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第一二話

 みんなで、聖王巡礼路に飛び込んでいく。その先は、商人連合国家。馬車で10日ほど本来ならばかかる距離だけど、その事は、全く心配していなかった。


『半年かかってたどり着いたサラディスから、ここまでほんのわずかな時間で移動できたんだ。きっと、商人連合国家にも早くつくはず』


 そう思い、焦る気持ちを押し込めながら、その赤くて不思議な景色が流れるのを見ていることにした。


「リスティル?ちょっといい?」


「なんですか?」


 そんな心の中を悟られたように、オリビアさんが、声をかけてきた。この上下左右がわからない空間の中で、よく、私の隣に来れるなと、本当に感心してしまう。


「さっき、ラーズと話しているのが見えたわ。一体何を話していたの?」


 その関心は、一瞬で吹き飛んだ。まさかみられているなんて思っていなかったから、おもわず、返答に窮した。


「答えたくないというのなら、これ以上は聞かないけど。……昨日の、お姉さまの部屋と違う。って話していたわよね。どういう意味」


 オリビアさんは、流石だと思う。


「どうしてわかったんですか?」


「勘って言ったら悪いけど、読唇術も私自信があるの」


 そこまで、見られていたら仕方がないと思った。


「昨日、バンディーラ様と、あの部屋で出会ったんです。でも、部屋の様子がなんだか、大きく違うような気がして。ただ、どう違うのかって言われると、困るのですけど……」

 その言葉に、オリビアさんは考え込むような表情を浮かべた。


「……マリベルが言っていたの。なんだか今の状況って、コップに入った飲み物を一口飲んで、ほんのわずか目を離したら、隣に全く同じコップに入った、全く同じ飲み物があって、どっちが自分のものなのかわからなくなる。そう言う感じによく似ているって」


 その声に、わたしは……


「オリビアさんもマリベルさんも、おかしいって思っていたのですね」


「ええ、ロンディスはああ見えて結構鈍いけど、ロアはうすうす気が付いているみたい。今が自発的に動いているわけじゃなくて、まるで、何か大きなものの手の上で、動いているみたいって……」


 そこまで話して、オリビアさんは、辺りを見回した。


「ねえ、リスティル、バンディーラは?」


 そう言えば、姿を見ない。ついさっきまで隣にいたはずなんだけど……


 心配になって、辺りを見回した。はぐれたのだろうか?どうしたのだろうか?心配だったけど、それ以上はどうすることもできなかった。


 おもわず、左手でカバンを振れる。そのかばんからは、不格好な人形が顔を出していた。風が吹いていないはずなのに、右手の真円が描かれている旗がかすかに揺らいでいる。なぜなのかはわからないけど、それを見ただけで、不安な気持ちが、薄れていくのを感じた。大丈夫。みんなで、目的地に着く。そう言う確信はあった。


「……さっきまで隣にいたはずなんですけど……どこに行ったのでしょう?」


「相変わらず、ふらふらとしているのね。私たちの聖女様は。本当にあれだけの力を持ちながら、全く導らしいことをしないなんて、本当に不思議よね」


「さあ、バンディーラ様には、バンディーラ様の考えがあるのでしょうから」


「そこよ!」


「はい?」


「バンディーラが何なのかはさておくとして、本当に、バンディーラは何を考えているのかしら?人間離れしたような力を見せたと思ったら、不思議なことばかり言って。挙句の果てにはふらふらとして。もう!」


 ぷんぷんと怒っているオリビアさんを見ていると、つい、口元が緩んでしまったらしい。


「オリビアさんも、そんな風に怒ることがあるのですね」


「当り前よ。前の上司も似たような人で、ふらふらとして大変だったんだから。まあ、私が昇進する時にはもう退官してたけど」


「へえ、どんな人だったんですか?」


「魔法の技術はほんと超一級品で、前の戦争でも一線で活躍してたって聞いているわ。あと、アーレスがすごく慕ってた」


 その声の後に、オリビアさんは、少し沈んだ表情を見せた。


「いなくなってほっとしたけど、アーレスが、本当に沈んだ表情を見せてて。一緒にいようとするルキナの献身が痛々しいほどだったわ」


「そうだったんですね……」


「リスティルは知らないと思うけど、戦場創造者シュガーナや真なる王国の盾ソルテェーラと言ったら、ノルディック侯国でも有名人だったと思うわ。


 ノルディック侯国の鬼軍隊長ラグルスや、赤星の射手ベルグランデがイスペーラ王国で有名であると同時にね」


「え?なんでそこでお姉さまの名前が?」

 

 不意に出た大層な名前に私は驚きを隠すこともできなかった。


「あら?知らなかったの?ベルグランデの戦功は王国では有名よ」


 お姉さまは、わたしには昔のことは、何も教えてくれなかった。きっと、幼かった私を心配していたのだろう。私は、お姉さまに甘えて、いままでお姉さまの何も知ろうとしていこなかった。

 わたしが知らないお姉さまを、知っている人がいる。

 会いたい。会ってお姉さまのことをもっとよく知りたい。



 お願いします。お姉さまと再会できますように、そして、お姉さまが無事であります様に!



 心の中で、かすかに願う。こんな些末な願いを叶えてくれるものがあるわけがない。だけど、どこからともなく、かすかに赤い光を見た気がした。



「出るぞ!!」


 ラーズの声が、どこからともなく響くと、まるで強い力で引かれるように浮き上がっていくのを感じた。

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