加えながら、ゆっくりと砲塔の照準をこちらに合わせている頃だろう。もし今、砲撃を加えられたら、こんな遮蔽物などあっという間に砕け散ってしまう。そう悟ったわたしの体は、意外なほど素直に動いた。


 遮蔽から飛び出す。お母様の射撃。さっきの火花の中で見えたのは、金属をまるで骨格のように張り巡らされた中に乗っている不格好なスーツを着ている兵士のようだった。さっきのお母様の攻撃が弾かれたのは、その金属の部分に命中したそこまで見えた。


 次射なら、お母様は絶対に外すことはない。それが、サーディン家の誇り。

 それは、お姉さまから受け継いだ、わたしの思いそのものだった。


 しかし、お母様のライフルは、どんなに熟練していも、リロードに少なくても20秒の時間を必要にする。その間は、わたしがなんとかするしかない。とはいっても、わたしにできることなんて限られてる。でも、緊張の線を超えたのか、身体に振るえはなかった。


 小型拳銃では効果が薄いと判断して、ピアレッシング弾を装填した制式拳銃で水平射。自分の拳銃と違う重い衝撃が、肩に響くのを感じた。姿勢制御のため2射目からは、両手を添えて撃つ。何発かは命中している感触があるものの、相手の動きが鈍る様子はなかった。遮蔽に飛び込む。相手はこちらを捉えているらしく、そのまま、近づいてくる。


『我らは、人類軍。統一王様の元にある正しき人間。リスティル・■■■■■!統一王様からの命である。何も聞かず、おとなしく、こちらに投降しろ。


 再びあの声が聞こえてきたけど、全く気にしなかった。足音から位置判断。相手の懐に滑り込みつつ、背中のショットガンで相手を撃つ。わずかな時間だが、相手の足が止まる。


「お母様。」


 私の声が聞こえたのかは定かではない。でも、


 銃声の後に、相手は倒れ込んだ。戦闘としてはわずかな時間だったけど、なんとか生き抜けた。ほっとしていると、お母様が駆け寄ってくる。


「リスティル!大丈夫?怪我とかはしていない?」


「大丈夫です。」


 お母様がほっとした表情を浮かべる。そのまま、その表情を固まらせた。


「り……」


 お母様が指さした先で、そいつは、ゆっくりと立ち上がっていた。そうだった。アンデットは、自らの死因では死なないのだった。そんな簡単なことも忘れていた。


 それは、怒りに身を任せているように、機関銃のグリップをこちらに向けてきた。不思議と、それはゆっくりとした動作に見え、

 あ、あれに殴られたら、死ぬなって。そう考えるだけの十分な時間があった。


 黒い影が飛び込んだ。どう見ても、体格差があるが、その一撃は、そいつをよろめかせるのに十分すぎる重く激しい衝撃。その全身を覆う金属の骨格が、イヤな音を立てて歪んだ。


 コミュニティだ。

 コミュニティは、そのまま、大楯を相手に投げつける。よく見ると、大楯の縁の部分は、鋭く加工してある。そのまま、刃としても使えそうだ。相手は、その盾の攻撃を受け止めきれずに大楯は相手の身体に深々と刺さる。そのコミュニティは、そのまま相手を追いかけると、レッグアーマーでそのまま、盾を蹴りつける。


 一方的な破砕音が響いた。


 そのまま、相手は沈黙。そこから、大楯を引き抜くと、そのコミュニティは、わたしの方に歩いてきた。


「よく頑張ったな。……今回の巡礼者か?」


「え?」


 女性?コミュニティがしゃべった?それが、素直に、驚きになった。


「まあ、いい。作戦指令室まで急ぎ後退しなさい。こちらも残敵を殲滅しながら追いかける。」


 その視線の先。決して少なくない部隊がこちらを追撃に映っているのが見える。確かに、この場は、言われるとおりにしておいた方がいいだろう。

 背中の砲塔が、微かに回転して、こちらを捉えたような気がした。


「ち、もう、再攻撃が可能になったのか?」


 そう言うと、ほぼ同時だった。空に向かい、火の玉が打ち出される。それは、空中で分裂すると、無数の火が大地に帰すのが当然という様に落ちてくる。


「考えたね。―たく。まあ、これもリハビリっていうことでいいか。最終防壁ファイナルガード


 コミュニティが天に向かい大楯を構えたまさにその時だった。



「顕現せよ。私は願う。」


 お母様の通信機からバンディーラ様の声が聞こえた。そして、火の玉に向かい無数の矢が降り注いだ。矢に触れた火の玉は、その存在があったことをまるで拒否されたように、虚空に消えていく。その矢は、勢いをそのまま、アンデットたちの群れに襲い掛かる。


『く、忌楔旗バンディーラか!真に忌々しいが、ここまでは、あの男の言うとおりに進んでいるな』


『報告。中枢に押されています。このままでは、こちらは継戦能力を喪失します』


『だが、もっともこちらの期待するべき方向かたちで進んでいることは。我々人類も、人間かれらと変わらない。最もあるべき姿というべきことか。貴君らの強き意思もの元にこそ、我らは、未来を一つにすることができる』



 相手の困惑と決意の声が聞こえてくる。ようやく、形成がこちらに傾いたらしい。わたしはその声を無視して、お母様の手を取ると、視界に入った作戦指令室に向かい走り始めた。



 その時のわたしは、戦況の傾きなどどうでもよく、頭の中は、バンディーラ様に再び会えるということを考えることで、一杯だった。

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