第一話
聖剣の始まりのお話
遥か昔、大地の多くは魔族によって支配され、人間はその中で虐げられながらも生き続けてきた。
そんな時だった。人間に神の聖遺物たる、聖剣が与えられた。
聖剣を掲げたものは、自らを聖王と名乗った。同時期に、他の地方に住む女性に聖杯が与えられた。そのものは自らを聖女と名乗り、この地上にはびこる魔族に闘いを挑みました。
それは、ずっと昔のこと。まだ、まだ昔のこと。
「……お前を追放する」
静寂の中、惜別と共に発せられた言葉は祝福となり、地に降り注いだ。
「お前を……追放する」
静恨の中発せられた言葉。天からの祝福は、注がれる器をもち、ようやくに天恵となりうるを得た。
「お前を追放する。」
侮蔑と嘲笑をはらんだ静寂の中発せられた言葉。
祝福と天恵は、やがて……。
「バンディーラ、お前は、フラジャイル旅団から追放する」
団長の部屋は、私たちの部屋と違い、絵が飾られたり、本棚が置かれたりと、とても豪華な造りになっている。初めて入るその部屋の真ん中に立たされて、告げられたのが、追放の言葉だった。
「ええと、何の冗談なんですか?人間として。人数は、問題ないって聞いてましたけど?」
私は、背中に背負った荷物を背負いなおしながら、フェリガン団長に問いかけた。その言葉に、団長の目が鈍く光る・・・ひえっ、こ、怖いよ。
「バンディーラ、君は、この半年何をしていた?」
私は首をかしげながら、その言葉の意味を考えていた。
「ええと、ご飯食べたり、野営地の設営したり、寝てたりしてました」
「いや、違う、ダンジョンでのことだ」
ああ、それかと気が付き、次に思ったことは、
『なんて答えよう』だった。もし、本当のことを言ったらきっと引かれるし、もし、それを見せろと言われたら当然困る。なので、私はいつもの通りに答えることにした。
「応援してました。がんばれー、ガンバレーって」
ダンッ!!フェリガン団長が机を叩いた。つい私は「ひっ」っと声を漏らす。
「応援だ?馬鹿なことを言うな、お前のクラスはなんだ?」
「は、はい、聖女です」
「聖女が旗を振って応援しているだけの旅団がどこにある?」
ここにあります。と一瞬応えそうになったが、そんなことを言ったら、きっと大変なことになると感じた私は、そっと視線をそらしながら、団長に応えることにした。
「聖女という、クラスは、いろいろありますから・・・まあ、怒らない方がいいと思いますよ」
「それだ」
いきなり団長が立ち上がり、私に詰め寄ってくる。って、ちかい、近いです。旗が、顔に旗が当たります。
「聖女はいろいろあるが、回復や攻撃の力があるクラスではないのか?」
「ええと、回復とか光属性の攻撃なら、わたしよりも神官の方が強いです。私はそういう魔法の心得がないので」
「では、聖女とは、何をするクラスなのだ?バンディーラ?」
そんな答えのないことを聞かれると困るんだけど、う~んと、考えている私を、にやにやと笑って見ているフラジャイル団長・・・そろそろ答えを教えてほしいんだけど、私は、仕方なく、教会で言われている定型句を答える。
「聖女とは導です」
「そうだ、聖女、聖者は導となる存在だ。そして、巡礼旅団では、聖都に至る導になる存在だ、バンディーラ。君は、その役目を果たせないのだよ。わかるかね?」
わたしは、はぁっと、肩を丸めて、恍惚とした表情で話す団長を見ていた。
「その役目を果たすものは、我々の旅団の中にいて、そして、その真の聖女がこの間、夢で告げられたのだという『聖都に至れ』。その聖女は、私に自らの力を旅団のために使いたいが、聖女が2人になるのはいけないと言ってくれたのだ。まさにその通りだと思わないかね?」
ようやく、鈍い私にも話が見えてきた。新しい聖女が目覚めた、だから、導が2つにならないように、私は出ていってほしいということだということが。
「ええと、そういうことですか?」
その声に、団長は、満面の笑みで応えた。
「そういうことだ。きみの聖女としての活躍は、感謝しかないが、彼女は、真の聖女なのだ。真の聖女のために旅団の力は使われるべきだと思わないか?」
早口に言われ、肩を持たれがくがくと揺さぶられる。
「ええと・・・つまり、私はどうしたらいいのですか?」
最後に聞いた。今後のことを、その瞬間に、団長の顔色が、呆れたような表情を浮かべた。
「最初に言った通り、旅団に聖女は2人もいらない。他の旅団も聖者聖女はすでに足りている。聖女ならば、やることはわかっているだろう?この町で、暮らしていくことが、お前にとって良い話だと思わないか?」
団長の言うことは正しい。親として、いらない子を放逐するというのは正しい。
異義をはさむわけではない。私に、それに対する反論があるわけではない。
でも、不思議と言葉は自然に出た。
「それは・・・・・・私を聖女から追放していただける。そういうことでいいんですよね?」