第一二話
「ええと、なんだがごめん」
「いえ、バンディーラ様の」
「様はいいからね」
「方はどうですか?」
私たちは、あの後ラーング旅団が攻略している、『聖者墓地』の連絡ダンジョンである、『神が坐したる立坑』の斥候におとずれていた。見たところ凶悪なモンスターも出現しない、平和な場所に見える。
「うん、リスティル。こっちは大丈夫」
私は、リスティルに、親指を立てて、笑顔を見せる。
ここは、2つの背塔状の構造物を攻略するタイプのダンジョンみたいだった。入り口が2つあるのを見た私が、『全く、塔が2つで苦労も2倍になるっていうことね』と言ったところ、リスティルを除く全員から微妙な表情を向けられた。
この3日間は、塔の攻略ではなく表層の塔入り口周辺を探索していた。ダンジョンはすべて、表層、中層、深層の3つに分けられる。入り口からの斥候を行うときには、表層から中層までにとどめるのが、旅団における定石になっていた。
「リスティルは、大丈夫?」
その声にリスティルは応える。
「バンディーラ様が」
「様はいいからね」
「頑張ってくれているおかげで、こっちは大丈夫です!」
うれしそうな声にほっと一息をつく。リスティルは、必死に私たちについて来ようと無理をしているように見えた。それを正すのは、私の仕事だ。
「リスティル、無理はしないでね。あなたが傷つくと私は、悲しいから」
「バンディーラ様!!」
「ああ、様はいいから」
「こんな私に、注力していただけるなど…足りない部分はもっと頑張りますから」
いや、そうじゃなくてと、言う言葉は届かず、ただ、虚空へ消える。リスティルはいい子だと思うんだけど…人の言うことを効かない癖があるなと、私は少し考えていた。
「でも、全然、敵でないですね。ダンジョンって、モンスターの巣窟だって言われているのに、審判の森では、あれだけのダークホビットがいたのに…」
「うん、そうだね。でも、モンスターはきっといるよ必ず」
私の声に、リスティルは、気を引き締めたような表情を浮かべる。
その後も順調に偵察の範囲を広げていく。いくつかの扉を開けた、その先に見えたのは、広間だった。そこから先には、暗い立抗が広がっている。その先には、多くのモンスターは徘徊している可能性がある。私たちは、付近の索敵をしてから、帰ることにした。
パン!パン!!
リスティルの魔導銃が火を噴くと、ジャイアントスパイダーが、天井から落ちてくる。見事に、胴体に風穴があいているのを見ると、リスティルの魔導銃は相当に良いものらしい。
「そうか、屋内だから、そういうところも気を付けないといけないね」
「ええ、うかつに進むと大変なことになります。ところで、この三日間で気が付いたのですが、魔導銃の効果が上がっているみたいなんです」
「効果が上がる?って、どんな風に?」
「なんだか、属性が付与されているような…今までは、大型のモンスターとは、相性が悪かったんですが、バンディーラ様」
「様はいらないよ」
「と、パーティを組んだ時から、急に効果が変わったんです。もしかしたら、バンディーラ様は、体力や精神力の回復とか、属性の付与とかの魔法を使われているのではないですか?」
「う~ん、わかんない」
「は?」
「私の持っている魔法って、すごく偏りがあるの。師匠からも、『お前の魔法は、よほどのことがない限り使うんじゃないよ』って釘刺されているから…まあ、ここまでくる間に、誰もいないところで、一回使ったけど、」
「そうなんですか…」
「うん、だから、私はリスティルが言うような、魔法は持ち合わせていないと思うし、あと、聖王遺物の力っていう可能性もあるけど…よくわかんない」
私がこう言うと、リスティルが、嬉しそうに微笑んだ。私もリスティルの笑みの意味が分からなかったけど、微笑んだ。微妙な時間がその場に流れた。
「…バンディーラ様は、謙虚なんですね」
リスティルが、嬉しそうに口を開いた。
「へっ?」
私は、リスティルの言葉が理解できずに、口がほかーんと開く。それにかまわずに、リスティルは言葉を続けた。
「だって、体力・精神力の回復、精神操作に対するレジスト、それに、属性付与。無意識にそこまでできるのに、自分は何もしていないって言い切るなんて…」
「そ、そうかな?私は、何かしているつもりはないんだけど。ほら、旗振っているだけだし」
私が旗を振ると、それは、きらきらと輝いてみえた。リスティルは、それを見て、ほっとしたような表情を浮かべる。
私たちは、その後、付近の掃討と偵察を終えた。再び、広場に帰ってくると、リスティルは、地面の様子をしきりに気にしているようだった。
「どうしたの?オリビアとロンディス待たせると悪いよ」
「いえ、少し罠を這っておいたんですが、あっさり突破されたみたいで…他の巡礼者がいたのかもしれないと、少し気になっただけです」
「すれ違わなかったし、モンスターじゃない?」
「そうかもしれません。では、戻りましょう」
私たちは、背塔入口部から外に一度出て、合流することにした。




