夜明け前の闇の中で 3(アーサー視点)
最新鋭の小型機関砲から、多属性の弾丸が吐き出されると、アンデットたちは、バッタバッタと倒れる。優勢と言えば優勢だが、今回の任務はあくまで突入と、調査任務。
戦闘を主体とする任務ではない。故に、この馬車は、瞬間の突破力は相当のものがあったが、継続戦闘能力自体は、低くなっていた。
「弾薬残り30」
淡々とされる報告に、頷く。この馬車に備え付けられた弾薬の数は50カートリッジ。その半分近くを使い切ったことになる。予想より、かなり早いペースで弾薬を消費している。
「奴ら多すぎます。あと、武装が厄介だ。なんで。あとから出てくるやつの方がいい装備してやがるんだ」
「装備の差が力量全ての差ではないぞ。それに、対処は我々の本分だ。押し切れ」
部下の声に、激励で返した。その部下は、再び機関銃にかじりつくと、射撃を再開した。予想していないわけではなかった。魔草工場は、アンデットの巣窟になっていること。
ただ、これほど激しい抵抗を受けることを予想していたわけではなかった。
「数、規模、装備どれをとっても、中隊以上ではないか。一体この数と装備をどこから持ってきたのだ?」
相手の兵装の中には、探知魔法を逆探知・無力化することで、かく乱行動の効果を上げる索敵カウンターシステム装備の兵士の姿も見えた。
索敵カウンターシステム。通称ECSは、つい近年ようやく実戦試験品が完成し、次期から効果判定を行う予定の兵装だった。まだ正式採用の見込みが立っていないその装備の一種の完成系と思しき装備をアンデットの一部が使用していた。
これは、一体どういうことだろうか?アンデットと、我が国がどこかでつながっているという証拠と簡単に決めつければ、楽なのだろうが、だが、いまは、そんな悠長に分析を行っている暇はなかった。
「前方、重装歩兵。数4。シルエットが大きい。対爆スーツを着用可能性。」
思考はそこで一旦止めた。前方ののぞき窓より、対象を確認する。
大きなシルエットに、巨大な銃と思しきものを両手持ちしている。背中からは、おそらく予備の銃器だろう。遠方から見ても巨大な銃身が見て取れた。
固定兵装を輸送中の部隊。
私はそう考えた。
「対象は、兵装を輸送中と考えられる。設置前に突破する。」
魔草工場は、もう、目と鼻の先だ。後は突破するだけ。そう思った。
その瞬間だった。風切り音とともに、味方の焼夷砲弾が後方から着弾した。炎が後方のアンデットを焦がしていく。熱と光が、戦場に戻った。そして、それを見た。
「何だあれは?」
相手が着込んできたのは、対爆スーツではなかった。いや、それによく似ているが、武骨な鋼鉄でできたと思われる骨格が、対爆スーツのようなものを着こんだ兵士の周りを覆っていた。その骨格は、あたかも、人間の骨格にもよく似ていて、それでありながら、人間の弱点を補足するように張り巡らされていた。
「……強化外装骨格?まさか。あれは、まだ理論段階のもののはずだぞ」
そして、背中にある予備の火器と思った、それは、小さな砲塔だった。まるで、気が付くのを待っていたように、肩の砲塔をゆっくりとこちらに向けてきた。
「全速力だ。走れ!!相手の砲撃が来るぞ!!」
全員に無線で通達し、御者が、馬に鞭を入れるのと同時だった。
ドンッ!
4人の重装歩兵の背中の砲塔が火を噴いた。
「散開!散開!!」
閉鎖されている装甲車の中にも振動と爆発を感じる。
「4番に直撃!!3番走行に重大な支障。隊長……後は任せます。皆、命を持って侯国への忠義を示せ」
3番の馬車は、走行を止めて、馬車を盾にして、残された火力を重装歩兵にぶつけ始めた。圧倒的火力。ただ、倒すには至っていない。逆に、相手の機関砲の火力に押され始めていた。
あの外装骨格は、装甲としても機能している。そして、あの異常なタフさ。おそらく相手の死因は銃撃によるもの。そう考えれば納得がいく。あれは、簡単には倒すことはできないだろう。何もできずに見捨てることしかできない自分に苛立ちながらも、檄を飛ばす。
「全員、犠牲を無駄にするな!目につくものを薙ぎ払え」
最後の力を振り絞るように、魔草工場の敷地に突入する。拍子抜けするほど先ほどまで感じていた圧を感じなくなる。だが警戒を怠っていいという答えにはならない。慎重に、歩を進める。
そんな中、最後に思い、3番の馬車があった方角を見る。そこに意に介せないものを見た。そこには、何人かの人が立っている。多くの人は白い服を身に纏っていた。そして、炎の光に浮かんだのは、月と太陽の紋章。そして、そこに控えるように、キノコような服装をしたもの。
「真神国の騎士?重装歩兵は一体どうした??あと、あれは何だ?」
なぜ真神国が侯国にと不思議に感じたが、馬車がカーブを曲がり、視線が切れてしまう。そして、入口に横付けしたことで、それ以上を考えるのはやめた。
「突入部隊。行くぞ。1番隊は、私と共に監視塔の制圧。2番隊は、明かりがついている部屋を重点的に探索しろ。5番隊は、住居部分の探索を行う。残ったものは、入口を死守しろ。」
私の声に、兵士たちは、敬礼を返してくれた。
兵士が、入口のドアをそっと開いた。そこには、まるで歓迎されているように煌々と照らされているエントランスホールがあった。
「よし、全員任務にあたれ。」
皆が、規律よく、準備に取り掛かる中、私は、ふと左胸のポーチに格納してあるカラドボルグに手を触れた。不思議なことに、それは、まるで何かを伝えようとしているように震えていた。私は、一度取り出したい衝動に駆られたが、切り札にもなりうるカラドボルグを、安易に出すわけにもいかず、ただ、服の上からその振動を感じていた。
「そうか、ベルグランデが私を守ってくれているのか……頼むぞ」
現実主義者からは、あきれるほど、果てしなく遠いその言葉をまるで言い訳のように呟く。
そして、沸いてきたその気持ちを忘れるように、その先にあるであろう監視室を見据える。
「突入準備完了しました」
報告に頷き、ヘルメットの顎ひもをきつく結ぶと、私と15人の精鋭は慎重に、歩き始めた。