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第一一話 フラジャイル旅団にて

「おい、そっちの棚はどうだ?」


 装備物品の倉庫。その共有部分で、俺たちは、在庫の確認をしていた。ダンジョンに挑む場合には、傷薬や応急薬の装備が不可欠になる。その物品を管理しているのが、この倉庫だった。2週間前、聖域の街に到達して、この倉庫に物資を運んだ時には、山のように積みあがった物資に驚きと心強さをおぼえていた。


 しかし


「いや、数え間違いはないぞ。なんでだ?ダンジョン内で、そんなに怪我や状態異常にかかることが増えたのか?」


 この3日間、明らかに、傷薬や魔力香、そして、平静剤と言う精神に対する状態異常の回復薬の消費が多くなっていた。特に、平静剤の使用数は明らかに増えている。この町に着くまでに、ダンジョンを2つほど超えたし、今までの2週間、『落ちた大聖堂』の連絡ダンジョンの『黄金の巡礼路』攻略のために、斥候を繰り返していた。その時も、こんなに減っていなかったのに、なぜなのか?


 この3日間で変わったことと言えば、偽聖女が真なる聖女に変わったくらいだ。メルダ王女は、献身的に斥候部隊を回復させているという。そこは、弱い回復魔法すらできない。あの偽聖女とは大きな違いだ。


「…こう考えられないか?ダンジョンに対する進行率が上がりつつあるから、物資の消耗が激しいと?」


「ああ、それなら上も納得するな」


 在庫数の報告をするときには、今までの状況から、変化がある場合には逐一理由を考えないといけなかった。それが、ダンジョンの中層から深層へ斥候が及ぶようになったからと言われれば、確かにそれらしく理由になると感じていたし、前向きな理由として。


「まあ、そんなことは、あり得ないと思うけどな」


「…俺もそう思う」


 一度だけ斥候部隊で、探索に参加したが、モンスターの強さに全く歯が立たず、撤退した。入り口から少し入った表層であれだけの強さだったのだから、中層や深層のモンスターがいかほどの強さなのか、見当もつかない。もし、そのさきの大聖堂はさらに強力なモンスターが徘徊しているのだとしたら…さらにそんなダンジョンがあと3つは存在している…


「なあ、これで本当に足りるのか?」


「さあ、わからねぇ?…」


 俺たちは、言いようのない不安に襲われて、それを消すように、回復薬の在庫数を数え、それを、帳簿に書いていた。そんな時だった。


「・・・・・」


 ぼそぼそとした声とかすかな足音が、隣の棚列から聞こえた。


「なあ、隣って…」


 小声で呼びかけると、わかっていると視線を相方が返して来る。おれたちが数えているのは、共同部分の棚だが、隣3列は、フェリガン団長の所有する、特級パーティと第一から第三パーティの棚。少しでも、質の良い装備や薬は、すぐにそちらに持っていかれてしまう。


 俺たちは、棚の隙間に、息をひそめてそっと待った。俺たちの目の前を小走りで、駆けていく影があった。よく知った顔だった。そいつは、もともとは、下働きのサポーターで入った少し狡い奴だった。リュックをパンパンに膨らませて、あたりを伺っている。


 周りに人の気配がしないことを確認し、そいつは、倉庫から出ていく。きっと、あのリュックの中身は、高級な傷薬や、上質な魔導器の類で、それを聖女メルダへの手土産にするつもりだろう。俺たちは見つからなかったことにほっと胸をなでおろした。

 


 たったの3日間の間に、フラジャイル旅団の様子は大きく変わってしまった。


 

 いままで、団長を中心にして、一枚岩の強固な協力関係を築いていたはずの団員たちの間に、団長派と王女派という派閥が産まれつつあった。団長派は、元騎士や軍人の家系を持つもので構成された武闘派だった。一方の王女派は、教会、貴族、王宮の出身者が中心となった権力の掌握に長けた者たちで構成されていた。大っぴらにはしていないが、すでに双方が、それぞれに旅団本部を設けて、それぞれの支持者で活動しているような体制ができつつある。


 その中で、割を食らっているのが、俺たち平民出身の巡礼者だ。さっきのことを団長派、王女派のどちらに報告しても、待っているのは、残酷な結果だけだろう。


 今のところは噂に過ぎないが、平民出身者がいるパーティは、どちらかの派閥につかないと、今まで使えていた高級な消耗品についても、支給を行わないと脅されてしまうらしい。そして、中には、貴族と軍人の混合パーティだったため、すでにパーティが空中分解の危機に立たされているところもあるとも聞いている。


 ほんの少し前ならば、そんな事態にならないように、オリビア副団長がとりなしてくれたり、実力のあるパーティが間を取り持っていたりしたが、いまは、そんな空気もなくなり、たった3日間のうちに魔法が解けたように、静かに旅団内に亀裂が入り、対立が徐々に表面化しつつあった。


 完全に気配が消えてから、俺は、何気なしに視線を上げ、さっきの男が立っていたところを見た。そこには、棚から零れたのだろうか、無残に踏まれた共同倉庫用の傷薬が落ちていた。


「こんなはずじゃなかったんだがな…」


 俺の発した一言に相方は静かに頷き暗い顔をした。

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